マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

超魔導師

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 魔力を込める護符は3枚。
 スプスーの実力でも1枚につき、1分ほど魔力を注がねばならない。となると、全部の護符を準備するのは3倍、つまり、およそ3分を要するわけだ。

 スプスーは意識を集中し始めた。ワルガーの攻撃は手斧による斬撃のみ。そのため、物理攻撃を完ぺきに防ぐ結界が張れれば良い。
 スプスーにはバブル・ガードがある。詠唱を切らさないようにしつつ、魔力を充填じゅうてんする事は可能であるから、魔法を使えない人間であるワルガーが相手なのはスプスーにとってラッキーという事なのだ。


 一方、ダランは苦戦していた。
 スプスーが、どれだけの時間を稼げば良いのかを言い忘れた事もプレッシャーとなっているが、やはり防戦一方というのは戦いにおいて有利にはならない。

 ワルガーは素早いからこそ、敵の動きを観察し放題なのである。


「くくっ、まるで亀と戦っている気分だぞ。本気を出せジジイ。テメエの本気ごと叩き割ってくれる」

 ワルガーは終止このように毒づいてくる。心理的な威嚇いかくのつもりなのだろう。

 その声を追えば、ダランならばすぐに反撃出来るのでは、と思うかもしれない。しかし、ダラン達がいる白盾の間は複雑な作りで、戦いとなると急に狭く思えるような構造をしている。
 増して、ダランの扱う翼竜槍ドラコは、その半分が刀身の長槍だ。
 つまり、翼竜槍を豪快に振り回して戦うのを得意とするダランにとっては、この上なく不利な戦場なのである。

 何度か鏡を槍で砕こうともした。しかし、ダランの腕力をもってしても、水晶ででも出来ているかのように、鏡の柱は傷ひとつ付かない。特殊な製法で作られているか、下地がガラスよりも相当に強い素材なのだろう。
 だからこそ、ダランにとっては想像を絶する持久戦になってしまったのだ。

「隙だらけじゃねえか。本当にマジルに勝ったのかテメエら」

 あちこちから、手斧の軽くない一撃が飛んでくる。

 冒険者は身軽さが取り柄だ。
 ダランとて、重いのは槍だけにするために軽装備でここまでずっと戦ってきた。

 だが、それがここに来て裏目に出た。

 ボロボロに切り刻まれていく身体。

 そして、遂にダランは槍を落としてしまった。


「バ、バカな。たかが盗賊の強さでは・・・な・・い」

 ダランは率直な印象を言った。これだけの戦力で不安ではあったが、敗北を予感するとまでは思っていなかったのだ。

「逃げてもいいんじゃねえか。俺は追わねえ。金目のモンだけ置いて、とっとと消えたら」

 ダメ押しの挑発。大盗賊と言われるだけあり、その口ぶりは実に攻撃的だ。

 それでも、意識を失いそうになりながら、ダランは振り切れない翼竜槍をどうにか拾い上げた。


 スフィアが意識を取り戻した時、部屋には1匹のスプリガンがいた。

「スプスーさん」

 思わず、スフィアは声を掛けた。だが、それはスプスーではない、別のスプリガンだ。
 スプスーは、進化したとは言っても、見た目は普通のスプリガンとそう変わらない。

 「ヴヴ」と唸る。お茶目な語尾は、スプスーだけの専売技術のようだ。


(殺されるのかな、私)

 スフィアは恐ろしい反面、父の下へと行けるという気持ちを抱いていた。
 ゼロの暴走、ゾーンとの再会、そして自身の誘拐。様々な苦難をその身に受けた精神は最早、限界だったのである。

 「ヴヴロヴロ」先ほどより厳しくおぞましい叫びが聞こえる。妖精とは名ばかりの、獰猛どうもうな野生の魔物。長きに渡る人間社会からの断絶により、スプリガンはもう、そうした存在であったのだ。

(助けて、ゼロ)

 スフィアはなぜか、ダランではなくゼロが来てくれるような気がした。それが霊感から来る感覚なのか、期待なのかは分からない。
 ただ、スフィアが今でも一緒にいたいのは、魔法人形のゼロなのだ。


「もう少し、あと少しだプリ」

 スプスーはダランに呼び掛けた。魔力は尽き欠けていたが、どうにか詠唱準備が整ったのだ。

「驚くが良いプリ。召喚魔法サモンだ」

 詠唱は、一瞬で終わった。

 現れたのは高位悪魔デーモン。スプリガンどころか、並の魔法使いでは古代でも呼び出せなかっただろう。
 しかも、代償なしにたった3枚の護符でデーモン呼びが出来るのは、世界中を探してもスプスーただ1人のはずだ。

 悪魔をも屈した妖精。スプスーの反撃が始まった。

「悪魔使いかよ。コイツはまずい」

 ワルガーはそう言いながら、ダランより明らかに脅威であるデーモンへ、攻撃の対象を切り替えた。


 がぶり。


 頭をかじられたワルガーは、顔を引きつらせた。
 頭から血を滴らせながら、ワルガーは必死に手斧でデーモンの腹を切りつけた。
 だが、デーモンは動じない。高位悪魔の頑丈さは並みのそれではないのだ。

 そして、追い討ちにとスプスーは残り僅かな魔力を球状にし、弾丸のように何発も放った。

魔法の釘矢ボルトの味は如何かな、プリ」

 そう呟いたスプスーは、次の瞬間、崩れ落ちた。

 そして、振り向きざまにマジルの姿を見たのだった。
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