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RE015

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「扶桑が居残ってるってことは、粗方の説明終わってる?」
「伊月ちゃんがメビウスクラインで、この先もうちに居てくれるつもりがあるってことくらいはね」
 襲の隣へ本格的に座り込んだ伊月の正面からずれ、視界の端まで下がった扶桑は控えめに目を伏せる。
 待機姿勢をとり、まるでよくできたマネキンのよう動かなくなった自動人形オートマタの、風に揺られるスカートを見るともなしに眺めながら。伊月は座椅子代わりとばかりに遠慮無くキリエへもたれ、分厚い敷居から裸足の足を投げ出した。
「出て行って欲しいならそうするけど」
「鏡夜くんも連れて?
 それされると、護家八坂が終わっちゃうんだよなぁ」
「残ったって、そう長続きはしないわよ」
 メビウスクライン。――魂を漂白され損なった生まれ代わりが「稀にある」と認知された世の中でも、いざ自分の子供がまったくの別人として生きた前世の記憶を取り戻したとき、当たり前にそれまでどおりの愛情を注ぐことができる親は多くない。
 半々、あるいはそれ以上の確率で家族というものがどこかしら、何かしらがおかしくなり、最後には壊れてしまうのが「普通」のことだと、伊月は知っていた。
「それとも、後妻でも娶る気になった?」
 そのうえで、可能な限り「家族ごっこ」を続けたいと考えているのは襲にしても同じことだろうと、冷めた計算を巡らせてもいる。
「僕、君たちのお母さん一筋だから」
「あっそう」
 皇国の守護という大義を果たすため、里に属する討滅士の大半を失い、滅びに瀕した護家八坂。
 身命を賭した忠義へ、皇国を統べる皇主は護家八坂に再興の機会を与えることで報いた。

 その結果がなのだから、笑い話にもなりはしない。
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