マテリアー

永井 彰

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プロローグ

希望

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 王国マテリアー。

 千年の王国と呼ばれる、かの国に長く伝わるのが次の長詩ながうただ。


 マテリアー。偉大なる永遠の国。

 その気高き王の大なるを統べるは、遥か天空の太陽でさえ知る所なり。
 そして、その勇敢な民の小なるを支えるは、深き海の底まで轟く所なり。

 いつかの危機を乗り越え、いつかの約束を果たす我らの誇りこそ、魂の杖に込めん。
 魂の杖に守られしは、全ての希望なり。
 無限の祈りを受けて光る明日こそが希望と知る限り、未来という道は、とこしえの輝きとならん。


『永遠の言葉』として今に伝わる、その歌を熱心に聞く少女が一人。

 マテリアーの幼き王女、スフィアだ。

「ご先祖さまが作った、とても素晴らしい歌。いつまでも聞いていたい」

 歌っているのは、世界中を旅してきたという吟遊詩人のワレスだ。
 そして、その溢れんばかりの情熱と愛に満ちた歌声を、謁見の間にいる皆が拍手で讃えていた。

 マテリアー王国に建つ、王たち高貴な者の住まい。マテリアーの城で今、開かれているのは、幼き姫の誕生日を祝う大記念会。

「大儀であった。皆の者、更に拍手を。ねぎらいと感謝の心で、最高の祝いに答えようぞ」

 マテリアー国王であるレゼットは、重々しくなり過ぎない程度に力強く、そう告げた。
 二階に位置する謁見の間。その階下では、会食、つまり食事の時間に向けての準備も並んで進んでいる。
 誕生会などの大きな行事の当日は、いつもより余裕のある段取りを組むのが古くよりの習わし。とは言え、ますます栄えていくマテリアー王国は、急ぎ進めなければ間に合わない仕事も増えてきた。
 城内の者たちにとって苦しくはあるが、それ以上に、未来への足取りが確かである喜びなのである。

 一方、城の東側にそびえる魔法の搭。そこで、ある異変が起きていた。

 長きに渡り安置されてきた、古い魔法人形たちが動き出したのだ。

 ふわりと宙に浮かび、不敵に微笑む人形たち。そして、彼らが向かったのはやはり、レゼット王のおわす場所であった。

 ケタ。ケタケタ。

 古さのあまりに軋む関節の音は、人形たちの嘲笑いのようだ。そう思うのが先か、物凄い速さで謁見の間に入り込んで来たのは魔法人形のリーダー格、ゾーンだ。

 ガリガリ。ガリガリ。

 他の人形たちと比べ物にならないほど、いびつな音を立てるゾーン。
 それは、強すぎる力を持つゾーンに施された、封印の糸が少しずつ切れている音なのだが、その事は王ですら知らない。
 人形たちの存在自体、長い歴史の中で風化した人々の記憶には薄くも残っていないのだ。

 ほんのわずかな魔力があるからと偶然に拾われたのであろう、創られし存在が何の因果か、恩義を裏切り謀反を起こした。

 それからの王国がどうなったか。
 その詳細は、あまりに酷なために語る事が出来ない。

 王国は、崩壊した。

 そして、魂の杖は行方知れずになった。

 王国の民たちは逃げ延びた者も少なくないが、邪悪な魔法人形は人の存在に敏感であり、命を狙われ続ける実力者たちは次々に敗れていった。

 レゼットは王たる鍛練を積んだ君子であり、決して人形たちにも引けを取らなかった。
 だが、そんなレゼットにも弱点があった。

 一人娘のスフィアだ。

 彼女をかばうようにして朽ちていったその姿は、スフィアにとって暗黒の記憶となった。
 そして、更なる悲劇であるのは、人形たちを動かした黒幕だ。


 吟遊詩人のワレス。
 その肩書きは偽りであり、世界を恐怖と混沌に陥れるために人知れず悪の王となった、大魔王だったのだ。


 優しい人たち、温かい人たちが倒れていく。
 スフィアは祈った。心の底から、何もかもを取り戻し、希望の王国を取り返したいと願ったのだ。

 奇跡は始まった。

 人形たちにより燃え上がり始めた城。そこに一人、いや、一つの人形がいた。
 他の人形ともゾーンとも一線を隠す、鋭い眼差しを持つその人形に、名は無い。
 いつしか現れていた名無しは、咄嗟にスフィアの前に現れて、涙に濡れた右手を優しく握り締め、妖精のように軽々と飛び去った。

 誰も知らない場所。
 そこから、少女の希望をまた始めるために。
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