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第五章 紅雨
第五章 第二話
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「まだ意識は戻っていませんが無事です。容態のことは医師から説明があると思います」
「意識がない!?」
「どういう事なんだ! 一体何があった!」
蒼治の父親が噛み付くように言った。
「さっき電話してきたと思ったら……どういう事? あの時、もう知ってたの」
母親が紘彬を責めるように訊ねた。
「現場に落ちてた財布に蒼治の身分証が入ってたけど、病院に搬送された後だったから落としたのが蒼治自身か分からなくて……もしかしたら蒼治は無事で盗った人が落としたって可能性も考えられたので……」
「真美ちゃんも一緒だったの?」
「蒼治のスマホにあった写真の女の子が真美ちゃんなら……そうです」
「事故か?」
「おそらく真美ちゃんの家に強盗が入ったのではないかと……」
「何が起きたのか分からないのか!?」
「被害者で意識がある人が誰もいないので何があったのか聞けなくて……」
その時、老齢の男女が看護師に案内されて処置室に入っていった。
それを見た紘彬が真面目な表情で口を噤んだ。
やがて電子音が止まった。
紘彬が痛ましげな表情で目を伏せる。
「なんだ、どうした」
紘彬の視線を追って処置室を見た蒼治の父が振り返って訊ねた。
「あの人達は真美ちゃんの身内だと思うので……機械を止めたんです」
「機械を止めたって……」
「今、死亡宣告をしているはずです」
「まさか……」
母親が口を覆った。
「蒼治は!?」
「打撲が何カ所かあって肋骨骨折と肩の骨にヒビが。頭部にも打撲傷がありましたがCTスキャンで異常は認められませんでしたし、骨折も完治するはずです。おそらく後遺症は残らないでしょう」
紘彬が説明している時、看護師がやってきて両親に蒼治の病室に案内すると告げた。
「真美ちゃんの事、蒼治になんて言えば……」
母親が助けを求めるように紘彬を見た。
「おばさん達の方が蒼治の事をよく知ってるはずですから様子を見て判断して下さい。ただ、隠していてもいずれはバレるし、ニュースとかで知るよりは……」
蒼治の両親は顔を見合わせると看護師に随いて病室に向かった。
翌朝、紘彬達は捜査会議をしていた。
「高齢者が住んでなかったなら多額の金や高価な物を金庫に仕舞ってたって事は考えづらいッスよね」
「金庫は無かったんだよ」
上田が佐久に言った。
警察官の話によると、隣の家の人がたまたま田中政夫に借りた物を返しに行ったらチャイムを鳴らしても誰も出てこなかった。
だがドアが開くか試したら鍵が開いていた。
それで借りた物を玄関に置いていこうと思ってドアを開けて入ったら男達が家の奥から駆け出してきて、隣人を突き飛ばして逃げていった。
驚いた隣人が家の中に入ると田中政夫一家が倒れていたので通報した。
田中政夫と娘の真美、白山蒼治はリビングに、田中政夫の妻、由美は台所に倒れていた。
田中政夫はダクトテープで口を塞がれ縛られていた。
四人は鈍器で殴られていた。
由美と真美は最初の一撃か二撃目で絶命したようだったが蒼治は一命を取り留めた。
政夫は最初の何度かは死なないように殴られていた。
強盗が金庫の暗証番号などを聞き出す時によくやる手口だ。
問題は金庫がなかった事だ。
金庫の有無や資産状況も知らずに押し入ったのが不可解だった。
「闇サイトとは関係ない強盗とか」
「金庫を開ける必要がないなら強盗より空き巣の方がリスクが低いですよ」
如月が言った。
「金庫もないような家に押し入ってまで盗むような高級品があるとは思えないしな」
「車庫に高級外車が止まっていたから金持ちと間違われたとか」
家の横には車を止めるスペースがあったのだが、簡単な屋根があるだけで囲いがなく車は外から丸見えだった。
「なんであんな高そうな外車置くのにちゃんとした駐車場作ってなかったんスかね」
佐久が紘彬の考えを代弁するかのように言った。
「巡査の話によると田中政夫の車ではないそうだ」
最近よく田中家に止まっているのを見掛けたので警邏中の巡査が、高級外車を見える状態で置いておくのは危険だからせめてシートを掛けるように、と注意すると兄に一時的に場所を貸しているという答えが返ってきたとの事だった。
田中政夫は「兄に伝えておく」と答えていたらしいが事件の時もシートは掛けられていなかった。
「あの家、ダクトテープが置いてありそうに見えたか? 衝動的にやったならともかく、テープを用意してたなら計画的な犯行だろ」
紘彬が言った。
「計画してたなら来客中は避けるのでは」
「手口は闇サイト強盗に似てるんだがな」
団藤が考え込むように言った。
「白山蒼治は高田馬場の事件を見たって話でしたね。あの事件の口封じって線は……」
「それなら蒼治の家に来るはずだろ。彼女が一緒だったとは聞いてないし」
「一緒だった可能性もあるって事ッスよね」
「それなら彼女を家まで送ってるはずだろ。彼女を一人で帰らせて自分だけ紘一と一緒に帰ってきたりはしないはずだ。それに蒼治は証言してないし。口封じなら証言した紘一やクラスメイトの方が先だろ」
