1 / 14
神のゲーム
主人公
しおりを挟む
向田 藤太郎は、凡人である。
どう凡人であるかと言うと、まだ未成年なのに天国と地獄を見ているあたりだろうか。
そういうとわけが分からない理屈だと嘲笑に付されるだろうから、藤太郎を例にしっかりとした説明を加えよう。
凡人とは、人生においてテンポの良さが売りである。よって、藤太郎も凡人であるからテンポが良い。そのテンポには、凡人ゆえの時間がない焦りが含まれている。
生き急ぐからテンポだけは良い。良くも悪くも典型的な日本人。藤太郎はそういう、ごく普通のどこにでもいる男子高校生だ。
天才たちには気付かれもしない、平凡な人生。今まで彼が送ってきたのは、そんな他愛なくも平和な人生だ。
遅刻はしないが、かと言って成績優秀というほどでもない。定期テストは平均点より、かろうじて上をキープ。そして後は適当に友だち付き合い。ざっくり言うと、そういう毎日が藤太郎の日常だ。
ザ・人生の消火隊員。天国も地獄も知らないような顔をするのが藤太郎にとっては、当たり前の感覚だった。
さて、凡人だけの物語もまた興味深い群像劇ではあるが、ここにライトノベルの象徴たる超人も紹介せねばなるまい。
誰に似ているでもない凡人とは違い、若き日のクリストファー・ロイドを思わせる、端正な顔立ちに不自然なほどお似合いの七三分け。
その超人の名は、加護盾 神人。
一見すると普通の青年なのだが、よく見るとぞっとするほどの、一種の美しさを隠せない顔立ちを神人は自覚していた。
「雷笛!」
神人は渋袋宿駅の入り口で突如としてそう叫んだ、かに思われた。
実際には声は発していない。ただ、聞くべき者にだけ届くような、声なき声で神人は〈それ〉を呼んだに過ぎないのだ。
ギャラルホルンとは、北欧神話に登場する笛である。神人はそのままではつまらないというだけの理由で、与えられたその神話の笛を変質させ、ある大きな因果の力を込めた上で鳩としての生命を埋め込んだ。
その結果、鳩がどう作用したのか、大きな因果は雷を起こす力として具現化した。彼自身にさえ現象は理解を超えたが、どこか享楽的で退廃的な神人は思いの外、素直に結果を結果として受け入れた。
享楽的で退廃的な人間は、ひねくれ根性を拗らせた挙げ句に素直になる。一周回っているのだ。
手品でよく使われる、真っ白な鳩。
銀鳩と言う品種である事を、神人は知っていた。超人どころか、天才でもある神人には未知という概念は存在しないのだ。
というのは大袈裟で、いや実際に神人は天才でもあるのだが、銀鳩の名を知っているのは天才だからではない。
ただ、その話はいずれ別の機会に話そう。
ここで重要な事があるとすれば、雷笛と融合した鳩はその銀鳩だという事くらいだ。
そして、おもむろに神人は〈それ〉、すなわち雷笛を揺らした。
ポロシャツの袖が、ちりちり焦げる。まだ慣れていないため、微妙に笛を制御しきれないのが神人の悩みの種だ。
超人にすら扱い兼ねる因果を帯びてしまった笛は、揺らされて空気と共振する。
共振。つまり、空気と同期した振動を起こしているのだ。どんなに無風だとしても、あらゆる分子は振動している。空気といえども振動しているから、共振は理論上は可能であり、雷笛は因果律でその理論を超える。
それが雷笛の力だ。強すぎる因果は理論を無視する。
と、その時、不意に雷人の肩を誰かが叩いた。
京舞だ。超人のただ一人の理解者。立命館 京舞という戦乙女だ。
「やめておけ、神。また引き出すぞ」
悪夢を、京舞は覚えている。まだ可憐な乙女でしかなかった彼女が、自らの宿命を自覚したある出来事を、京舞は覚えている。
その出来事を、引き出すと名付けたのは京舞だ。
「また凡人をおもちゃにする気か」
風に吹かれた長髪の毛先が、不意に神人の眉のあたりを掠めた。その程度の、妙な距離感。いつもの二人の間合いだ。もっとも、よく手入れされた艶のある黒髪だからこそ我慢するが、京舞でなければ相手が女性だろうと、猛然と睨み付けるのが神人の悪癖である。
藤太郎は、大きなくしゃみをした。
噂をされている証拠だな、と月並みの感想を藤太郎は呟いた。凡人だから当たり前である。
天才は、その天才を隠したがる。その白羽の矢が立っているというのが真相である事を、まだこの凡人は気付いていない。それもまた、当たり前だ。
向田 藤太郎は、凡人なのだから。
凡人には気付けもしない事は山のようにあり、幾ら苦労してもすぐに何もかもが台無しになるのが、凡人だ。その理由のひとつがそうした天才たちの戯れの結果であるというのは、この物語に限らない一般論なのである。
普通の友人たちと、普通の会話をして、普通の時間に普通の一軒家である自宅に帰る。そこでは普通の主婦である普通の母親が、普通の肉じゃがの支度をしている。
何もかもが普通である安心は、藤太郎を落ち着かせた。
その普通がいつまでもは続かないとも知らないで、この時はまだ、藤太郎という凡人は落ち着いていたのだ。
