凡人と超人

永井 彰

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神のゲーム

スレイプニル

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「こんなゲームに、一体何の因果を蒔くのだ」

 神人は、そう問われたところで微動だにしない。

 瞑想状態となり、自我の奥にある無意識から因果を借りている途中なのだ。
 普通、因果というのは借りる事も出来なければ、そもそも見る事も出来ない。不可視な存在、想像するしかない概念以上のものではない、というのが、因果を知る人間にさえ普遍の了解だ。

 そして、無意識に潜っているとは知りながらも声を掛けた京舞は、パソコンのモニターを見つめている。
 そこにあるのは、オンラインゲームアプリ、スレイプニルのタイトル画面だ。

 単なるスマホアプリでしかないスレイプニルがパソコン画面に映っているのを奇妙に思うとしたら、その感覚は正常に違いない。
 しかし、世の中にはエミュレータというアプリケーションを開発しリリースする人間が、なぜか後を絶たないものだ。
 マスコミにも取り上げられ社会問題となったものとして、Winnyと言われるエミュレータ実施済のソフトのダウンロード・サイトがある。あれは、テレビゲームをパソコンで遊べるようにする事で、一部のゲーマーを熱狂させたらしいが、著作権法などあらゆる法の観点からアウトである。
 というか、エミュレータは素人がおいそれと使うと、違法になる可能性のほうが遥かに高いのだ。

 合法かどうかもよく分からない、スマホアプリをパソコンで使うためのエミュレータ・ソフト。それはネットという大海原からでも即座に拾われ、有志により紹介され、そして知る人ぞ知る便利な代物になるのが、IT社会の振興期間であった1990年代からの、もはや定番である。
 だが、それでもエミュレータには未だに市民権
ない。もっとも、それも道理である。高度な技術で完成したテレビゲームを、やすやすと吸い上げられては名誉にも利益にも関わるなど、倫理上または営業上の問題が山積みだからだ。

 では、京舞が見ているスレイプニルがエミュレートされたソフトかと言われたら、そうではない。

 スレイプニルを、完全に自作、、、、、したのだ。

 京舞は、神人には及ばないながら賢い。更にコンピュータの知識に関してだけなら、神人を凌駕する。そんな彼女の手に掛かれば、オリジナルのスレイプニルを1000円程度の課金だけで遊んだ程度でそのシステムをほとんど把握し、完全に近いスレイプニルを一からプログラムする事など造作もないのだ。

 まるで、絵画の盗作、いや、ここまで来れば偽造のコピー品である。
 オンライン機能も実装されているものの、未だに有効にはしていない。完全にオフラインで組み上げ、ウェブ上での公開をしていないので、よほどのハッカーでもなければ、京舞スレイプニル、仮に京舞製のスレイプニルをそう名付けるならば、その存在を知るのは今のところ、京舞と神人、ただ二人だけなのだ。

「察しなら付いているだろう、ケーブ。凡人に白羽の矢が立つように仕向けるのさ」

 京舞は、きょうぶ、と読む。しかし、きょうぶでは胸部の事みたいだ、という神人の案により、京をケイと読み、ケーブと呼ばわれるややこしく面倒な現状を説明しておくとする。

 二人がいるのは、京舞の自室だ。
 しかし、二人は家族ではないし、恋人でもない。ただ、強いて言うなら思惑のために恋人を演じている仕事仲間である。
 そして仕事とは、天才の存在を隠ぺいするために、偶然見つけただけの凡人、向田藤太郎という人間を天才に仕立て上げる演出、、だ。

「瞑想していなかったのか?なぜ聞こえていた」
「俺にも分からない、なんてな。実は瞑想なら昨日、事前にしておいた。そして、たっぷりと時間を掛けつつ、君をおちょくるきっかけでも探していたのさ」

 まるで賢い恋人同士のやりとりにも思える。あるいは、仕事を通じてそれすらも越えた、家族の情が芽生えたのだろうか。
 しかし、そうではないと分かるのは、からかわれた京舞の、心からの憎しみの目だ。

「時間が無限だとでも思っているのか、貴様。これまで何度も事を成せないのは、誰のせいだと思う」
「まあ、まあ。それも因果なのさ」
「簡単に因果にすがるのは、貴様の悪い癖だぞ」
「本当の愛もない他人としか組めないのは、お互いの悪い癖でもあるがな」

 沈黙が苦々しさを助長する。単に有能というだけで利害を一致させた後悔は確かにお互いさまだ、と言う言葉を、しかし京舞はかろうじて飲み込んだ。
 どんなに愛はなくとも、賢さを隠さなければならないという利害だけは、事実として一致しているからだ。

 そして、そんな京舞を見透かすように、神人は雷笛を手にした。大きな因果は秒単位で爆発的に成長していて、相当使い込まないと神人にすらコントロール出来なくなる。厄介ではあるが、因果の力は神人ほどの賢者にとってどんな人間よりも信頼に値するから、仕方ないのである。

「行けるか、神」
「いや、どうしようもないかもしれない」

 神人は、まだ躊躇していた。

 凡人だからって、そんなに簡単に巻き込めるだろうか?
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