マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

牙の洞窟

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 実戦経験。つまり訓練ではない、本物の戦いの経験。テックに今、決定的に足りないのはそれだ。

 フレイアに「なんとかする以外にないんだぜ」と言われ、テックはある場所に向かった。


 牙の洞窟。

 誰が名付けたとも分からない天然の洞窟。大きな岩棚の内部に掘り起こされたのであろうその迷路は、 メルマドの冒険者たちにとっては手始めの力試しとしてうってつけだと言われている。

 戦士どころか冒険者ですらないテックではあったが、刺客との戦いでかなり自信を付けていた。「楽勝すぎて、修業にならなかったらどうしよう」と思ったほどだ。

 しかし、そう上手くはいかないものである。

 洞窟の魔物は思った以上に、手加減がない。生存のための攻撃は常に本気だ。相手の出方を知らないがゆえの思わぬ痛手は、戦いの初心者には、つきものなのだ。


 特に厄介なのは、牙の洞窟の由来と言われるヘビ、ビッグファングだ。
 手練れの冒険者や戦士ですら、巨大な牙の名を冠したその洞窟の主にだけは挑まない。それほど獰猛で、手に負えないのだ。


 さらに言うなら、牙の洞窟が初心者向けというのは、あくまでパーティーを組んでいる前提の話だ。
 増え続ける魔物たちは、複数人で相手をしないとまず攻撃を受けきれない。

 テックが刺客を破ったとは言っても、それはあくまで一対一の勝負の話なのだ。


 仲間を引き連れたいのは山々だ。しかし、テックの魔法剣はそれを魔法と知られてはならない。
 テックが暮らす世界では、魔法は危険な禁忌。扱う事は、大罪に値するのだ。

 ならば普通の武器を使えばよいのだが、それでは魔法剣の実戦にはならない。どうしても、テックは一人で戦うのが最適解となってしまっているのだ。


 冒険者程度には見えるように、テックは手持ちの中でも生地が丈夫な皮製のジャケットを着込んだ。戦士にはとても見えないが、冒険者見習い程度には見えるだろう。
 そしてテックは慎重に、洞窟に足を踏み入れた。

「ここは、涅槃ニルヴァーナを試すべきかな」

 人目がなさそうなので、炎の剣であっても特に問題はなさそうだ。
 が、テックがどんなに念じても、透蒼の短剣からは炎は出ない。

「なっ、なんで・・・?」

 疑問に思う暇などない。辺りではゴブリンやゾンビがわらわらとやって来ていたのだ。

「ちょっと、出直してくるから」

 思わず、とぼけてその場を去ろうとするが、そんな言い訳が魔物に聞こえるはずはない。

 使い慣れた白銀十字ならば幾らかテックにも分がある。しかし、蒼短剣はそもそも、安定して召喚すること自体にまだ慣れていないのだ。

「いまいちだな。攻撃が通ってる気がしねえ」

 テックは嫌な予感がした。刺客を倒したのも、もはや昔。あっという間に、新たな危機の到来である。
 身のこなし自体は随分と軽快なものの、やはり日頃の訓練を刺客対策に費やし過ぎたのが響いてきた。
 多数との乱戦に、テックは向かないのだ。

 しかも、相手はただの魔物。それは裏を返せば、心理戦に持ち込めるほど高度で繊細な感情を期待してはいけないという事である。
 生きるか死ぬか。
 牙の洞窟は、完全なる獣の世界なのだ。

 
 うっかり気を抜くと、短剣は消失してしまうという弱点を抱えている。安定のための修業により、幾らかはマシにはなったが、まだまだ実用段階ではない事をテックは身をもって知った。

 だが、そうも言っていられないのも事実だ。

 次の刺客は、いつ来るか分からない。

 十字剣を使えるだけでは、おそらく確実に死んでしまう。真言は剣ですらなく、戦闘には使えないのだ。
 そして、魔法剣の残り4つの形態モードは、まるで扱えないという厳しすぎる現状なのである。


 なんとしても、蒼短剣を安定させる。その荒療治として牙の洞窟を攻略していくというのは、そうした事情ゆえにテックの基本方針となった。

 ちなみに、学校は夏休みに入ったために、宿題くらいしか気にしなくて良い。その点に関してだけは、テックは時期が良かったと安心している。
 都合で中退する学生もたまにいるが、やはり不安だからこそ、テックとしては最終手段なのだ。


 と、ゴブリンが、首に噛み付いてきた。
 テックは落ち着いて、こちらも敵の首筋に短剣を突き立てる。首は血管がよく通っている急所だ。つまり、かなりのダメージではある。

 やむ無くテックは撤退を決意した。一人で挑むにしても、明らかに装備や道具が必要だ。


「冒険者向けの学校があるんじゃが、どうかね」

 テックの怪我を手当てしながら、ガディアはそう提案した。

「冒険者向けの学校?なんで俺が」
「牙の洞窟に行ったんじゃろ」
「違うよ。これは崖から落っこちて・・・」
「テツ。オイラ、嘘は嫌いじゃよ。それとも、嘘つきはシマーちゃんかい」
「げっ、シマーのやつ。見てたのかよ」
「嘘じゃ。いわゆる、カマを掛けたんじゃよ」
「とんでもない悪知恵だな!」

 結局、冒険者学校の話も、怪我の理由もうやむやになったまま、翌日を迎えたのだった。
 ただ、テックは冒険者になるのも悪くない。そう考え始めていたのだった。
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