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魔法の剣
冒険者
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珍しく、シマーがテックに話し掛けた。
「なんでそんなに、必死なの」
夏休みも、自主学習が出来るように校舎は開放されている。
二人の他にも何人か子どもはいたが、勉強しているというよりは、おしゃべりしたり遊んでいたりするのがほとんどだ。
「なんでそんなに、必死なの」
シマーは繰り返したずねた。テックは勉強に関してそこまで必死になった覚えはないので、 「必死じゃないよ」と簡単に答えただけだ。
テックは冒険者学校に入る事を考え始めた。普通の学校と違い、必要な単位さえ取得すれば時間を自由に使える。
修業や、刺客との戦いを中心にしていくとなると、今の学校では不便な事がどうしても多い。
もちろん、学費は心配だし、今までの友だちと別れなければならないのは楽しい事ではない。
やめてしまいたい、ともテックは思う。戦いを放棄して、今までのような生活を続ける。それが出来るなら、どんなにか救われるのにとさえ思った。
選ばれし勇者というのも、何か違う気がする。自らが置かれた状況を、テックは真剣に考え始めた。
最初の刺客、ムオルは彼を剣の勇者と呼んだ。だが、テックは勇気で続けているわけではない。
剣を与えられるままに、返す方法がないから務めているだけなのである。
「必死なんかじゃない。ただ、やる事がたくさんあるんだ」
シマーが教室にいないとテックが気付いたのは、そう言った直後だった。
「リッチーさん」
申し訳程度の校庭の隅にある木陰で休んでいたシマーに、テックは恐る恐る声を掛けた。
「何か」
「えっと、元気?」
沈黙が流れる。
「なんでもないよ。じゃあ」
「話があるなら言いなさいよ。イライラする」
空気を悪くしないようにという、テックの気遣い。それがシマーの琴線に触れたようだ。
「いや、なんでそんなに必死なのって、聞いてきたじゃん」
「ああ、あれ。ちょっとイライラしてたから。もしかして、真剣に悩んじゃった?」
よくイライラするんだね、という言葉が喉元まで出かけたが、そこは流石にぐっと我慢するテック。
「うん。実はちょっと、そうなんだ」
「え。それは、本当にごめんなさい」
「いや、気にしないで。でね、俺、冒険者学校に行こうと思うんだけど、リッチーさんはどう思う?」
テックは勇気を出して聞いてみた。まともにシマーと話す、中々ない機会だと思ったからだ。
「いや、それは好きにしたら良いんじゃないでしょうか」
当然の反応だ。だが、久しく忘れていた日常の感覚を思い出せただけでも、話せて良かった、テックには素直にそう思えた。
他の子どもたちも集まってきたので、それからはみんなでハンドボールをした。
テックは実はそんなにスポーツが得意ではない。ただ、非日常から再び当たり前の世界に来られた幸せは、忘れられないかもしれないな、と思わずにはいられない。
そしてその日の残りは、そのままハンドボールをする時間になったのだった。
冒険者。それは、誰もが憧れる仕事ではない。
いや、子どもにとっては間違いなく夢のある、わくわくする肩書きではある。しかし、現実はそんなに甘くない。
冒険者という仕事は、大人からすればギャンブルでしかないのだ。
凄い手柄を手に出来る者もいれば、そこらの魔物にうっかり殺され命を落とす者もいる。一般人と違い、自分の身くらいは自分で守れないと舐められる。
適した者にはこの上ない天職だが、常に死と隣り合わせの仕事を大人になって選ぶ事。それを世間では物好きか変人か、という認識が普通だ。
そしてやはり、その普通をひっくり返せない、弱い冒険者はギャンブラーと同じと思われて当然なのである。
人生をギャンブルなどと思わせるのは当然、非常識だ。だから普通は、冒険者の道など選ばない。地に足の付いた、いつでも温かい布団で休める我が家を持つ人生こそが最高の幸せであるのだ。
テックには、夢と呼べるような目標はない。冒険者という道は、楽しいと思える反面、危険な道だという認識を持っており、夢とまでは思っていない。
テックにとっての冒険者とは、生き残るための解答に過ぎないのだ。
戦士として鍛えていけるような、素晴らしい肉体を持つわけではないという自覚がある。そしてガディアの勧めもある。それらをもって選択が可能であり、妥当であるという骨太の判断。テックとしてはそうした考えである。
「俺は天才ではない。道を見誤れば、刺客に勝てない」
テックはそれほど、勝利に執着せねばならない。他に道はないのだ。
そして、そのために冒険者を目指す。テックの決意は、シマーとの対話を通じて確固たる物へと昇華していった。
「ほう、冒険者、か。まあ悪くはないぞ」
フレイアも、テックの考えに反対するつもりはなさそうである。
ただし、念を押すようにこう付け加えた。
「敵は年単位で待ってはくれないんだぜ。儂はお前を信じたいが、最後には己の力しかない。それを忘れるな」
死の女神は、思いのほか有情な言葉をテックに贈った。
もっとも、マントラ経路は魔方陣さえあれば、どこでも開ける。
