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EP01「女魔術師、奴隷を買う」
SCENE-004 >> 見られて恥ずかしい体ではない
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「女将ー。今日からこれも一緒に泊まるから、食事は二人分でよろしく」
「あいよ。部屋はそのままでいいのかい? 今なら二人部屋も空きがあるよ」
「あー……どうしよっかな」
お金を出すのは私だから、今のところ無収入のヒモでしかないラルに決定権はないわけだけど。
顔色を窺うというわけでもなく。なんとなし、後ろに突っ立っているラルを振り返ると。ずっと私のことを見ていたらしい男と目が合って。こくん、と頷き返される。
「床でいい」
逆の立場なら絶対に御免だけど。ラル的に宿で床寝はありらしい。
「本人がいいって言ってるから、部屋はそのままで」
「気が変わったら早めに言うんだよ。食堂を開ける時間になったら忙しくて構ってられなくなるからね」
「ういーっ」
「ちょいと待ちな!」
じゃあそういうことで、と宿の受け付けとして使われているカウンターの前を通り過ぎようとしたところを呼び止められる。
「部屋に上げる前にその小汚い格好をなんとかおしよ」
振り向いたところへ投げて寄越されたのは、泊まり客が使える風呂場の鍵だった。
奴隷商館から連れてきてそのままの、壊滅的というわけではないけどまぁ小汚いかな、というラルの汚れ具合は、たとえ床で寝させてベッドに上げないのだとしても、綺麗好きの女将的にはNGだったらしい。
全体的な清潔さと風呂付きということで宿を選んでいるお客としては、女将の拘りにつきあうのもやぶさかではなかった。
「まだ時間早いけど、もう入れるの?」
「いんや。水汲みもまだだから、沸かすところまでやってくれるんなら薪代と言わず夕食もタダでいいよ」
「わぁい」
そういうわけで。小汚い男を連れて風呂場にてくてく。
「そこで服脱いだら中に来て」
脱衣所を素通りして浴室に直行した私が魔法でちゃちゃっと浴槽に水を張りお湯を沸かしているうちに恥ずかしげもなく全裸のラルがやってきたので、魔法鞄になっているポーチから取り出したお風呂セットを渡しておく。
「石鹸はこれ使って。私が好きな匂いのやつ」
使いかけ、かつ女物の石鹸を渡されてもラルはこくん、と頷くだけだった。
能面かというほど表情筋が仕事をしていないから、ラルが何を考えているのかいまいちわかりにくいけど。この魔力量で感情に起因する魔力の揺らぎをまったく表に出さずにいるというのも難しいだろうから、これといって不満はないのだろう。
もくもくと湯気で曇ってきた浴室から脱衣所に戻って間の扉を閉めようとすると。なんの気配もなく中からがしっ、と扉を掴まれて。思わずびくりと体が跳ねた。
「うわっ」
びっくりした……と呟く私のことを、お湯を被って濡れ鼠のラルが見下ろしてくる。
「どこへ?」
声、ひっくぅ……。
ためしに体ごとぶつかるよう押してみた扉はびくともしないどころか、無表情で見下ろしてくるラルの片手の力でじわじわと開いていく始末。
(どんな腕力してるのよ)
めいっぱい押していた扉からぱっ、と手を放しても、ラルががっちりと掴んでいる扉が私の方にばたんっと開いてくる……なんてことにはならなかった。
「湯気で脱衣所が湿気っちゃうから閉めようとしただけだってば……気配も足音もなく距離詰めてこないでよびっくりするから」
「……どこにも行かない?」
「着替えを用意したら戻るから」
思案するような間を置いて。ラルはこくん、と頷くと浴室に引っ込んでいった。
「心臓に悪い……」
びっくりしすぎて今更ドキドキしてきた胸を押さえながら、閉じた扉に寄りかかって息を吐く。
(置いて行かれるのが地雷なのか……?)
