マテリアー

永井 彰

文字の大きさ
44 / 100
魔法の剣

老師

しおりを挟む
 ムデュマは猫人ニャントの生き残りである。
 かつて、アイナムという猫人が一族を裏切って大魔王のしもべとなった時、多くの同胞を失った過去を持つ。

 また、大魔王の配下に同族がいるのは、普通は忌み嫌われる所以になるものだ。しかしムデュマは、その揺るぎない信念と類いまれな指導力により数々の弟子を育て上げることで、その汚名を幾度も返上してきた苦労人なのだ。

「ミルキーちゃん、下がってなさい」

 テックを通せんぼしている猫人の少女に向かって、ムデュマは話しかけた。

 テックがいるのは、ムデュマがいると聞きつけやって来たハザ山だ。世界級鬼ワールド・ビーストや暗黒剣との戦いで近くにこそいたものの、標高72600メートルの世界最高峰は登る気にもならなかったらしい。

因果カルマじゃのう」
「魔法剣を知ってんのか、ジジイ」
「魔法剣?ああ、オヌシの中にある魂の剣の事かね」
「な?!見えるのか、ジジイには」
「ああ。心の目が開ければ、見えぬモノなど何もあるまいて。あと、―――いや、ジジイでええわい」

 ハザ山の頂上は、本来ならふもとから実力で登って来なければならないらしい。
 しかしテックは、ハザ山の頂上にムデュマがいるというヤンからの情報を聞いた後に横着した。
 神託の庭に行き、フレイアから教えてもらった方陣を使い、頂上にあるムデュマの庵までショートカットしたのだ。

「カルマとは、因果。すなわち因縁じゃ」
「魔法剣じゃなく、ただの因果の話か」
「オヌシは、何度かこの辺りに来ただろう。しかも戦いのために。それこそが因果なのじゃよ」
「よく分からねえ。俺は魔法剣を、半分くらいは魔力で無理やり使ってるんだ」

 テックの場合、第五剣以降は、魔力を神薬で底上げする事で仮に解放しているに過ぎないのだ。

「うむ、それはあまり良くないのう。その内、剣に使われるぞい」
「やっぱりヤベえのかよ」
「ああ、めっちゃんこヤベえ」

 魔法剣を心から理解出来ていて、始めて魔法剣は宿主、つまり持ち主を主人と真に認める。そのプロセスを無視し、魔力により力ずくで剣を振るうならば、それは魔法剣の試練を無視し、魔法剣を侮る事になってしまうのだ。

「ショーンの事で来たのに、俺もヤベえのかあ」
「ビップ族もまた因果の中にあるわな」
「なんでもお見通しかよ」
「ああ、な~~んでもじゃ」

 ビップ族は先天的に魔法を使えるが、決して強い魔法使いでないがために困難な生を強いられている。その事をムデュマは分かっているようだ。

「だったら、助けてやってくれねえかな。俺は自分の事ならなんとか出来る」
「ふーむ。タダでか?」
「か、金取るの?」
「商売じゃもん」

 明らかに働くには早い若者に金をせびるほど、ムデュマはその輝かしい実績とは裏腹に金欠だ。

「1000000メニーじゃ。これ以上は曲げられんよ」
「ひゃ、百万だってぇ?そんなん十三傑でもないと、とても無理だぞ」
「そうじゃよ?」
「なら、アンタをぶっ飛ばして帰るわ」

 テックは第二剣コマンドメントを召喚した。

「待て待て待て。すぐに払えとは言うとらん。実はとっておき・スペシャル・ワンダホー・プランがあるんじゃ」

 指定する五体の魔物を全て倒したら50年、料金支払いを延長出来る夢のプランをムデュマは説明した。

「えっ、そんなんで良いのか?」
「ああ。しかも、これは修行者と修行卒業者、さらに将来の修行希望者、全員が対象なんじゃ。いずれの魔物も伝説級、まだ誰も倒しとらん。達成出来たら、全員がプラン適用じゃ」

 50年もありゃ、流石に払えるじゃろう?と、ムデュマはニヤリと笑った。

「でも、十三傑すら倒せてない魔物なんて俺たちに倒せっかな」
「さあ?」
「無茶苦茶だなあ」

 五体の魔物は、いずれもフェセナ大陸にいる。
 炎のメテオ・トロール。
 雪のフリーズ・ウィスプ。
 影のワイド・ワイト。
 剛の鉄ゴブリン侍。
 戦のテラ・アンバライト。

「倒せなくても良いからの。1000000メニー、きっちり払えば稽古は付けちゃる」
「そ、そんな」
「あと、次からはちゃんと登ってくるようにの」

 テックはティンフシーの学生寮に帰ってきた。

「ショーン、いるか」

 ショーンも学生寮住まいだ。

「なんだい、テック」
「1000000メニーあるか」
「どうしたの急に」

 かくかくしかじかを、テックは説明した。

「1000000メニーあったとしても、そんな険しい山なんて登れないよ」
「あ、ショーンの場合、そもそもそうだよな」
「登れるの?!」

 ショーンなら口が固そうだと思い、魔法剣を見せた上でテックはかいつまんで今までの戦いの日々を説明した。

「テック、道理で風格があるわけだ」
「思ったより、驚かねえな」
「いや、そりゃ驚くけど、色々と隠してるのはみんな一緒なのかもね」
「う、まあ、そうなのかな」

 とりあえずショーンが納得しているので、テックは、よしとしたのだ。

「で、俺なら五体の魔物、退治出来るかもしれねえ。任せてくれねえかな」

 ショーンは長い間、沈黙していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...