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グランド・アーク
悪魔の契約
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スプスーは、死んだ。
マジルは暗殺の達人だ。気絶するフリをして、ダランたちの視野の外からずっと好機を伺っていたのだ。
ワルガーもまた、マジルは負けてなどいないと分かっていた。戦いの手応えからして、ダランたちが格下だという判断を下し、それが正しかったのである。
「勲章マンなぞ、大した事はなかったな」
「ええ。ですが、油断は禁物です」
そう言うなり、ワルガーは手斧を巨大化させてデーモンを切り裂いた。
「まあ、コイツばかりはスプリガンたちのおかげだな」
巨大化魔法。スプリガンの秘術だ。
人間たちの間で、魔法は禁じられている事は述べた。だが、それはあくまでまともな人間の話。
ワルガーのように悪に手を染めた外道には、一切の禁忌は存在しないのである。
真っ二つになったデーモンは消滅した。
召喚された存在は、術者の魔力に応じた仮の肉体で動く。そのため、消えたとは言っても死んだわけではないが、デーモンを始めとした悪魔の本体は精神体である。
よって、スプスーが死んだということは、召喚されて現実世界に干渉する事は出来ないのである。
ダランは、もうほとんど動けない。
戦闘の構えこそ取っているし、鍛え上げた肉体という鎧は致命傷をあらかた防いではいたものの、実際に戦えるだけの体力は尽き果てていた。
「おしゃべりはそこまでだ、キミたち。二人まとめて、懸かって来なさい」
無理やり己を奮い立たせつつ、ダランは声を張り上げた。たとえ敗北するとしても、信念まで敗北するわけにはいかないのだ。
それに、ここでの翼竜槍の扱いとして、ダランには試したい事があった。通用すれば、突破口に成り得るという確信があるのだ。
「とてもじゃないが、懸かっていけるような体調には見えんぜ」
しかしワルガーには、ハッタリだと分かりきっていた。自らが狩る相手のダメージを知っているのは、他ならぬ狩る側なのだ。
「強がるな。興が醒める」
「それはどうかな」
ワルガーとダラン、両者の間には見えない火花が散っていた。
ワルガーは、元は伝統ある剣士の一族だ。
剣豪と恐れられた男を父に持つワルガーだが、その少年時代は意外にも穏やかだ。
格式ある騎士学校に通い、ワルガーは神に仕える神聖騎士を目指していた。名誉が約束された人生。
剣の腕は父譲りである。
順調に出世していけば、ゆくゆくは世界を背負う大器になると称されていた。
だが、父の突然の失踪を機にワルガーは地獄を見る事になる。
原因はいまだに不明で、生きているのかさえ分からない。
しかし、世間にはそんな事情は関係なかった。たとえどんなに非が無くとも、父親がいない騎士などいてはならないのだ。
そして、若干10歳にしてワルガーは問答無用で破門された。その左遷先こそ、壁の町ヒルミスだ。
「大盗賊を舐めるんじゃねェ」
手斧は、二倍ほどになった先ほどの、更に倍になった。
「巨人の斧」
重厚な一撃が、無情にダランへと向かっていく。
「ちょっと待ったあああプリ」
スプスーのような漆黒の何かが、巨大な斧を弾き飛ばした。
狭い室内を幾重にも跳ね、斧は少しずつ小さくなり地面に落ちた。
悪魔化。
スプスーの奥の手である。代償と引き換えに、スプスーは高位悪魔の力を得たのだ。
そうした契約を、スプスーはかつて結んだ。
「ボクちんを怒らせた責任、取ってくれプリ」
怒りに満ちた恐ろしい声色だが、プリという語尾が全てを打ち消してしまっている。
「私を忘れてないか、もぐら犬」
マジルが、早くもスプスーに狙いを定めて50本の苦無を投げ付けた。
五十音順刀。マジルの暗殺奥義のひとつだ。並みの相手ならば、確実に死ぬ。
だが、その全てが乾いた音を立てて落ちていくばかりだ。
刃が立たない肉体。悪魔となったがゆえに得た、スプスーの強化皮膚だ。
「スプスーさんパンチ」
名前の通りの、スプスーのパンチだ。だが悪魔の力は強大。
マジルは鏡の柱に激突するほどに、吹っ飛ばされた。
その間、ダランとワルガーは決着を付けるための戦いを始めていた。
ダランはさっき考えていた、試したい事を実行するタイミングを探った。
ワルガーは手斧を失って尚、強いのだ。
「斧など飾り。武器など甘やかされた金持ちのオモチャ。真の武器はこの拳よ」
そして、強烈なストレートをダランに向けて放つ。こちらもただのパンチだが、絶妙な間合いのためにダランは避けられない。
「ハァ・・・ハッ」
息が上がっていた。いつまでも機会を逸しないで秘策を放てるわけではない事が、ダランの限界に近い肉体が物語っていた。
「ヴヴヴヴヴヴ」
スプリガンは、スフィアに対して明らかに敵意を抱いていた。いや、敵意などという生易しいものではない。
憎悪。魔物が持つ野生の憎しみをスフィアは今、目の当たりにしていた。
