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神のゲーム
ゲーム・キング
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藤太郎は、何度も言うが凡人である。
しかし強いて言うなら、実は藤太郎はいわゆるオタクだ。ヘビーゲーマーとは彼の事である。
将来はゲーム雑誌の制作に関わりたい。そんな、どや顔では微妙に口にしづらい夢が藤太郎の夢なのだが、凡人以下と思われるわけにはいかないから、進路を偽っている。
「母さん、M治大学の資料、届いた?」
「えっ、知らないけど。そういうのはパパに聞いてよ。いつも配達モノを片付けてるのはパパなんだから」
合格するわけはないが、ハイレベルな私立の資料だけは取り寄せておく。いかにも夢見がちな普通の学生としては百点満点だろう、と藤太郎は内心で自画自賛している。
「全く、疲れてない休日しか、まともに父さん、話してくれないって言ってんだろ」
「いい加減、高校生なんだから目上に対して、だろなんて止しなさいよ」
そんな藤太郎の、とりあえずの偽りの夢は公務員だ。手堅すぎる気もするから、たまにお茶を濁したりもするが、あわよくば安泰な人生を送るのも悪くはないよな、とは思っているらしい。
普通を装うなんて普通ではない、というのは野暮だ。普通は、普通をいかに装うかで精一杯というのが人生なのである。
シャープ・ペンシルをしゃかしゃか、と指で回す藤太郎。普段から学生服のズボンの右前ポケットに携えては、ふとした拍子に取り出し、人差し指と中指を使って、一回転を何度かさせるのが藤太郎の癖だ。
そして、その癖が出るのは大抵が、彼にとって極めて重要な事柄を思案する時である。
藤太郎の母、希代子と言う名の平凡な中年女性は、そんな藤太郎を尻目に落としぶたを鍋に落とす所だ。
ほとんどの料理は手抜き一歩手前である希代子の数少ない得意料理である肉じゃがは、落としぶたまでちゃんとするほど気合いが入っているのだ。
「私だってね、家事を毎日するのは本当に大変なんだから。それくらい分かるでしょ?」
タイマーを15分にセットし、火を弱火にかけ、備え付けた椅子に希代子が腰掛けようというその時、藤太郎の弟である春二が二階から降りてきた。
それを機にと、藤太郎はすれ違うように二階の自室へ向かった。仲が悪いわけではない。喧嘩の最中なので、口を利かないのだ。
だが自室は、春二と共用であるから、最低限の冷戦であり、最低限の必要事項はしばしば会話を交わすのだが。酷い時には、藤太郎のパンツが全部、春二の着替えに混じっていて、その時ばかりは妥協して、それを分別する間に仲直りした。
15分か。藤太郎はぽつりとそう言うと、スマホアプリのゲームに取り掛かった。
スレイプニル。それがアプリの名前だ。
最近、ブームであるガチャ方式のクエスト進行式。いわゆる、今どきなら普通のゲームだ。
ゲームとは言え、昔ならMMORPGなど、限られた環境でしか出来なかったユーザー間のオンラインでのコミュニケーションは、もう過去の話である。パソコンやスマホなどのIT機器のみならず家庭用ゲーム機でさえ、接続すれば結構な品質のオンライン機能を手軽に利用可能な時代になっているからだ。
藤太郎は、所属ギルドに挨拶コメントを書き込んだ。
「定時で上がれた!今から頑張ります」
学生でネットゲームなんて、良く思われるわけがない。そう考えていた藤太郎は、会社員に成り済ましている。
所詮は、直接会うほどの関係になる事がほとんどないスマホアプリ。そう踏んで、詐欺ではない、金を騙しとるわけでないと、ゲームへの欲求を満たすため以上の意図はない嘘である。
そして、ランキングを確認する。
そこではゲーム・キングなるユーザーが、ぶっちぎりのトップスコアを飾っている。藤太郎がスレイプニルを始めた半年前からずっといるので、藤太郎はすっかり名前を覚えてしまった。
ゲーム・キングは、いわゆる課金勢だろう。スマホゲームによくある定めだ。課金しないと、勝てなくなる仕組みはスレイプニルにも残念ながらある。つまり課金しないことには、ランキングを勝ち上がれない難易度なのである。
それから藤太郎は、ランキング画面で誇らしげに、いかつい顔で笑っているゲーム・キングをまじまじと眺めた。
ゲーム・キングはいかにも王様というアバターに見えるように装備からこだわっているようで、似たり寄ったりの最強装備がひしめき合う中では異彩を放つ姿である。
家庭用ゲームは楽々クリア出来るほどの腕前を持つ藤太郎でも、課金をする軍資金などない。よって、一方の藤太郎は半年も続けてもランキング外である。
スレイプニルとは名ばかりで、これまた課金しないことには、スレイプニル、激レアユニットの六足馬は拝めない。
そろそろ、潮時か。
藤太郎はまたぽつりと、そう言った。スマホゲーム時代は金遣いが荒いタイプの廃人しか寄り付かない、危ないゲームだ、という認識しか得られなかった藤太郎は、スマホゲームその物に見切りを付ける気持ちを固めていた。
