マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

千年時空

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「テック。お前は魔法剣に選ばれただけ、それ以外は凡人なんだぜ」

 開口一番、フレイアはそう言い放った。

「お、おう。―――それって、マズいのか」
「マズいな。複合属性は、先天的な潜在魔力が高くないと普通は扱えない。お前の魔力は神薬を使っても、複合魔法を使うのに必要な1000分の1もない」
「それは、マズいな」

 つまり十三傑のダイ=キアが複合魔法を使えるのは、テックの1000倍以上の潜在魔力を持つからなのであり、テックには、複合魔法を扱うだけの魔力を持てないのである。

「でも、2つの属性さえ混ざればいいのに、そんなに魔力いるか?なんか変だぞ」
「ただでさえ、魔力を詠唱などで無理やり火や氷など自然物に変えるのが魔法だぜ。それを更に無理やり合わせるんだから、そりゃ別に変でもなんでもないし、実際、お前では出来ないんだぜ」

 何か論破された感が凄いため、テックは頷いた。

(フレイアがそこまで言うなら、まあ―――そうなんだろう)
「1000年修行出来るか?」
「えっ」
「だから、1000年修行出来るか?」
「いや、無理」
「1000年修行出来れば、複合魔法が使えるとしたらら?」

 フレイアはやけに1000年というワードを強調しながら、テックにしつこく聞いてきた。

「1000年なんて、死んでるだろ俺。バカにしてんのか?」
「いや、そうじゃないんだぜ。お前がその気なら、1000年修行出来る場所はある」
「仮にそうだとしても、1000年も修行してたらショーン死んでるだろ。バカにしてんのか?」
「1000年は1000年でも、テックの世界での3日だぜ。学校はまあ、サボる事になるが―――友のためというなら、なんてことないよな?」

 そして、テックはそこにやって来た。

 千年時空。剣神オーディンが、更なる強さを欲した時に自らに課す試練の場として作ったと言われている。
 そのためか、内部は神聖さに満ちた厳かな作りになっている。白を基調とした空間に、休むためのベッド、食べても減らないパンや水、そして絶対に壊れない特訓用かかしと、修行に必要なモノは揃っている。

「おお、これで俺もキアの強さをゲット出来るのか」

 テックは喜び勇んで魔法の練習を始めた。

【テック、私だぜ。言い忘れたが、1000年経つまではそこから出れないからな。気が狂わないように頑張るんだぜ】

 テックは激怒した。

「邪智暴虐の女神め」

 しかし入ってしまったものは仕方ない。どちらにせよテックはショーンのために、複合魔法を習得せねばならないのだ。

 そして、あっという間に千年時空での3年が過ぎた。

 魔法剣の素振り、第一剣ニルヴァーナでかかし相手の試し切り、あるいは瞑想、―――あらゆる手段を講じた。
 フレイアからは、たびたびダメ出しが入った。死神の時間の流れは現実とは違うらしく、フレイアとばかりの会話をうんざりするほどになったテックである。

「なんでキジュアさんは連絡ないんだ」
【アイツにこれはまだ無理だぜ。あと、なんでワシは呼び捨てなんだ、なぜだぜ】

 5年目あたりで、精神が病んでくる。幻聴や妄想に犯され、魔法の習得とはまた別の苦しみが始まるのだ。

「はあ、はあ。うっせえ。俺はやるんだ、やらないといけないんだよ」

 こんな事で千年、つまりあと995年も耐えられるのか。テックは自分自身が心配になり、練習を怠るようになった。

【テック、時間を無駄にするな。1000年でギリギリ間に合うかどうかだぜ。しかも、人間の精神力では一度きりしかそこは使えない】

 説明不足だろ、などと今さら言っても仕方ない。
 複合魔法のための基礎としてフレイアに教わった方法を、テックは試した。初級の下級魔法を訓練することも兼ねた練習だ。
 火を念じ、小さな火を右の手のひらに出す。次に氷を念じ、これまた小さな氷を今度は左の手のひらに出す。
 別々に順番に出すだけで、これはまだ複合魔法でもなんでもない。しかしこの、順番に別属性を出すという行為を限りなく速く行うのが複合魔法だ。

 5年目時点では火を出し、氷を出すまで5秒。しかも氷を出すと、別々の魔法を同時に出せない単属性の原理により火は消えてしまう。
 先ほど2つの属性を別々に速く出すだけと述べたばかりだが、実はこの単属性の原理を覆すためにもう1段階が必要だ。
 それは、順番に別属性を交互に出す事を延々と素早く行い続けるという事。すなわち厳密には、複合魔法とは高速連続魔法なのだ。

 大量の潜在魔力が必要な理由も、魔法は出す瞬間にたくさんの魔力を必要とするからである。
 単属性を維持するだけなら、維持のための魔力は魔法を出す魔力の1000分の1ほど。つまり、1000という倍率は正に、その点に由来するのだ。

「間に合うのか、1000年で。もうリミットの200分の1が過ぎたってのに、こんなモンで良いのか?」

 テックはフレイアの返答を少しばかり期待したが、返事はない。

「かかしと戦うのも飽きたな」

 素振り、かかし、魔法のループ。
 果たしてこれだけの修行で、本当に複合魔法は完成するのだろうか。

【テック。もしかして、修行に飽きたか】
「まあ、少しな。多少キツくて良いから、1000年に確実に間に合う修行ねえの?」
【あるんだぜ。じゃあ、かかしを動かすから】