「とりあえず聞き込みだ。被害者の親族への聞き込みは桜井、如月。被害者宅の周辺は飯田、佐久。俺と上田は――」
「意識がない!?」
「どういう事なんだ! 一体何があった!」
蒼治の父親が噛み付くように言った。
「さっき電話してきたと思ったら……どういう事? あの時、もう知ってたの」
母親が紘彬を責めるように訊ねた。
「現場に落ちてた財布に蒼治の身分証が入ってたけど、病院に搬送された後だったから落としたのが蒼治自身か分からなくて……もしかしたら蒼治は無事で盗った人が落としたって可能性も考えられたので……」
「真美ちゃんも一緒だったの?」
「蒼治のスマホにあった写真の女の子が真美ちゃんなら……そうです」
「事故か?」
「おそらく真美ちゃんの家に強盗が入ったのではないかと……」
「何が起きたのか分からないのか!?」
「被害者で意識がある人が誰もいないので何があったのか聞けなくて……」
その時、老齢の男女が看護師に案内されて処置室に入っていった。
それを見た紘彬が真面目な表情で口を噤んだ。
やがて電子音が止まった。
紘彬が痛ましげな表情で目を伏せる。
「なんだ、どうした」
紘彬の視線を追って処置室を見た蒼治の父が振り返って訊ねた。
「あの人達は真美ちゃんの身内だと思うので……機械を止めたんです」
「機械を止めたって……」
「今、死亡宣告をしているはずです」
「まさか……」
母親が口を覆った。
「蒼治は!?」
「打撲が何カ所かあって肋骨骨折と肩の骨にヒビが。頭部にも打撲傷がありましたがCTスキャンで異常は認められませんでしたし、骨折も完治するはずです。おそらく後遺症は残らないでしょう」
紘彬が説明している時、看護師がやってきて両親に蒼治の病室に案内すると告げた。
「真美ちゃんの事、蒼治になんて言えば……」
母親が助けを求めるように紘彬を見た。
「おばさん達の方が蒼治の事をよく知ってるはずですから様子を見て判断して下さい。ただ、隠していてもいずれはバレるし、ニュースとかで知るよりは……」
蒼治の両親は顔を見合わせると看護師に随いて病室に向かった。
翌朝、紘彬達は捜査会議をしていた。
「高齢者が住んでなかったなら多額の金や高価な物を金庫に仕舞ってたって事は考えづらいッスよね」
「金庫は無かったんだよ」
上田が佐久に言った。
警察官の話によると、隣の家の人がたまたま田中政夫に借りた物を返しに行ったらチャイムを鳴らしても誰も出てこなかった。
だがドアが開くか試したら鍵が開いていた。
それで借りた物を玄関に置いていこうと思ってドアを開けて入ったら男達が家の奥から駆け出してきて、隣人を突き飛ばして逃げていった。
驚いた隣人が家の中に入ると田中政夫一家が倒れていたので通報した。
田中政夫と娘の真美、白山蒼治はリビングに、田中政夫の妻、由美は台所に倒れていた。
田中政夫はダクトテープで口を塞がれ縛られていた。
四人は鈍器で殴られていた。
由美と真美は最初の一撃か二撃目で絶命したようだったが蒼治は一命を取り留めた。
政夫は最初の何度かは死なないように殴られていた。
強盗が金庫の暗証番号などを聞き出す時によくやる手口だ。
問題は金庫がなかった事だ。
金庫の有無や資産状況も知らずに押し入ったのが不可解だった。
「闇サイトとは関係ない強盗とか」
「金庫を開ける必要がないなら強盗より空き巣の方がリスクが低いですよ」
如月が言った。
「金庫もないような家に押し入ってまで盗むような高級品があるとは思えないしな」
「車庫に高級外車が止まっていたから金持ちと間違われたとか」
家の横には車を止めるスペースがあったのだが、簡単な屋根があるだけで囲いがなく車は外から丸見えだった。
「なんであんな高そうな外車置くのにちゃんとした駐車場作ってなかったんスかね」
佐久が紘彬の考えを代弁するかのように言った。
「巡査の話によると田中政夫の車ではないそうだ」
最近よく田中家に止まっているのを見掛けたので警邏中の巡査が、高級外車を見える状態で置いておくのは危険だからせめてシートを掛けるように、と注意すると兄に一時的に場所を貸しているという答えが返ってきたとの事だった。
田中政夫は「兄に伝えておく」と答えていたらしいが事件の時もシートは掛けられていなかった。
「あの家、ダクトテープが置いてありそうに見えたか? 衝動的にやったならともかく、テープを用意してたなら計画的な犯行だろ」
紘彬が言った。
「計画してたなら来客中は避けるのでは」
「手口は闇サイト強盗に似てるんだがな」
団藤が考え込むように言った。
「白山蒼治は高田馬場の事件を見たって話でしたね。あの事件の口封じって線は……」
「それなら蒼治の家に来るはずだろ。彼女が一緒だったとは聞いてないし」
「一緒だった可能性もあるって事ッスよね」
「それなら彼女を家まで送ってるはずだろ。彼女を一人で帰らせて自分だけ紘一と一緒に帰ってきたりはしないはずだ。それに蒼治は証言してないし。口封じなら証言した紘一やクラスメイトの方が先だろ」
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