「やっぱり、ハック&スラッシュが最高だな」
しかし強いて言うなら、実は藤太郎はいわゆるオタクだ。ヘビーゲーマーとは彼の事である。
将来はゲーム雑誌の制作に関わりたい。そんな、どや顔では微妙に口にしづらい夢が藤太郎の夢なのだが、凡人以下と思われるわけにはいかないから、進路を偽っている。
「母さん、M治大学の資料、届いた?」
「えっ、知らないけど。そういうのはパパに聞いてよ。いつも配達モノを片付けてるのはパパなんだから」
合格するわけはないが、ハイレベルな私立の資料だけは取り寄せておく。いかにも夢見がちな普通の学生としては百点満点だろう、と藤太郎は内心で自画自賛している。
「全く、疲れてない休日しか、まともに父さん、話してくれないって言ってんだろ」
「いい加減、高校生なんだから目上に対して、だろなんて止しなさいよ」
そんな藤太郎の、とりあえずの偽りの夢は公務員だ。手堅すぎる気もするから、たまにお茶を濁したりもするが、あわよくば安泰な人生を送るのも悪くはないよな、とは思っているらしい。
普通を装うなんて普通ではない、というのは野暮だ。普通は、普通をいかに装うかで精一杯というのが人生なのである。
シャープ・ペンシルをしゃかしゃか、と指で回す藤太郎。普段から学生服のズボンの右前ポケットに携えては、ふとした拍子に取り出し、人差し指と中指を使って、一回転を何度かさせるのが藤太郎の癖だ。
そして、その癖が出るのは大抵が、彼にとって極めて重要な事柄を思案する時である。
藤太郎の母、希代子と言う名の平凡な中年女性は、そんな藤太郎を尻目に落としぶたを鍋に落とす所だ。
ほとんどの料理は手抜き一歩手前である希代子の数少ない得意料理である肉じゃがは、落としぶたまでちゃんとするほど気合いが入っているのだ。
「私だってね、家事を毎日するのは本当に大変なんだから。それくらい分かるでしょ?」
タイマーを15分にセットし、火を弱火にかけ、備え付けた椅子に希代子が腰掛けようというその時、藤太郎の弟である春二が二階から降りてきた。
それを機にと、藤太郎はすれ違うように二階の自室へ向かった。仲が悪いわけではない。喧嘩の最中なので、口を利かないのだ。
だが自室は、春二と共用であるから、最低限の冷戦であり、最低限の必要事項はしばしば会話を交わすのだが。酷い時には、藤太郎のパンツが全部、春二の着替えに混じっていて、その時ばかりは妥協して、それを分別する間に仲直りした。
15分か。藤太郎はぽつりとそう言うと、スマホアプリのゲームに取り掛かった。
スレイプニル。それがアプリの名前だ。
最近、ブームであるガチャ方式のクエスト進行式。いわゆる、今どきなら普通のゲームだ。
ゲームとは言え、昔ならMMORPGなど、限られた環境でしか出来なかったユーザー間のオンラインでのコミュニケーションは、もう過去の話である。パソコンやスマホなどのIT機器のみならず家庭用ゲーム機でさえ、接続すれば結構な品質のオンライン機能を手軽に利用可能な時代になっているからだ。
藤太郎は、所属ギルドに挨拶コメントを書き込んだ。
「定時で上がれた!今から頑張ります」
学生でネットゲームなんて、良く思われるわけがない。そう考えていた藤太郎は、会社員に成り済ましている。
所詮は、直接会うほどの関係になる事がほとんどないスマホアプリ。そう踏んで、詐欺ではない、金を騙しとるわけでないと、ゲームへの欲求を満たすため以上の意図はない嘘である。
そして、ランキングを確認する。
そこではゲーム・キングなるユーザーが、ぶっちぎりのトップスコアを飾っている。藤太郎がスレイプニルを始めた半年前からずっといるので、藤太郎はすっかり名前を覚えてしまった。
ゲーム・キングは、いわゆる課金勢だろう。スマホゲームによくある定めだ。課金しないと、勝てなくなる仕組みはスレイプニルにも残念ながらある。つまり課金しないことには、ランキングを勝ち上がれない難易度なのである。
それから藤太郎は、ランキング画面で誇らしげに、いかつい顔で笑っているゲーム・キングをまじまじと眺めた。
ゲーム・キングはいかにも王様というアバターに見えるように装備からこだわっているようで、似たり寄ったりの最強装備がひしめき合う中では異彩を放つ姿である。
家庭用ゲームは楽々クリア出来るほどの腕前を持つ藤太郎でも、課金をする軍資金などない。よって、一方の藤太郎は半年も続けてもランキング外である。
スレイプニルとは名ばかりで、これまた課金しないことには、スレイプニル、激レアユニットの六足馬は拝めない。
そろそろ、潮時か。
藤太郎はまたぽつりと、そう言った。スマホゲーム時代は金遣いが荒いタイプの廃人しか寄り付かない、危ないゲームだ、という認識しか得られなかった藤太郎は、スマホゲームその物に見切りを付ける気持ちを固めていた。
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