しかし、スフィアは拘束のために腕を体ごと縄で縛られ、身動きが取れないのだった。
マジルは暗殺の達人だ。気絶するフリをして、ダランたちの視野の外からずっと好機を伺っていたのだ。
ワルガーもまた、マジルは負けてなどいないと分かっていた。戦いの手応えからして、ダランたちが格下だという判断を下し、それが正しかったのである。
「勲章マンなぞ、大した事はなかったな」
「ええ。ですが、油断は禁物です」
そう言うなり、ワルガーは手斧を巨大化させてデーモンを切り裂いた。
「まあ、コイツばかりはスプリガンたちのおかげだな」
巨大化魔法。スプリガンの秘術だ。
人間たちの間で、魔法は禁じられている事は述べた。だが、それはあくまでまともな人間の話。
ワルガーのように悪に手を染めた外道には、一切の禁忌は存在しないのである。
真っ二つになったデーモンは消滅した。
召喚された存在は、術者の魔力に応じた仮の肉体で動く。そのため、消えたとは言っても死んだわけではないが、デーモンを始めとした悪魔の本体は精神体である。
よって、スプスーが死んだということは、召喚されて現実世界に干渉する事は出来ないのである。
ダランは、もうほとんど動けない。
戦闘の構えこそ取っているし、鍛え上げた肉体という鎧は致命傷をあらかた防いではいたものの、実際に戦えるだけの体力は尽き果てていた。
「おしゃべりはそこまでだ、キミたち。二人まとめて、懸かって来なさい」
無理やり己を奮い立たせつつ、ダランは声を張り上げた。たとえ敗北するとしても、信念まで敗北するわけにはいかないのだ。
それに、ここでの翼竜槍の扱いとして、ダランには試したい事があった。通用すれば、突破口に成り得るという確信があるのだ。
「とてもじゃないが、懸かっていけるような体調には見えんぜ」
しかしワルガーには、ハッタリだと分かりきっていた。自らが狩る相手のダメージを知っているのは、他ならぬ狩る側なのだ。
「強がるな。興が醒める」
「それはどうかな」
ワルガーとダラン、両者の間には見えない火花が散っていた。
ワルガーは、元は伝統ある剣士の一族だ。
剣豪と恐れられた男を父に持つワルガーだが、その少年時代は意外にも穏やかだ。
格式ある騎士学校に通い、ワルガーは神に仕える神聖騎士を目指していた。名誉が約束された人生。
剣の腕は父譲りである。
順調に出世していけば、ゆくゆくは世界を背負う大器になると称されていた。
だが、父の突然の失踪を機にワルガーは地獄を見る事になる。
原因はいまだに不明で、生きているのかさえ分からない。
しかし、世間にはそんな事情は関係なかった。たとえどんなに非が無くとも、父親がいない騎士などいてはならないのだ。
そして、若干10歳にしてワルガーは問答無用で破門された。その左遷先こそ、壁の町ヒルミスだ。
「大盗賊を舐めるんじゃねェ」
手斧は、二倍ほどになった先ほどの、更に倍になった。
「巨人の斧」
重厚な一撃が、無情にダランへと向かっていく。
「ちょっと待ったあああプリ」
スプスーのような漆黒の何かが、巨大な斧を弾き飛ばした。
狭い室内を幾重にも跳ね、斧は少しずつ小さくなり地面に落ちた。
悪魔化。
スプスーの奥の手である。代償と引き換えに、スプスーは高位悪魔の力を得たのだ。
そうした契約を、スプスーはかつて結んだ。
「ボクちんを怒らせた責任、取ってくれプリ」
怒りに満ちた恐ろしい声色だが、プリという語尾が全てを打ち消してしまっている。
「私を忘れてないか、もぐら犬」
マジルが、早くもスプスーに狙いを定めて50本の苦無を投げ付けた。
五十音順刀。マジルの暗殺奥義のひとつだ。並みの相手ならば、確実に死ぬ。
だが、その全てが乾いた音を立てて落ちていくばかりだ。
刃が立たない肉体。悪魔となったがゆえに得た、スプスーの強化皮膚だ。
「スプスーさんパンチ」
名前の通りの、スプスーのパンチだ。だが悪魔の力は強大。
マジルは鏡の柱に激突するほどに、吹っ飛ばされた。
その間、ダランとワルガーは決着を付けるための戦いを始めていた。
ダランはさっき考えていた、試したい事を実行するタイミングを探った。
ワルガーは手斧を失って尚、強いのだ。
「斧など飾り。武器など甘やかされた金持ちのオモチャ。真の武器はこの拳よ」
そして、強烈なストレートをダランに向けて放つ。こちらもただのパンチだが、絶妙な間合いのためにダランは避けられない。
「ハァ・・・ハッ」
息が上がっていた。いつまでも機会を逸しないで秘策を放てるわけではない事が、ダランの限界に近い肉体が物語っていた。
「ヴヴヴヴヴヴ」
スプリガンは、スフィアに対して明らかに敵意を抱いていた。いや、敵意などという生易しいものではない。
憎悪。魔物が持つ野生の憎しみをスフィアは今、目の当たりにしていた。
しかし、スフィアは拘束のために腕を体ごと縄で縛られ、身動きが取れないのだった。
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