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EP01「女魔術師、奴隷を買う」
SCENE-016 >> 命懸けの献身
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「森の外まで送ってくれる?」
わふん、と犬のように鳴いて答えた四つ足の魔物についていき、きちんと整備された遊歩道のようなだらかな道を五分も歩けば、辺りの空気が如実に変わる。
霊樹から生まれる精霊や魔物たちにとっての「森」は、妖精郷を維持している「霊樹の力が及ぶ範囲」と同義だ。
その外側までは妖精の小径も届かない。
ふつりと途切れた魔法の気配に、私も足を止めた。
森の外まで、と私に言われたから。
人の感覚でいう森の端――不規則に連なる木々の途切れる場所――まであと少し、という中途半端なところで足を止めた魔物が、その場で行儀良くおすわりをして。ゆったりと左右に揺れる尻尾で地面を掃きながら、次はどうするの? と声もなく尋ねるよう、無邪気な瞳で見つめてくる。
「ご苦労さま」
その姿をかわいいな、と思いはするけど。それはそれ、これはこれ。
「お前の役目はこれでおしまいよ。母なる霊樹の元へおかえり」
遠回しに死ね、と告げた私に、四つ足の魔物は最期まで従順に振る舞った。
くぅーん……と喉を鳴らし、深々とお辞儀でもするよう鼻先を下げた魔物の体が、地面にぱったりと倒れて動かなくなる。
「これは……?」
「死んだのよ」
四つ足の、犬に似た魔物の輪郭は、やがて編み物がほつれるよう、端から空気に溶け消えていった。
力尽きた魔物は死体を残さない。
残されるのは、精霊が愛してやまない人の子へと与える聖晶――蜜色の魔力結晶――によく似た、血色の魔力結晶が一つきり。
魔晶と呼ばれるこれこそが、私のハンターとしての主な収入源だ。
「これを一つ換金するだけで金貨十枚にもなるの。ぼろい商売でしょう」
拾い上げた魔晶を手の上で転がしながら歩き出すと、人々が「森」の端であり、人里との境界だと考えているエリアがじきに見えてくる。
きっちりと境界線を引くよう築かれた壁の高さと厚みが、人々が魔物に対して抱く恐れの大きさを端的に表していた。
この世界でただ「魔法」と呼ばれている超常の力が、魔物には一切通用しないから。
私にとっては、たまにやんちゃをするペットのようなものだけど。精霊と同じく森で生まれ、野生の獣やハンターを狩り、力をつけた末に人里へと下りてくるようになった魔物は、街で安穏と暮らしているような人々にとっては一種の災害だ。
安全だと思える場所に閉じこもり、息を潜め、どうか自分だけは助かりますようにと祈りながら過ぎ去るのをただ待つことしかできない、絶望的なまでの脅威。
精霊――無条件に人を愛する善性の存在――に甘やかされて育ったこの世界の人々は、精霊と同じ「霊樹から生まれ出た存在」である魔物に抗う術を持たない。
だからこそ、魔物以外のものを相手取るのとでは比べものにならないほど危険な――けれど、人々の平和な暮らしを守るためには欠かすことのできない――魔物狩りに対する報奨金は破格。魔物の討伐証明となる魔晶は、その大きさや質――魔物自体の強さ――にかかわらず、一つにつき金貨十枚もの大金で引き取ってもらえるわけで。
森に入るたび、安定して魔晶を手に入れられる私にとってはいい小遣い稼ぎだ。
わふん、と犬のように鳴いて答えた四つ足の魔物についていき、きちんと整備された遊歩道のようなだらかな道を五分も歩けば、辺りの空気が如実に変わる。
霊樹から生まれる精霊や魔物たちにとっての「森」は、妖精郷を維持している「霊樹の力が及ぶ範囲」と同義だ。
その外側までは妖精の小径も届かない。
ふつりと途切れた魔法の気配に、私も足を止めた。
森の外まで、と私に言われたから。
人の感覚でいう森の端――不規則に連なる木々の途切れる場所――まであと少し、という中途半端なところで足を止めた魔物が、その場で行儀良くおすわりをして。ゆったりと左右に揺れる尻尾で地面を掃きながら、次はどうするの? と声もなく尋ねるよう、無邪気な瞳で見つめてくる。
「ご苦労さま」
その姿をかわいいな、と思いはするけど。それはそれ、これはこれ。
「お前の役目はこれでおしまいよ。母なる霊樹の元へおかえり」
遠回しに死ね、と告げた私に、四つ足の魔物は最期まで従順に振る舞った。
くぅーん……と喉を鳴らし、深々とお辞儀でもするよう鼻先を下げた魔物の体が、地面にぱったりと倒れて動かなくなる。
「これは……?」
「死んだのよ」
四つ足の、犬に似た魔物の輪郭は、やがて編み物がほつれるよう、端から空気に溶け消えていった。
力尽きた魔物は死体を残さない。
残されるのは、精霊が愛してやまない人の子へと与える聖晶――蜜色の魔力結晶――によく似た、血色の魔力結晶が一つきり。
魔晶と呼ばれるこれこそが、私のハンターとしての主な収入源だ。
「これを一つ換金するだけで金貨十枚にもなるの。ぼろい商売でしょう」
拾い上げた魔晶を手の上で転がしながら歩き出すと、人々が「森」の端であり、人里との境界だと考えているエリアがじきに見えてくる。
きっちりと境界線を引くよう築かれた壁の高さと厚みが、人々が魔物に対して抱く恐れの大きさを端的に表していた。
この世界でただ「魔法」と呼ばれている超常の力が、魔物には一切通用しないから。
私にとっては、たまにやんちゃをするペットのようなものだけど。精霊と同じく森で生まれ、野生の獣やハンターを狩り、力をつけた末に人里へと下りてくるようになった魔物は、街で安穏と暮らしているような人々にとっては一種の災害だ。
安全だと思える場所に閉じこもり、息を潜め、どうか自分だけは助かりますようにと祈りながら過ぎ去るのをただ待つことしかできない、絶望的なまでの脅威。
精霊――無条件に人を愛する善性の存在――に甘やかされて育ったこの世界の人々は、精霊と同じ「霊樹から生まれ出た存在」である魔物に抗う術を持たない。
だからこそ、魔物以外のものを相手取るのとでは比べものにならないほど危険な――けれど、人々の平和な暮らしを守るためには欠かすことのできない――魔物狩りに対する報奨金は破格。魔物の討伐証明となる魔晶は、その大きさや質――魔物自体の強さ――にかかわらず、一つにつき金貨十枚もの大金で引き取ってもらえるわけで。
森に入るたび、安定して魔晶を手に入れられる私にとってはいい小遣い稼ぎだ。
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