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魔法の剣
転入試験
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マースドント冒険学校。
乗合馬車を使ったとしても、バカサの町を出て、乗り継いで五、六時間は掛かる。天候や交通が悪ければ更に掛かる。
バカサの町があるメルマドの国からは、北西、やや北よりに位置する大都市ノジア。そこでちょうど創立70年を迎えた、歴史と伝統ある学校だ。
テックは転校に向けて動き始めた。
一般に、転校という手段を取る学生はそう多くはない。しかし多くはないだけで、ルール上では何の問題もない。
電話などない世界である。テックは手紙で、冒険学校に必要事項を問い合わせた。
返事は一週間ほどでやって来た。速達でない限り、紙の配達物は晴れている日にしか運んでもらえない。そのため、手紙のやり取りだけで時間が少し過ぎてしまう。
「げっ。試験があるのかよ」
テックは、細かい手続きだけはテックが通う学校を通じて知っていたが、試験の存在までは知らされていなかったのだ。
「作文、筆記、面接だと?転校って思ったより難しくないか」
更に、定員に空きがなければ試験すら実施されないのだと言う。冒険学校からの手紙を読み進めるにつれて、テックには早くも、なんとなく迷いが生じていた。
「でも、今の学校のままだと不良学生に落ちぶれた挙げ句に、戦えるだけのやばいおっさんに成り果てるしかない気がするんだよな」
冒険学校という響きだけで我を忘れている感もあるが、テック自身、それなりには現状を認めているのだ。
「まあ、仕送りは多少してもらえるみたいだし、いっちょ受けてみっか」
考えてばかりでも意味がないのは事実。お気楽な気分もあるものの、思い立ったが吉日、とテックは転入試験を申し込むのだった。
しかしテックはこの時、想像を絶する波乱の転入試験が待っている事を、まだ知るよしもなかったのである。
まず、書類選考通過の知らせが来た。
ここまでは、よくある試験の流れである。
そして、二次試験の知らせもその手紙と同封されていた。
試験は一週間後。テックはこの時ばかりは、フレイアを無視して猛烈に勉強したのだった。
転入試験当日。
テックは前日からノジアに宿を取り、試験に備えていた。
「ドアをノックするのは2、3回か。知らない事ばっかりなのだが」
ノジアの書店で買った面接対策の本を読み込みながら、テックは試験受付開始を校門前で待った。
時間は午前8時。いよいよ、受付開始の時間となった。
そしてテックは予め手紙で指示されていた通りに、事務室で簡単な受付を済ませ、3階の応接室に向かった。
試験案内の手紙に示されていた地図が分かりやすく、目的地には迷わず辿り着く事が出来た。
(えっと、失礼しますはノックの前に言うんだっけか?)
面接対策本の効き目は今ひとつのようだ。幸先不安ながらも、テックはコン、コンとゆっくり応接室のドアを二度、人差し指の中ほどで叩いた。
「しまった。正装じゃねえぞ、これ」
どうぞ、と言われ中に入った開口一番だ。いわゆる、学生服などない学校なのが仇となった。せめてスーツなどを着なければならなかった事に、今になって気付いたのだ。
「構いませんよ、どうぞお入りください」
黒ぶち眼鏡に、オールバック。いかにも礼儀にうるさそうな面接官はテックを穏やかに促した。が、その表情はやはり凍りついている。
「えっと、テック=シヴァンです」
さらに、促されてもないのに、テックは自己紹介まで始めてしまった。注意まではされなくとも、不合格圏内だ。
しかし、それ以降は特に何の問題もなく、テックはむしろ積極的に熱意をアピールしていった。
「当校を志望なさった動機は何ですか」
「はい。強くなるには、冒険者になるしかないと思いました。私は強い冒険者になり、世界中から頼られるようになりたいです。そのために、歴史ある名門で学べるなら、最高の環境だと考えたからです」
「もし、命の危機にある人が二人、離れた場所にいるのを見たら、あなたはどうしますか。近くには、あなた以外にいないとします」
「はい。大声で叫び、返事すら出来ない方を優先して助けに行きます」
「転入という形になりますが、ご両親はどのようにおっしゃいましたか」
「はい。私には、育ての父しか家族がいません。父は、自由に生きろと言ってくれています」
面接官からは他にも幾つか質問があったが、冒険学校とは無関係の常識的な質問だった。
テックは、分かる問いには答え、分からない問いは「すみません、分かりません」とはっきり答えた。
面接は、滞りなく進み、無事に終わった。
次は筆記試験、それから作文試験だ。
テックは筆記試験を行う教室に向かおうとした。
ドドドォ。
轟音が鳴り響く。
そして、目の前には怪物がいた。
「ワイはムオル氏とはちゃう。好きにやらせてもらいますさかい、よろしゅう」
刺客だ。しかし、今度は暗転しない。
黒界への転移が始まらないのだ。
