念願の転生を果たしたが、転生先は悪役令嬢付きのモブメイド!?お嬢様を更生させないとバットエンドってマジですか?

りんげる

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推しの世界を夢に見てる!え、これ転生なんですか!? ①

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 バッドエンド? 要は“悲惨な結末”のこと。
 ……で、笑えないのは私の人生そのものが、どうやらそっちに進んでるってこと!
 転生したと気づいたとき、やっと悟った。
「やばい、私これフラグ立ってるやつだ!」


 私、阿部澄香には昔から溺愛してやまない作品がある。
 その名も──『ムーンライトに誘われて』!  、王道乙女ゲームの金字塔だ。

 月夜の晩に運命的な出会いを果たした王子とヒロイン。
 すれ違いも乗り越えて、少しずつ愛を育み、最後は満月の下で結ばれる……という、超王道で胸キュン必至の物語である。

 ……はい、もう一生推せます。



 そんな愛しの作品にどっぷり浸かりたい私は、日々あらゆる“オタ活”に全力投球していた。

 Twitterでひたすら考察を垂れ流し、好きなシーンの台詞をスクショにしては何度も見返す。もちろん推しカプの尊さを語るために一人プレゼン大会も開催。
 ……そう、完結済み作品で供給ゼロだからこそ、自力で燃料を作り出すしかないのだ。

 けれどそれでも飢えは収まらず、最終的に私は「夢で続きを見る」方向にシフトした。
 夜な夜な「望む夢を見る儀式」なるものを試しては、結果はだいたい惨敗。見た夢といえば仕事でハチャメチャにミスをして怒られるとか、全然ロマンがないやつ。

 でも諦めきれず、今日はワンランク上の試み。夕食にお手製フレンチ風コースをきっちり完食し、寝る前の儀式を開始。
 今夜の供物は──私の書いた二次創作小説!
 ページを枕元に捧げ、両手を合わせて祈る。

「公式よ、どうか私に推し展開の夢を……!」

 ……うん、自分でも分かってる。ここまでくると立派なイタイ人種だって。


 ひとしきり祈り終えたあと、ベッドに潜り込む。
 明日になれば、またいつも通りのつまらない日常が始まる。
 別に大きな不満がある訳ではない。
 ただ、淡々とした毎日にほんの少しの彩りをくれるのが、この作品だった。

「どうか今日こそ、推したちに会えますように……」

 ぽつりと落とした呟きは、部屋の暗さに溶けていく。
 そして私は、その願いにすがるように静かに眠りについた。


 ――チュンチュン……鳥のさえずり? え、私の部屋ってこんなに明るかったっけ?

 ぼんやりしながら重たい瞼を持ち上げると、そこは見慣れた自室じゃなかった。

「夢……? 本当に夢見れてるの……?」

 ふと視界に入ったのは、壁にかかった一着のメイド服。
 シンプルだけど、胸元に小さく入った刺繍――これ、小説で何度も出てきたあの“有名ブランド”じゃん!

 間違いない。今私がいるのは――『ムーンライトに誘われて』の世界だ!!

「やったー!  ついに来た!  私、ほんとに推しの世界にダイブしたんですけど!?」

 ベッドの上でバタバタとはしゃぐ私。自分で言うのもなんだけど、テンション爆上がりである。

 うるっと目が潤む。感動で泣きそう。いや泣いてる場合じゃない! こんなの、はしゃぎすぎて目が覚めちゃったら最悪だし!

 深呼吸ひとつ。落ち着け私、冷静にいこう。そう言い聞かせながら、いそいそと慣れないメイド服に袖を通す。
 鏡を見ようとしたが、夢で鏡は見ない方がいいって聞いた事ある。ここから怖い夢に変わってもイヤだからやめとこ。

 一通り身支度を整えて、ドアを開ける。
 廊下を歩いていくと、数人のメイドたちが同じ方向へ進んでいるのが見えた。

「よし、ここはひとまず“NPCに紛れるプレイ”だね」

 屋敷の全体像まではまだ把握してない。だから私は、彼女たちのあとをこっそり追いかけることにした。


 ……ここがどこなのか正直まだよく分からない。
 でもこれはきっと夢。だったら無理に抗わず、成り行きに任せてみるのもアリじゃない?
  夢の中でイベントに突入したって思えば、ちょっとワクワクするし。

「ベス、おはようー。今日は早いんだねぇ。」

 背後から声をかけられ、思わずビクッと振り返る。
 視線の先にいたのは、栗毛の短髪でのんびりした雰囲気の子。しかも呼ばれたのは――私!?

 ええっと……誰??  NPC?  サブキャラ??


「おはよう。なんだか早く目が覚めちゃって。そっちも眠そうだね。」

「今日はお嬢様当番の日だしねー、早く起きてちゃんと準備しないと怒られちゃうし。ベスも今日一緒に当番でしょー?」


 ……なるほど、夢のシナリオ的に“お嬢様当番イベント”が発動したわけね。理解した。


「そうだね、もう行かないと。せっかく早起きしたんだから。」


 私は栗毛の娘を促して歩き始める。――が、今の会話でもこの子の名前は分からず。どうしよう。攻略本プリーズ。


 それにしても、お嬢様って誰のこと?
 まさか――原作ヒロインのエルテノ・ブラン!?
 主人公との運命のワンシーンを、この目で見られちゃったりするのかも!?  と胸が高鳴る。

 ……が、連れてこられたのはどう見ても使用人用の食堂だった。え、ここ?
 期待がふわっとしぼむ。

 まだピーク前なのか、席は空いていて余裕がある。
 私も栗毛の娘に習ってトレイを手に取り、食事をよそう。
 そのとき背後から声が飛んできた。

「お、リズリー。今日お嬢様当番なんだって~。地雷踏まないよう頑張れ~。まぁベスと一緒なら大丈夫か」

「大丈夫だよー、今日は早起きして気合い入れてきたからー」

 声の主は赤毛をきれいにシニヨンにまとめたメイド。明るく笑う姿に見覚えがある。
 そうだ、ヒューロ・ロッソ。原作でも快活で人望の厚いメイドとして端々に登場していた人物だ。
 ……でもあれ? 彼女、登場時は短髪じゃなかったっけ?

 そして栗毛の娘の名前はリズリーだと判明。のんびり屋っぽい雰囲気だけど、どうやら周囲では当たり前の存在らしい。
 でも原作にはこんな子いなかったはず……。夢だから勝手に補完されてる?

 それに――ヒロインのエルテノって、そんなに怒りっぽい設定だったっけ?
 胸の奥に、ほんの小さな違和感が芽生えた。
 
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