冒険者を目指すとしても、フレイアとの別れは当分、先になりそうなのだった。
「なんでそんなに、必死なの」
夏休みも、自主学習が出来るように校舎は開放されている。
二人の他にも何人か子どもはいたが、勉強しているというよりは、おしゃべりしたり遊んでいたりするのがほとんどだ。
「なんでそんなに、必死なの」
シマーは繰り返したずねた。テックは勉強に関してそこまで必死になった覚えはないので、 「必死じゃないよ」と簡単に答えただけだ。
テックは冒険者学校に入る事を考え始めた。普通の学校と違い、必要な単位さえ取得すれば時間を自由に使える。
修業や、刺客との戦いを中心にしていくとなると、今の学校では不便な事がどうしても多い。
もちろん、学費は心配だし、今までの友だちと別れなければならないのは楽しい事ではない。
やめてしまいたい、ともテックは思う。戦いを放棄して、今までのような生活を続ける。それが出来るなら、どんなにか救われるのにとさえ思った。
選ばれし勇者というのも、何か違う気がする。自らが置かれた状況を、テックは真剣に考え始めた。
最初の刺客、ムオルは彼を剣の勇者と呼んだ。だが、テックは勇気で続けているわけではない。
剣を与えられるままに、返す方法がないから務めているだけなのである。
「必死なんかじゃない。ただ、やる事がたくさんあるんだ」
シマーが教室にいないとテックが気付いたのは、そう言った直後だった。
「リッチーさん」
申し訳程度の校庭の隅にある木陰で休んでいたシマーに、テックは恐る恐る声を掛けた。
「何か」
「えっと、元気?」
沈黙が流れる。
「なんでもないよ。じゃあ」
「話があるなら言いなさいよ。イライラする」
空気を悪くしないようにという、テックの気遣い。それがシマーの琴線に触れたようだ。
「いや、なんでそんなに必死なのって、聞いてきたじゃん」
「ああ、あれ。ちょっとイライラしてたから。もしかして、真剣に悩んじゃった?」
よくイライラするんだね、という言葉が喉元まで出かけたが、そこは流石にぐっと我慢するテック。
「うん。実はちょっと、そうなんだ」
「え。それは、本当にごめんなさい」
「いや、気にしないで。でね、俺、冒険者学校に行こうと思うんだけど、リッチーさんはどう思う?」
テックは勇気を出して聞いてみた。まともにシマーと話す、中々ない機会だと思ったからだ。
「いや、それは好きにしたら良いんじゃないでしょうか」
当然の反応だ。だが、久しく忘れていた日常の感覚を思い出せただけでも、話せて良かった、テックには素直にそう思えた。
他の子どもたちも集まってきたので、それからはみんなでハンドボールをした。
テックは実はそんなにスポーツが得意ではない。ただ、非日常から再び当たり前の世界に来られた幸せは、忘れられないかもしれないな、と思わずにはいられない。
そしてその日の残りは、そのままハンドボールをする時間になったのだった。
冒険者。それは、誰もが憧れる仕事ではない。
いや、子どもにとっては間違いなく夢のある、わくわくする肩書きではある。しかし、現実はそんなに甘くない。
冒険者という仕事は、大人からすればギャンブルでしかないのだ。
凄い手柄を手に出来る者もいれば、そこらの魔物にうっかり殺され命を落とす者もいる。一般人と違い、自分の身くらいは自分で守れないと舐められる。
適した者にはこの上ない天職だが、常に死と隣り合わせの仕事を大人になって選ぶ事。それを世間では物好きか変人か、という認識が普通だ。
そしてやはり、その普通をひっくり返せない、弱い冒険者はギャンブラーと同じと思われて当然なのである。
人生をギャンブルなどと思わせるのは当然、非常識だ。だから普通は、冒険者の道など選ばない。地に足の付いた、いつでも温かい布団で休める我が家を持つ人生こそが最高の幸せであるのだ。
テックには、夢と呼べるような目標はない。冒険者という道は、楽しいと思える反面、危険な道だという認識を持っており、夢とまでは思っていない。
テックにとっての冒険者とは、生き残るための解答に過ぎないのだ。
戦士として鍛えていけるような、素晴らしい肉体を持つわけではないという自覚がある。そしてガディアの勧めもある。それらをもって選択が可能であり、妥当であるという骨太の判断。テックとしてはそうした考えである。
「俺は天才ではない。道を見誤れば、刺客に勝てない」
テックはそれほど、勝利に執着せねばならない。他に道はないのだ。
そして、そのために冒険者を目指す。テックの決意は、シマーとの対話を通じて確固たる物へと昇華していった。
「ほう、冒険者、か。まあ悪くはないぞ」
フレイアも、テックの考えに反対するつもりはなさそうである。
ただし、念を押すようにこう付け加えた。
「敵は年単位で待ってはくれないんだぜ。儂はお前を信じたいが、最後には己の力しかない。それを忘れるな」
死の女神は、思いのほか有情な言葉をテックに贈った。
もっとも、マントラ経路は魔方陣さえあれば、どこでも開ける。
冒険者を目指すとしても、フレイアとの別れは当分、先になりそうなのだった。
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