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魔法の剣
初めての依頼
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テックは、それからもクランにはこまめに通った。冒険学校の学生向けに教材補助の問題集なども売っているため、学生もそれなりに常にいる。
テックは適当に、薬草学のテキストを幾つか購入したくらいだ。
薬草学だけは大の苦手で、予備知識でもプラスアルファがないとモチベーションが保てないのだ。
冒険学校での生活はそれなりだ。
教養と実技、それぞれを一定の単位だけ修めていく。ただ、冒険者と一口に言っても、学年が上がるにつれてかなり幅広い科目から選択していける。
戦士や武闘家、狩人など、目指す領域は人それぞれなので、冒険の基礎的な部分を1年次に学び、以後は少しずつ専門に分かれていくのである。
今、テックは1年生なので、自由な時間はそれなりにある。忙しさ、勉強のための拘束時間も学年が増すにつれて増えていく。
「おや、薬草採取の依頼だ」
クラン専用の掲示板には、難易度別に依頼が随時掲載されている。
初心者向けの依頼も充実してはいるが、1年生の、しかも編入したてではまだまだ受けられそうな内容は少ない。
しかし、薬草採取は初心者向けの中でもとりわけ易しい依頼である事がほとんどだ。
魔物退治が目的でない上に、薬草は種類こそ多いものの、その多くは見た目が特徴的である。
戦うべきなのは蛇や蜂などであり、これらは冒険の基礎知識で対応可能だ。
そのためか、多くの冒険者が最初に受けるのが薬草採取なのだ。
「そろそろ、戦いにも慣れていかないとな」
こうして、テックは薬草採取の依頼を受けたのだった。
ラータラッタの森。
草木がどこまでも生い茂るその森は、ギルドがあるサラの町から北東にある。
ユライナ区と名付けられた、ハード区の外。つまり国の直轄ではない。
そのため地域の安全性はややハード区より劣る。ただ、ハード区に初心者が受けられるような生温い依頼など滅多にない。
ハード区の易しい依頼は、ベテランが個人契約で定期的に解決してしまうからだ。
テックは森に足を踏み入れた。休日の昼下がりにしては、やけに静かだ。都心でないというだけでこうも人通りが寂しくなるのかと、テックはショックを受けた。
ただ、人がいないならば魔法剣を実戦で使えるという事でもある。
冒険学校での戦いからしばらくして、テックは魔法剣でない普通の短剣を持ち歩いている。魔法剣の習熟にこだわり過ぎて失敗した、牙の洞窟での一件以来、テックがいつかしておこうと思っていた装備を、ようやく実現したのだ。
テックには練習しておきたい技があった。
それには魔法剣が必要だが、いざとなれば普通の短剣で普通の冒険に慣れる選択肢が増えたのは、テックの心理的な負担を軽くしたのだ。
ちょうどその時、木陰から蛇が数匹、そしてこうもりが飛び出してきた。
生態や動きは限りなく動物のそれに近い、無名の魔物たちだ。
こういう場合は、毒を持つかもしれない蛇から倒すのが定石だ。テックはそのようにした。
短剣を、蛇に向かって投げたのだ。
蛇は素早い。魔法剣を使うリスクを、ここでテックは避けた。
短剣はその名の通り、刀身が短い。
そのため、切り付けるには危ない相手にはこのように投擲で対応するというのが、学校で学んだ冒険の基本だ。
テックは蛇の一匹を、一発で仕留めた。まだ他にもいるが、そいつらには投石、つまり小石を投げて弱らせ、こうもりの突撃を避けつつ、隙を見て短剣を拾う。
短剣投げをメインに戦う冒険者なら短剣ばかり大量に持つのだが、テックは臨機応変に戦う訓練も兼ねて、予備は持っていないのである。
蛇を一匹、また一匹と片付けていく。そしていよいよ、こうもりとの戦いだ。
牙の洞窟のゴブリン集団と比べれば、大した事はない。身軽に動ける短剣の醍醐味、ヒット&アウェイによって、大きな怪我を負う事なく、かすり傷程度で戦いは終わりを迎えた。
魔物との戦いにおける、テック初勝利の瞬間だ。
そして、無謀を目指さないというだけで格段に被害が減り、冒険の実力が数段上がっているのをテックは自覚したのである。
「しまった。こうもり野郎になら、あれを仕掛けても良かったか」
戦いに夢中になってしまうのは、テックの悪い癖だ。ただ、冒険や戦闘の経験の浅さから来るのだから仕方なくもある。
短剣を布で拭い、起こした火で清める。これもまた冒険の基本だ。
血を放っておくと、不潔な上に取れなくなる。無駄な戦いを避けて、こうした作業を減らそうという気持ちも湧く。
全くお金に不自由しないならともかく、有限である物資は大切に扱う必要があるのだ。
何度か魔物との戦いはあったが、同じように倒していく。
魔法剣の技を試すのは、もう少し戦い慣れてからにしようと考えを改めたのだ。
探すべき薬草を、無事に採取した。