「勇者はんにとって、ワイは刺客やんな。〈喰らう腕〉シーバースや」
テックはそこで、口火を切った。
「お前らって本当、自己紹介だけは人間味あるよな」
乗合馬車を使ったとしても、バカサの町を出て、乗り継いで五、六時間は掛かる。天候や交通が悪ければ更に掛かる。
バカサの町があるメルマドの国からは、北西、やや北よりに位置する大都市ノジア。そこでちょうど創立70年を迎えた、歴史と伝統ある学校だ。
テックは転校に向けて動き始めた。
一般に、転校という手段を取る学生はそう多くはない。しかし多くはないだけで、ルール上では何の問題もない。
電話などない世界である。テックは手紙で、冒険学校に必要事項を問い合わせた。
返事は一週間ほどでやって来た。速達でない限り、紙の配達物は晴れている日にしか運んでもらえない。そのため、手紙のやり取りだけで時間が少し過ぎてしまう。
「げっ。試験があるのかよ」
テックは、細かい手続きだけはテックが通う学校を通じて知っていたが、試験の存在までは知らされていなかったのだ。
「作文、筆記、面接だと?転校って思ったより難しくないか」
更に、定員に空きがなければ試験すら実施されないのだと言う。冒険学校からの手紙を読み進めるにつれて、テックには早くも、なんとなく迷いが生じていた。
「でも、今の学校のままだと不良学生に落ちぶれた挙げ句に、戦えるだけのやばいおっさんに成り果てるしかない気がするんだよな」
冒険学校という響きだけで我を忘れている感もあるが、テック自身、それなりには現状を認めているのだ。
「まあ、仕送りは多少してもらえるみたいだし、いっちょ受けてみっか」
考えてばかりでも意味がないのは事実。お気楽な気分もあるものの、思い立ったが吉日、とテックは転入試験を申し込むのだった。
しかしテックはこの時、想像を絶する波乱の転入試験が待っている事を、まだ知るよしもなかったのである。
まず、書類選考通過の知らせが来た。
ここまでは、よくある試験の流れである。
そして、二次試験の知らせもその手紙と同封されていた。
試験は一週間後。テックはこの時ばかりは、フレイアを無視して猛烈に勉強したのだった。
転入試験当日。
テックは前日からノジアに宿を取り、試験に備えていた。
「ドアをノックするのは2、3回か。知らない事ばっかりなのだが」
ノジアの書店で買った面接対策の本を読み込みながら、テックは試験受付開始を校門前で待った。
時間は午前8時。いよいよ、受付開始の時間となった。
そしてテックは予め手紙で指示されていた通りに、事務室で簡単な受付を済ませ、3階の応接室に向かった。
試験案内の手紙に示されていた地図が分かりやすく、目的地には迷わず辿り着く事が出来た。
(えっと、失礼しますはノックの前に言うんだっけか?)
面接対策本の効き目は今ひとつのようだ。幸先不安ながらも、テックはコン、コンとゆっくり応接室のドアを二度、人差し指の中ほどで叩いた。
「しまった。正装じゃねえぞ、これ」
どうぞ、と言われ中に入った開口一番だ。いわゆる、学生服などない学校なのが仇となった。せめてスーツなどを着なければならなかった事に、今になって気付いたのだ。
「構いませんよ、どうぞお入りください」
黒ぶち眼鏡に、オールバック。いかにも礼儀にうるさそうな面接官はテックを穏やかに促した。が、その表情はやはり凍りついている。
「えっと、テック=シヴァンです」
さらに、促されてもないのに、テックは自己紹介まで始めてしまった。注意まではされなくとも、不合格圏内だ。
しかし、それ以降は特に何の問題もなく、テックはむしろ積極的に熱意をアピールしていった。
「当校を志望なさった動機は何ですか」
「はい。強くなるには、冒険者になるしかないと思いました。私は強い冒険者になり、世界中から頼られるようになりたいです。そのために、歴史ある名門で学べるなら、最高の環境だと考えたからです」
「もし、命の危機にある人が二人、離れた場所にいるのを見たら、あなたはどうしますか。近くには、あなた以外にいないとします」
「はい。大声で叫び、返事すら出来ない方を優先して助けに行きます」
「転入という形になりますが、ご両親はどのようにおっしゃいましたか」
「はい。私には、育ての父しか家族がいません。父は、自由に生きろと言ってくれています」
面接官からは他にも幾つか質問があったが、冒険学校とは無関係の常識的な質問だった。
テックは、分かる問いには答え、分からない問いは「すみません、分かりません」とはっきり答えた。
面接は、滞りなく進み、無事に終わった。
次は筆記試験、それから作文試験だ。
テックは筆記試験を行う教室に向かおうとした。
ドドドォ。
轟音が鳴り響く。
そして、目の前には怪物がいた。
「ワイはムオル氏とはちゃう。好きにやらせてもらいますさかい、よろしゅう」
刺客だ。しかし、今度は暗転しない。
黒界への転移が始まらないのだ。
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