どう凡人であるかと言うと、まだ未成年なのに天国と地獄を見ているあたりだろうか。
そういうとわけが分からない理屈だと嘲笑に付されるだろうから、藤太郎を例にしっかりとした説明を加えよう。
凡人とは、人生においてテンポの良さが売りである。よって、藤太郎も凡人であるからテンポが良い。そのテンポには、凡人ゆえの時間がない焦りが含まれている。
生き急ぐからテンポだけは良い。良くも悪くも典型的な日本人。藤太郎はそういう、ごく普通のどこにでもいる男子高校生だ。
天才たちには気付かれもしない、平凡な人生。今まで彼が送ってきたのは、そんな他愛なくも平和な人生だ。
遅刻はしないが、かと言って成績優秀というほどでもない。定期テストは平均点より、かろうじて上をキープ。そして後は適当に友だち付き合い。ざっくり言うと、そういう毎日が藤太郎の日常だ。
ザ・人生の消火隊員。天国も地獄も知らないような顔をするのが藤太郎にとっては、当たり前の感覚だった。
さて、凡人だけの物語もまた興味深い群像劇ではあるが、ここにライトノベルの象徴たる超人も紹介せねばなるまい。
誰に似ているでもない凡人とは違い、若き日のクリストファー・ロイドを思わせる、端正な顔立ちに不自然なほどお似合いの七三分け。
その超人の名は、加護盾 神人。
一見すると普通の青年なのだが、よく見るとぞっとするほどの、一種の美しさを隠せない顔立ちを神人は自覚していた。
「雷笛!」
神人は渋袋宿駅の入り口で突如としてそう叫んだ、かに思われた。
実際には声は発していない。ただ、聞くべき者にだけ届くような、声なき声で神人は〈それ〉を呼んだに過ぎないのだ。
ギャラルホルンとは、北欧神話に登場する笛である。神人はそのままではつまらないというだけの理由で、与えられたその神話の笛を変質させ、ある大きな因果の力を込めた上で鳩としての生命を埋め込んだ。
その結果、鳩がどう作用したのか、大きな因果は雷を起こす力として具現化した。彼自身にさえ現象は理解を超えたが、どこか享楽的で退廃的な神人は思いの外、素直に結果を結果として受け入れた。
享楽的で退廃的な人間は、ひねくれ根性を拗らせた挙げ句に素直になる。一周回っているのだ。
手品でよく使われる、真っ白な鳩。
銀鳩と言う品種である事を、神人は知っていた。超人どころか、天才でもある神人には未知という概念は存在しないのだ。
というのは大袈裟で、いや実際に神人は天才でもあるのだが、銀鳩の名を知っているのは天才だからではない。
ただ、その話はいずれ別の機会に話そう。
ここで重要な事があるとすれば、雷笛と融合した鳩はその銀鳩だという事くらいだ。
そして、おもむろに神人は〈それ〉、すなわち雷笛を揺らした。
ポロシャツの袖が、ちりちり焦げる。まだ慣れていないため、微妙に笛を制御しきれないのが神人の悩みの種だ。
超人にすら扱い兼ねる因果を帯びてしまった笛は、揺らされて空気と共振する。
共振。つまり、空気と同期した振動を起こしているのだ。どんなに無風だとしても、あらゆる分子は振動している。空気といえども振動しているから、共振は理論上は可能であり、雷笛は因果律でその理論を超える。
それが雷笛の力だ。強すぎる因果は理論を無視する。
と、その時、不意に雷人の肩を誰かが叩いた。
京舞だ。超人のただ一人の理解者。立命館 京舞という戦乙女だ。
「やめておけ、神。また引き出すぞ」
悪夢を、京舞は覚えている。まだ可憐な乙女でしかなかった彼女が、自らの宿命を自覚したある出来事を、京舞は覚えている。
その出来事を、引き出すと名付けたのは京舞だ。
「また凡人をおもちゃにする気か」
風に吹かれた長髪の毛先が、不意に神人の眉のあたりを掠めた。その程度の、妙な距離感。いつもの二人の間合いだ。もっとも、よく手入れされた艶のある黒髪だからこそ我慢するが、京舞でなければ相手が女性だろうと、猛然と睨み付けるのが神人の悪癖である。
藤太郎は、大きなくしゃみをした。
噂をされている証拠だな、と月並みの感想を藤太郎は呟いた。凡人だから当たり前である。
天才は、その天才を隠したがる。その白羽の矢が立っているというのが真相である事を、まだこの凡人は気付いていない。それもまた、当たり前だ。
向田 藤太郎は、凡人なのだから。
凡人には気付けもしない事は山のようにあり、幾ら苦労してもすぐに何もかもが台無しになるのが、凡人だ。その理由のひとつがそうした天才たちの戯れの結果であるというのは、この物語に限らない一般論なのである。
普通の友人たちと、普通の会話をして、普通の時間に普通の一軒家である自宅に帰る。そこでは普通の主婦である普通の母親が、普通の肉じゃがの支度をしている。
何もかもが普通である安心は、藤太郎を落ち着かせた。
その普通がいつまでもは続かないとも知らないで、この時はまだ、藤太郎という凡人は落ち着いていたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる