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グランド・アーク
スプリガン
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新たな仲間。
たった二人では乗り越えられないであろう強敵たちが、これから数えきれないほどいるはずと思えば、戦力は一人でも多いほうが良い。
厳密には、あちこちに動き回るという冒険者の特性上、3~5人、多くても7人までという通説こそあるが、いずれにせよ今は間違いなく人手が足りないのだ。
ダランはスフィアの師となる事に快く応じたものの、そうした必要性もまたスフィアに説いた。
「私のように一人で旅するのは、極めて特殊なケースだ。上級冒険者においてもね。増して今はお嬢さん、キミがいる。仲間探しは今後、我々の重要なミッションとなるはずだ」
王女扱いはダランの中では先のやり取りで、ひとまず終わったのだろう。あるいは、師として振る舞うからこそ、冒険者としてのスフィアに対する、余計な礼節を取り払ったのかもしれない。
「スプリガンは、今のお嬢さんには良い的だろう」
スプリガン。ドワーフの仲間と言われている妖精だ。
元は村などで財宝を守っていたらしいが、文明が進み魔物を徹底的に締め出した人間の事業により、今では人の手が届きにくい極寒の地にしかいないとされる。
スプリガンは小人だが、戦いのために巨大化する事も出来る。
よって、知らない者は怯えて逃げ出すのだが、実は単なる巨大化でしかなく、戦闘に強くなるわけではない。つまり、強さはそんなに変わっていないのだ。
そして、元の強さも大した事はない。魔物ではなく、あくまで妖精だからだ。
妖精を攻撃するのは気が引ける感じもするが、悪戯が過ぎて人に悪さを働く妖精も少なくない。
そうでなくとも、人と言葉が通じない上に虐げられているため、スプリガンたち妖精は人間に対しては攻撃的である。
ただ、ここでスフィアは閃いた。
「スプリガンさんを仲間にしてしまえば、妖精さんをみんな仲間にする事にはならないでしょうか」
ダランは驚いた。ダランでさえ、弱い存在は戦闘のためのサンドバッグとしか思わない世界で、スフィアは協力を持ちかけたのだ。
「だが、言葉は通じない。いつ裏切られるかも分からない。彼らは弱いが、知恵があるんだ」
「知恵があるなら、私たちが仲間になりたい思いも分かるはずです」
何がそうさせるのかは分からないが、妖精と戦う事を望まない以上、スフィアは断固としてスプリガン相手の実戦に反対した。
「やれやれ、頑固なお姫様だ」
「都合よく姫呼ばわりは、およしになって」
舌戦だけなら、既にスフィアはダランより強いのだった。
スプリガンの住みか。
それは氷の大地に作られた、氷の地下洞だ。
ママルマラの南東、ヒルミスの真南にあるその粗末な住まいは、粗末過ぎて人に荒らされる事もない。
また食料がないので、魔物が寄り付く事もないのである。
そしてスフィアたちは無謀にも、無策でそこに突入した。スフィアの「話せば分かる」の一点ばりを、ダランは止められなかったのだ。
「ごめんください」
スフィアは、丁寧に挨拶した。何の返事もない。スプリガンは人語を介さないのだから、当たり前だ。
「どなたか、いらっしゃいませんか。お話があります」
「やはり、静かにした方が良くないかね」
奇天烈な光景である。親子ほど年の離れた冒険者二人が、噛み合わない会話をしながらずんずんと無人の地下を進んでいく様は、シュールその物だ。
「誰もいませんね」
「確かに。ここがスプリガンのいる穴で、間違いないはずなんだが」
ダランは、人外の生物に詳しい。主要な生息地やその特徴なら、ほとんどの情報がダランにあると言っても過言ではない。
伊達に上級冒険者をやっていないのだ。
「ここには、もうみんないないプリ」
スフィアでもダランでもない、何者かの声がした。
ダランは振り向いたが、声の主はいない。
「おっさん、違うプよ。こっちだプリ」
そして、視線をそのまま見下ろした先に、そいつはいた。
「お、お主はまさか」
「ふっふっプ。そう、ボクちんこそがスプリガンの中のスプリガン。スプスーさんだプリ」
有名人に会ったかのように、ダランは驚いた。
無理もない。スプスーは冒険者界隈では有名な、『進化したスプリガン』なのだ。
「スプスー殿。お会い出来て光栄です」
ダランはそう言い、更に自己紹介を続けた。
「こっちはスフィア。マテリアーの王女様だ」
「ちょ、ちょっとダランさん」
「なるプリ、なるプリ。はじめましプ」
ダランの判断力を、スフィアは疑った。確かにこの妖精は人の言葉を使うが、このケースでは正直は愚策としか思えなかったのだ。
「スプスー殿なら、信用出来る。どうです、我々と共に、世界に蔓延る悪を倒しませんか」
「いいプリ。やるプリよ」
何故か、とんとん拍子に話は進み、とうとうスプスーが仲間になってしまったようだ。
「それで、仲間の皆さんはどこにいるのです」
「そ、それは言えないんプリ」
ダランは鋭い。仲間のスプリガンがいないというスプスーの何気ない言葉を、しっかり覚えていた。
しかしその時、ダランはふと気付いた。
スフィアが、どこにもいないのだ。
たった二人では乗り越えられないであろう強敵たちが、これから数えきれないほどいるはずと思えば、戦力は一人でも多いほうが良い。
厳密には、あちこちに動き回るという冒険者の特性上、3~5人、多くても7人までという通説こそあるが、いずれにせよ今は間違いなく人手が足りないのだ。
ダランはスフィアの師となる事に快く応じたものの、そうした必要性もまたスフィアに説いた。
「私のように一人で旅するのは、極めて特殊なケースだ。上級冒険者においてもね。増して今はお嬢さん、キミがいる。仲間探しは今後、我々の重要なミッションとなるはずだ」
王女扱いはダランの中では先のやり取りで、ひとまず終わったのだろう。あるいは、師として振る舞うからこそ、冒険者としてのスフィアに対する、余計な礼節を取り払ったのかもしれない。
「スプリガンは、今のお嬢さんには良い的だろう」
スプリガン。ドワーフの仲間と言われている妖精だ。
元は村などで財宝を守っていたらしいが、文明が進み魔物を徹底的に締め出した人間の事業により、今では人の手が届きにくい極寒の地にしかいないとされる。
スプリガンは小人だが、戦いのために巨大化する事も出来る。
よって、知らない者は怯えて逃げ出すのだが、実は単なる巨大化でしかなく、戦闘に強くなるわけではない。つまり、強さはそんなに変わっていないのだ。
そして、元の強さも大した事はない。魔物ではなく、あくまで妖精だからだ。
妖精を攻撃するのは気が引ける感じもするが、悪戯が過ぎて人に悪さを働く妖精も少なくない。
そうでなくとも、人と言葉が通じない上に虐げられているため、スプリガンたち妖精は人間に対しては攻撃的である。
ただ、ここでスフィアは閃いた。
「スプリガンさんを仲間にしてしまえば、妖精さんをみんな仲間にする事にはならないでしょうか」
ダランは驚いた。ダランでさえ、弱い存在は戦闘のためのサンドバッグとしか思わない世界で、スフィアは協力を持ちかけたのだ。
「だが、言葉は通じない。いつ裏切られるかも分からない。彼らは弱いが、知恵があるんだ」
「知恵があるなら、私たちが仲間になりたい思いも分かるはずです」
何がそうさせるのかは分からないが、妖精と戦う事を望まない以上、スフィアは断固としてスプリガン相手の実戦に反対した。
「やれやれ、頑固なお姫様だ」
「都合よく姫呼ばわりは、およしになって」
舌戦だけなら、既にスフィアはダランより強いのだった。
スプリガンの住みか。
それは氷の大地に作られた、氷の地下洞だ。
ママルマラの南東、ヒルミスの真南にあるその粗末な住まいは、粗末過ぎて人に荒らされる事もない。
また食料がないので、魔物が寄り付く事もないのである。
そしてスフィアたちは無謀にも、無策でそこに突入した。スフィアの「話せば分かる」の一点ばりを、ダランは止められなかったのだ。
「ごめんください」
スフィアは、丁寧に挨拶した。何の返事もない。スプリガンは人語を介さないのだから、当たり前だ。
「どなたか、いらっしゃいませんか。お話があります」
「やはり、静かにした方が良くないかね」
奇天烈な光景である。親子ほど年の離れた冒険者二人が、噛み合わない会話をしながらずんずんと無人の地下を進んでいく様は、シュールその物だ。
「誰もいませんね」
「確かに。ここがスプリガンのいる穴で、間違いないはずなんだが」
ダランは、人外の生物に詳しい。主要な生息地やその特徴なら、ほとんどの情報がダランにあると言っても過言ではない。
伊達に上級冒険者をやっていないのだ。
「ここには、もうみんないないプリ」
スフィアでもダランでもない、何者かの声がした。
ダランは振り向いたが、声の主はいない。
「おっさん、違うプよ。こっちだプリ」
そして、視線をそのまま見下ろした先に、そいつはいた。
「お、お主はまさか」
「ふっふっプ。そう、ボクちんこそがスプリガンの中のスプリガン。スプスーさんだプリ」
有名人に会ったかのように、ダランは驚いた。
無理もない。スプスーは冒険者界隈では有名な、『進化したスプリガン』なのだ。
「スプスー殿。お会い出来て光栄です」
ダランはそう言い、更に自己紹介を続けた。
「こっちはスフィア。マテリアーの王女様だ」
「ちょ、ちょっとダランさん」
「なるプリ、なるプリ。はじめましプ」
ダランの判断力を、スフィアは疑った。確かにこの妖精は人の言葉を使うが、このケースでは正直は愚策としか思えなかったのだ。
「スプスー殿なら、信用出来る。どうです、我々と共に、世界に蔓延る悪を倒しませんか」
「いいプリ。やるプリよ」
何故か、とんとん拍子に話は進み、とうとうスプスーが仲間になってしまったようだ。
「それで、仲間の皆さんはどこにいるのです」
「そ、それは言えないんプリ」
ダランは鋭い。仲間のスプリガンがいないというスプスーの何気ない言葉を、しっかり覚えていた。
しかしその時、ダランはふと気付いた。
スフィアが、どこにもいないのだ。
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