 テックはカチリ、とスイッチを押す音がしたような気がした。すると、かかしがくねくね動き出したのだ。

「アウイェー。おいどんはかかしでごわす。あんさんは、どなたどすえ?」

 めちゃくちゃな日本語だ。

「て、テックどす」
「よろしゅう、おおきに」

 そして、唐突に襲いかかってきた。

「ぐわーっ」
「くくく、油断したな。お前を倒して、いい加減にこんな部屋から出てやる」
【スルト。本気でやっていいんだぜ】
「うるせえ。ガキをぶっ飛ばして、外に出たらテメエもぶちのめすからな」

 オーディンの怒りを買い、かかしに姿を変えられたらしいがスルトは神ではなく、巨人族だ。

「なんだガキ。じろじろ見てんじゃねえぞ」
「よく分からねえけど、俺も本気なんだ。複合魔法を覚えるための踏み台になってくれ」

 そう言うと、テックは第七剣マジで猛烈に戦い始めた。

「痛い痛い痛い、痛いって。分かった、分かりましたよ。じゃあアンタなら修行相手になりますから」

 スルトは強い相手に弱いらしく、急に敬語になった。

「よっしゃ、じゃあよろしくな、スルト。俺はテック=シヴァン」

 そして会話相手が増え、テックは修行に再び打ち込み始めた。

「巨人パンチ!巨人パンチ!」

 巨人だった頃のとっておきの技らしく、スルトは巨人パンチを中心とした攻めを繰り広げた。

「ほい、ほい。うーん、まあ体さばきの練習にはなるけどさあ、魔法の練習になりそうな技ないの?」

 巨人パンチは巨人でないかかしでは、ただのパンチ。魔法でもなんでもないので、基礎体力は付いたとしても複合魔法に繋がるかは微妙だ。

「うーん、魔法ですか?おいどんは格闘術しか分からないですね」
「おいどんってのだけは素なんだな」

 千年時空は、実はオーディンが槍の訓練に使う場所である。そもそも、魔法修行には本来は向かず、フレイアとしては「とりあえず1000年あれば余裕だろう」程度の考えだったのだ。
 
【テック。もうそろそろ800年になるが、魔法の仕上がりはどうだ】

 当事者からの定時連絡だ。

「おう、フレイア。正直、間に合うか微妙になってきたぞ」
「と言っても、テックどんは剣のセンスが相当、磨かれたからな。テメエを倒すのも時間の問題だ」
【わ、私はテックの敵でもお前の敵でもないんだぜ】

 そして修行は続き、900年が過ぎた。

「よく考えたら、全然、年とってないぞ」
「テックどん。それは肉体の成長を、外の時間に合わせてあるからですよ」

 たまに気まぐれに起こされては知識を教え込まれ、スルトは千年時空の案内人程度は務まるようになっている。

「あとひと息なんだよなあ」

 テックは複合魔法の基本を始めた。
 右手に火を出し、左手に氷を出す。

 0.2秒。まずまず実用的なレベルだが、テックはまだ一抹の不安がある。
 複合魔法を持続して出し続ける魔力が、微妙に足りないのだ。
 そのため、20秒しか複合魔法を使えないままに1000年が過ぎようとしていた。

「おいどん、詳しくはないですけどテックどんは頑張ってたと思いますぜ」
「まあ、そうなんだけどさ」
【想定より遥かに甘いんだぜ。もっと粘って1分を目指せ】

 残り20日。追い込みに追い込んで、テックは潜在魔力を底上げした。
 潜在魔力の人為的な増量のためには、体内の魔力をギリギリまで減らすのが実は効果的だ。死にかけてから回復するのも、体内魔力を大量に消耗するため有効だが、何度も短期間に死にかけられるほど人の体は頑丈ではない。

「テックどん、頑張れテックどん」
「えっほ、えっほ」

 地道なロードワークも、体力や集中力を身に付けるためには欠かせないアクティビティ。それがテックにはすっかり骨身に染みていた。
 1000年の経験から得た、地味な訓練にも意味があるという教訓だ。

「素振り素振り」
「もっと脇を締めて、そして目線を一点に集中させてください」

 長い時の中で、スルトにも監督の素養が身に付いてきたのかもしれない。熱の入ったアドバイスで、テックは何度も立ち直ってきた。

「よし、あと1年。あと1年」

 テックはいつしか、誰より健全な精神を手にしていた。1000年もあれば人は強くなれる、それは確かなのだろう。
 しかしそれでも天賦の才能は魔法には殊更、効いてくるらしい。
 テックでは残り1年に迫った今でも複合魔法を30秒使うと、その日の魔法はもう使えない。もう1000年欲しい、テックはそう祈った。

 そして、千年時空にいられる最後の日が来た。

「テックどん、やれるだけはやったと思います。本当によく頑張りました」
「ありがとう、スルトさん。元気もらってここまで来れました。本当に、本当にありがとう」

 光に包まれテックは消えていく。

「ただいま、ババア」
「なんでババアに格下げ、なぜだぜ」

 そしてテックは元の世界へと戻ったのだった。
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