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RE127 あらかじめ用意しておいた「身代わり」を消費して即死攻撃を回避するタイプの護符
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霊魂を持ち名を与えられたところで、生まれたての眷属など即席の使い魔と大して変わらない。
使い魔の核として機能していた魔力結晶を霊魂そのもの結晶に埋め込まれた伊月の眷属――日嗣――は、名も無き使い魔がそうであったよう、伊月という魔術師に操られるがままその手足の延長として働いた。
それまで向かってくる討滅士を無力化するに留まっていた暴威が、戦う術を持たない徒人へと向けられて。その質量にあかせ、禁苑の敷地内に点在する建物の幾つかを呑み込んだ眷属が、無色透明の魔水で形作られた体の内側へと取り込んだ徒人を伊月に差し出す。
「日代に仕える者として、尊重すべき相手を蔑ろにした。その報いを受けさせてあげる」
眷属の体内に取り込まれた時点で意識を失っている徒人たちへ、毒を注ぐように囁きながら。それぞれの胸から、伊月は等しく「霊魂の欠片」を抜き取った。
「扶桑、来て」
倭樹の圏内に呼び出された扶桑樹のオートマタが、伊月の手から砂粒ほどの心臓結晶を受け取る。
「お守りにして彩花に持たせるから、普段使いのしやすそうなアクセサリーに加工しておいて。封入する魔術式は防御系中心で、候補を私のデバイスに」
「承りました」
妹に持たせるアミュレット用の素材調達が、伊月にとっての「本命」。
禁苑での所要を済ませ、子供の腕に一抱え分ほどの魔水と共に日嗣――眷属としての霊魂そのものである心臓結晶――を回収した伊月が、キリエを振り返る。
「固有領域に」
言われるがまま、キリエは影を渡った。
倭樹の圏内から、扶桑樹に紐付いた亜空間へ。
固有領域の中庭に連れ出された伊月はまず、両手に抱えていた眷属を、インスミールの根方に水場のよう設えられた魔力溜まり――皇国で言うところの神泉――へと放す。
それから、控えめな欠伸を一つ。
「疲れた?」
「〔杯の魔女〕をこんなに使ったのは初めてだから、ちょっとだけ」
ブルーブラッドの異能を使ったことによる疲労は、キリエが(伊月という〔花嫁〕を見初めた吸血鬼として)有り余る魔力にあかせ、どうにかしてやれる類のものではなかった。
「御神木に繋いだままなら抵抗らしい抵抗もできないだろうし、数が多くても大丈夫だと思ったんだけど……」
ゆるゆると力の抜け落ちていく肢体。
温かく、柔らかな重みがキリエの腕にのしかかる。
「少しだけ休む」
静かに目を伏せ、大きく吸い込んだ息を吐き出して、それっきり。
「おやすみ」
ろくでもない吸血鬼の腕の中で眠りに落ちた〔花嫁〕が目を覚ますまで。預けられた肢体を、キリエは大事に抱えたままでいた。
使い魔の核として機能していた魔力結晶を霊魂そのもの結晶に埋め込まれた伊月の眷属――日嗣――は、名も無き使い魔がそうであったよう、伊月という魔術師に操られるがままその手足の延長として働いた。
それまで向かってくる討滅士を無力化するに留まっていた暴威が、戦う術を持たない徒人へと向けられて。その質量にあかせ、禁苑の敷地内に点在する建物の幾つかを呑み込んだ眷属が、無色透明の魔水で形作られた体の内側へと取り込んだ徒人を伊月に差し出す。
「日代に仕える者として、尊重すべき相手を蔑ろにした。その報いを受けさせてあげる」
眷属の体内に取り込まれた時点で意識を失っている徒人たちへ、毒を注ぐように囁きながら。それぞれの胸から、伊月は等しく「霊魂の欠片」を抜き取った。
「扶桑、来て」
倭樹の圏内に呼び出された扶桑樹のオートマタが、伊月の手から砂粒ほどの心臓結晶を受け取る。
「お守りにして彩花に持たせるから、普段使いのしやすそうなアクセサリーに加工しておいて。封入する魔術式は防御系中心で、候補を私のデバイスに」
「承りました」
妹に持たせるアミュレット用の素材調達が、伊月にとっての「本命」。
禁苑での所要を済ませ、子供の腕に一抱え分ほどの魔水と共に日嗣――眷属としての霊魂そのものである心臓結晶――を回収した伊月が、キリエを振り返る。
「固有領域に」
言われるがまま、キリエは影を渡った。
倭樹の圏内から、扶桑樹に紐付いた亜空間へ。
固有領域の中庭に連れ出された伊月はまず、両手に抱えていた眷属を、インスミールの根方に水場のよう設えられた魔力溜まり――皇国で言うところの神泉――へと放す。
それから、控えめな欠伸を一つ。
「疲れた?」
「〔杯の魔女〕をこんなに使ったのは初めてだから、ちょっとだけ」
ブルーブラッドの異能を使ったことによる疲労は、キリエが(伊月という〔花嫁〕を見初めた吸血鬼として)有り余る魔力にあかせ、どうにかしてやれる類のものではなかった。
「御神木に繋いだままなら抵抗らしい抵抗もできないだろうし、数が多くても大丈夫だと思ったんだけど……」
ゆるゆると力の抜け落ちていく肢体。
温かく、柔らかな重みがキリエの腕にのしかかる。
「少しだけ休む」
静かに目を伏せ、大きく吸い込んだ息を吐き出して、それっきり。
「おやすみ」
ろくでもない吸血鬼の腕の中で眠りに落ちた〔花嫁〕が目を覚ますまで。預けられた肢体を、キリエは大事に抱えたままでいた。
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