仮にそうだとして、だからどうしたという話ではある。
ラルがさっきまで着ていた、いかにも奴隷の服っぽい簡素な貫頭衣とズボンを、私が独断と偏見で買ってきた服と取り替えて。ついでに私もお風呂に入ってしまおうと、身に付けていた装備に手をかける。
外した装備と脱いだ服をポーチにぽいぽい放り込み、最後に残ったポーチだけを持って浴室に戻ると、ラルはしっかり泡だらけになっていた。
「あいよ。部屋はそのままでいいのかい? 今なら二人部屋も空きがあるよ」
「あー……どうしよっかな」
お金を出すのは私だから、今のところ無収入のヒモでしかないラルに決定権はないわけだけど。
顔色を窺うというわけでもなく。なんとなし、後ろに突っ立っているラルを振り返ると。ずっと私のことを見ていたらしい男と目が合って。こくん、と頷き返される。
「床でいい」
逆の立場なら絶対に御免だけど。ラル的に宿で床寝はありらしい。
「本人がいいって言ってるから、部屋はそのままで」
「気が変わったら早めに言うんだよ。食堂を開ける時間になったら忙しくて構ってられなくなるからね」
「ういーっ」
「ちょいと待ちな!」
じゃあそういうことで、と宿の受け付けとして使われているカウンターの前を通り過ぎようとしたところを呼び止められる。
「部屋に上げる前にその小汚い格好をなんとかおしよ」
振り向いたところへ投げて寄越されたのは、泊まり客が使える風呂場の鍵だった。
奴隷商館から連れてきてそのままの、壊滅的というわけではないけどまぁ小汚いかな、というラルの汚れ具合は、たとえ床で寝させてベッドに上げないのだとしても、綺麗好きの女将的にはNGだったらしい。
全体的な清潔さと風呂付きということで宿を選んでいるお客としては、女将の拘りにつきあうのもやぶさかではなかった。
「まだ時間早いけど、もう入れるの?」
「いんや。水汲みもまだだから、沸かすところまでやってくれるんなら薪代と言わず夕食もタダでいいよ」
「わぁい」
そういうわけで。小汚い男を連れて風呂場にてくてく。
「そこで服脱いだら中に来て」
脱衣所を素通りして浴室に直行した私が魔法でちゃちゃっと浴槽に水を張りお湯を沸かしているうちに恥ずかしげもなく全裸のラルがやってきたので、魔法鞄になっているポーチから取り出したお風呂セットを渡しておく。
「石鹸はこれ使って。私が好きな匂いのやつ」
使いかけ、かつ女物の石鹸を渡されてもラルはこくん、と頷くだけだった。
能面かというほど表情筋が仕事をしていないから、ラルが何を考えているのかいまいちわかりにくいけど。この魔力量で感情に起因する魔力の揺らぎをまったく表に出さずにいるというのも難しいだろうから、これといって不満はないのだろう。
もくもくと湯気で曇ってきた浴室から脱衣所に戻って間の扉を閉めようとすると。なんの気配もなく中からがしっ、と扉を掴まれて。思わずびくりと体が跳ねた。
「うわっ」
びっくりした……と呟く私のことを、お湯を被って濡れ鼠のラルが見下ろしてくる。
「どこへ?」
声、ひっくぅ……。
ためしに体ごとぶつかるよう押してみた扉はびくともしないどころか、無表情で見下ろしてくるラルの片手の力でじわじわと開いていく始末。
(どんな腕力してるのよ)
めいっぱい押していた扉からぱっ、と手を放しても、ラルががっちりと掴んでいる扉が私の方にばたんっと開いてくる……なんてことにはならなかった。
「湯気で脱衣所が湿気っちゃうから閉めようとしただけだってば……気配も足音もなく距離詰めてこないでよびっくりするから」
「……どこにも行かない?」
「着替えを用意したら戻るから」
思案するような間を置いて。ラルはこくん、と頷くと浴室に引っ込んでいった。
「心臓に悪い……」
びっくりしすぎて今更ドキドキしてきた胸を押さえながら、閉じた扉に寄りかかって息を吐く。
(置いて行かれるのが地雷なのか……?)
仮にそうだとして、だからどうしたという話ではある。
ラルがさっきまで着ていた、いかにも奴隷の服っぽい簡素な貫頭衣とズボンを、私が独断と偏見で買ってきた服と取り替えて。ついでに私もお風呂に入ってしまおうと、身に付けていた装備に手をかける。
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