それから、再びクランに戻った。
クランは、ギルド内に部署として存在する。テックは〈暁鴉〉と札がある扉を引き、依頼完了を報告したのだった。
テックは適当に、薬草学のテキストを幾つか購入したくらいだ。
薬草学だけは大の苦手で、予備知識でもプラスアルファがないとモチベーションが保てないのだ。
冒険学校での生活はそれなりだ。
教養と実技、それぞれを一定の単位だけ修めていく。ただ、冒険者と一口に言っても、学年が上がるにつれてかなり幅広い科目から選択していける。
戦士や武闘家、狩人など、目指す領域は人それぞれなので、冒険の基礎的な部分を1年次に学び、以後は少しずつ専門に分かれていくのである。
今、テックは1年生なので、自由な時間はそれなりにある。忙しさ、勉強のための拘束時間も学年が増すにつれて増えていく。
「おや、薬草採取の依頼だ」
クラン専用の掲示板には、難易度別に依頼が随時掲載されている。
初心者向けの依頼も充実してはいるが、1年生の、しかも編入したてではまだまだ受けられそうな内容は少ない。
しかし、薬草採取は初心者向けの中でもとりわけ易しい依頼である事がほとんどだ。
魔物退治が目的でない上に、薬草は種類こそ多いものの、その多くは見た目が特徴的である。
戦うべきなのは蛇や蜂などであり、これらは冒険の基礎知識で対応可能だ。
そのためか、多くの冒険者が最初に受けるのが薬草採取なのだ。
「そろそろ、戦いにも慣れていかないとな」
こうして、テックは薬草採取の依頼を受けたのだった。
ラータラッタの森。
草木がどこまでも生い茂るその森は、ギルドがあるサラの町から北東にある。
ユライナ区と名付けられた、ハード区の外。つまり国の直轄ではない。
そのため地域の安全性はややハード区より劣る。ただ、ハード区に初心者が受けられるような生温い依頼など滅多にない。
ハード区の易しい依頼は、ベテランが個人契約で定期的に解決してしまうからだ。
テックは森に足を踏み入れた。休日の昼下がりにしては、やけに静かだ。都心でないというだけでこうも人通りが寂しくなるのかと、テックはショックを受けた。
ただ、人がいないならば魔法剣を実戦で使えるという事でもある。
冒険学校での戦いからしばらくして、テックは魔法剣でない普通の短剣を持ち歩いている。魔法剣の習熟にこだわり過ぎて失敗した、牙の洞窟での一件以来、テックがいつかしておこうと思っていた装備を、ようやく実現したのだ。
テックには練習しておきたい技があった。
それには魔法剣が必要だが、いざとなれば普通の短剣で普通の冒険に慣れる選択肢が増えたのは、テックの心理的な負担を軽くしたのだ。
ちょうどその時、木陰から蛇が数匹、そしてこうもりが飛び出してきた。
生態や動きは限りなく動物のそれに近い、無名の魔物たちだ。
こういう場合は、毒を持つかもしれない蛇から倒すのが定石だ。テックはそのようにした。
短剣を、蛇に向かって投げたのだ。
蛇は素早い。魔法剣を使うリスクを、ここでテックは避けた。
短剣はその名の通り、刀身が短い。
そのため、切り付けるには危ない相手にはこのように投擲で対応するというのが、学校で学んだ冒険の基本だ。
テックは蛇の一匹を、一発で仕留めた。まだ他にもいるが、そいつらには投石、つまり小石を投げて弱らせ、こうもりの突撃を避けつつ、隙を見て短剣を拾う。
短剣投げをメインに戦う冒険者なら短剣ばかり大量に持つのだが、テックは臨機応変に戦う訓練も兼ねて、予備は持っていないのである。
蛇を一匹、また一匹と片付けていく。そしていよいよ、こうもりとの戦いだ。
牙の洞窟のゴブリン集団と比べれば、大した事はない。身軽に動ける短剣の醍醐味、ヒット&アウェイによって、大きな怪我を負う事なく、かすり傷程度で戦いは終わりを迎えた。
魔物との戦いにおける、テック初勝利の瞬間だ。
そして、無謀を目指さないというだけで格段に被害が減り、冒険の実力が数段上がっているのをテックは自覚したのである。
「しまった。こうもり野郎になら、あれを仕掛けても良かったか」
戦いに夢中になってしまうのは、テックの悪い癖だ。ただ、冒険や戦闘の経験の浅さから来るのだから仕方なくもある。
短剣を布で拭い、起こした火で清める。これもまた冒険の基本だ。
血を放っておくと、不潔な上に取れなくなる。無駄な戦いを避けて、こうした作業を減らそうという気持ちも湧く。
全くお金に不自由しないならともかく、有限である物資は大切に扱う必要があるのだ。
何度か魔物との戦いはあったが、同じように倒していく。
魔法剣の技を試すのは、もう少し戦い慣れてからにしようと考えを改めたのだ。
探すべき薬草を、無事に採取した。
それから、再びクランに戻った。
クランは、ギルド内に部署として存在する。テックは〈暁鴉〉と札がある扉を引き、依頼完了を報告したのだった。
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