歌のふる里

月夜野 すみれ

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魂の還る惑星 第八章 Tistrya -雨の神-

第八章 第一話

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第八章 Tistryaティシュトリヤ-雨の神-

 何日も雨が続いていた。海が荒れている。
 男は船に乗って遠くへ行っている。
 帰ってくるとは思うが見送りにも行かなかったから、もしかしたら戻ってこないかもしれないと思うと不安が募る。
 つまらない意地なんか張らず、せめて見送りに行って帰ってきてくれるように頼めばよかったと後悔していた。
「大変だ!」
 女達が作業しているところに村の男が走ってきた。
「船が難破したらしい」
「なんだって!?」
「船に乗ってたヤツがさっき戻ってきたんだ」
 その男は別の船に助けられ、一度、他の港へ寄港した後ここまで帰ってきたらしい。
 船が難破したのは一ヶ月以上前だと男が言った。
「他の人達は?」
「誰も見つからなかったそうだ」
「その船に、あの人は乗ってた?」
 アトの問いに男が頷いた。
「あいつも船から放り出されてそのまま……」
 それを聞くとアトは海に向かって掛けだした。
「アト! どこ行くんだ! アト!」
 アトはいつも男が歌っていた海辺に立つと海に向かって歌い始めた。
 帰ってきて。
 この唄を聴いて、帰ってきて。
 お願い……。

 小夜は目覚ましが鳴るより前に目を覚ました。
 窓を見ると森が出ていた。
 なんだか、すごく歌いたい。
 小夜は大急ぎで着替えると音楽室に向かった。
 小夜が歌い始めると間もなく柊矢も入ってきてキタラを弾き始めた。

 楸矢が目を覚ますと小夜の歌声とキタラの音が聴こえていた。
 時計に目をやると午前四時を少し過ぎたところだ。
 まだこんな時間……。
 二人とも、ホントに好きだな……。
 ムーシカは止まることもあるが基本的に二十四時間聴こえている。
 数が多くないとはいえムーシコスは世界中にいるから常に誰かが歌っていて余り長く途切れることはないのだ。
 だが今ムーシカを奏でてるムーシコスの中にあの二人以外で日本在住の者はいるのだろうか。
 楸矢は寝返りを打つと、もう一度目をつぶった。

 清美が自分の席で大きな欠伸をした。
「清美、徹夜? また料理の練習?」
「夕辺は旅行の支度」
「出発は三日後でしょ。ていうか、そもそも徹夜するようなこと?」
「だって、何持っていけばいいか分かんなくて……」
 清美はそう言って目をこすった。
「何って、着替えと洗面用具と課題以外に何かある?」
「その着替えが問題なんだよ。毎日楸矢さんと会うんだから好みの服じゃなきゃ。楸矢さんに聞いても清美ちゃんなら何着ても似合うよって言われちゃったし」
「そう……」
 小夜は清美の惚気のろけを冷めた表情で聞いた。
 あれだけ散々、人のこと痛いって言ってたのに……。
「小夜だって毎日柊矢さんと過ごすのに服装悩まないの?」
「今だって毎日一緒だし……」
 何よりクレーイス・エコーとしてムーシケーの意志を探ってそれを実行するという使命のために行くのだ。
 遊びに行くだけの清美ように服装にこだわっている余裕はない。
 もっとも楸矢が柊矢に旅行用の服を買ってやったらどうかと言ってくれたらしく、服が必要か聞かれたが二人きりで行く特別な旅行ならともかく使命のための旅行に余所行よそゆきの服はいらないだろうと思って断った。

 楸矢が音楽室で考え込んでいると柊矢が入って来た。ムーシカが聴こえているからキタラを弾きに来たのだろう。
「あ、柊兄、ちょっといい?」
「どうした?」
「クレーイス・エコーとして行くなら笛は持っていかないとダメだよね。フルートも一緒に持っていくとなると大荷物になっちゃうけど、置いてくと一週間も練習休むことになるし、どうしよう」
「小夜に確認したのか?」
「何を?」
「田舎っていっても野中の一軒家じゃなくて住宅地に建ってるんだからな。防音設備のないところでフルート吹いたりしたら苦情が来るぞ」
「あ、そっか」
フルート奏者プロになりたいわけじゃないんだろ」
「うん」
「なら、別に何日か練習休んだところで構わないだろ」
 楽器の練習は一日休むと取り戻すのに三日かかる。
 だから演奏者は手にケガをしないよう細心の注意を払うのだ。
 だがプロの音楽家を目指しているわけではないなら練習をサボって腕が落ちたところで関係ない。
 確かにフルート奏者を目指していたのは柊矢の代わりに音楽家プロにならなければいけないという使命感によるもので自発的になりたいと思ったわけではない。
 それでも何年間もプロのフルート奏者になるためにやってきたから、そう簡単に切り替えられないのだ。
 そういう意味ではめると決めたら、すっぱりめてしまえた柊矢はすごい。
 ヴァイオリニストを目指していたわけではないというのが嘘ではなかったということを改めて実感した。
 もしも本気でヴァイオリニストを目指していたなら練習を休めばいいなどとは口が裂けても言わないはずだ。
 毎日ヴァイオリンを弾いていたのは本当に演奏が好きだからやっていただけであって、腕が落ちるとか上達したいとか思っていたわけではなかったのだ。
 だからめるのも簡単だったし、ここで弾くのをめたら二度とヴァイオリニストを目指せなくなる、などと未練がましいことも考えなかった。
 それであっさりキタラに乗り換えられたのだろう。
 演奏が出来るなら楽器は何でもよかったのと、キタラならムーシカを奏でることが出来るからヴァイオリンに後ろ髪を引かれることもなかったに違いない。
 小夜のためにしょっちゅうセレナーデを弾いてるところを見ると、案外ヴァイオリンを〝めた〟とすら思ってないのかもしれない。
 演奏さえ出来れば楽器にはこだわらないからキタラでもヴァイオリンでもなんでもいいのだ。だからピアノを弾いてることも珍しくない。
 さすが演奏家キタリステースというべきか。
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