10 / 14
代理戦争
悲しみ
しおりを挟む
あれからと言うもの、なんとなく立命館は藤太郎に遠慮しているような感じが否めない。あれと言うのは、神を探しに光の柱に向かった日だ。
おそらく、神に会わせる事が出来なかった申し訳なさからだろうと藤太郎は推定した。別に、それに関しては藤太郎は怒っていない。
光の柱があったから動いただけで、神と呼ばれる人間が必ずそこにいるとは限らないよなとは、自転車で短くない道のりを走っていたあの時から思っていたからだ。
それに、光の柱は科学的なトリックで演出出来る事で、実は子どもだましなのではないかとさえ藤太郎は考えていた。
幻想的な演出で、神の実在を藤太郎に信じ込ませる、つまり洗脳という可能性だ。いざ冷静になって考えてみれば、有り得る話ではある。
そうなれば、立命館は単なるカルト教団の信者なのだろう、という事にもなってくる。たまたま藤太郎が先に気付いてしまっただけで、本来は立命館が柱がある事を仄めかすつもりだったのかもしれないのだ。
「立命館さん」
藤太郎は遂に、勇気を持って立命館に問い正した。
神が現世にいるはずはないし、光の柱は何かへの勧誘のための演出なのではないか。軟禁していると悟らせたくないだけで、実は自分を拘束したいだけなのではないか。
立命館は案の定、かなりの間、沈黙していた。
この沈黙は勝利だ、藤太郎はそう感じた。犯人は立命館で、全ては自作自演の小芝居。もしそうなら、立命館は異常者。最悪の場合、戦闘により彼女を倒し、逆に身柄を拘束して警察に突き出さなければならないのかもしれないのだ。
「信じて。お願い」
立命館の、いや、よく分からない女の、真剣そのものの眼差しは、却って藤太郎には狂気に見えた。
考えてみれば、おかしい事だらけだ。
仮にも神とするほどの凄い人間の悪事を裁きたいなら、もう少しは協力者を募るはずである。しかも、丘に行ったあの日以来、そして今までもではあるが、黒幕である神については一切語らないのだ。
藤太郎は構えた。
もはや、戦うしかない。頭の中はその思いで一杯である。
と、崩れ落ちる藤太郎。
何が起きたのか理解が追い付かない。
立命館が人間とは思えない速さで間合いを詰め、喉にある急所を右手で鋭く突いたのを気付くのに、藤太郎は数秒を要した。
速すぎる動きは、脳が認識出来ないのだ。
「分かるわ、全ては犯人である私の妄想。もしそうなら、私もどんなにか素敵と思う」
立命館は心底、同情するように藤太郎に語りかけた。
「殺せよ、気違いなカルト信者」
信じていない藤太郎には、何も届かない。迷わず狂った言葉を繰り出す狂った女に殺される。藤太郎はそう覚悟を決めたのだ。
しかし、立命館は何もしない。それは藤太郎が、打撃から立ち直るのを待つためのように思えた。
そして、藤太郎が気を持ち直すのを見届けると、立命館は帰って行った。
何なんだよ。
藤太郎からすれば、留置所の方がまだましであった。怖くはあっても、身分が明らかで事務的な仕事もこなしている警官が、取り調べのためとは言え、結果的には一時的に自らを見張ってくれていたのだ。
一方、立命館が帰ってしまえば、藤太郎は完全に孤独な中で、山小屋で過ごすしかない。
ふもとに降りた所で、藤太郎は顔まで報道されてしまっている。動転していたから分からなかっただけで、光の柱に向かうどころか、外出自体が今の藤太郎には危険な行為なのだ。
藤太郎はいつもより激しく泣いた。泣き過ぎて、夕飯に食べたカツ丼を吐いてしまったほどだ。人は本当に絶望すると、血圧が下がり体調が悪くなるほど泣いてしまう生き物なのである。
外まで持たず、床にこぼしてしまったその吐いた物体を、常備されている雑巾で拭き取った。そして、水道で雑巾を洗っては、きれいになるまで床を拭いた。
カーペットに掛かってしまったので、一応は立命館にクリーニングを頼もうと思いかけた所で、藤太郎は彼女の気違い説を忘れかけている自分を発見し、冷静になろうと努めた。
そして、気分転換にと藤太郎は外に出た。
そこに、立命館はいた。
藤太郎は腰を抜かした。無理もない。帰ってから、かれこれ3、4時間は経過しているはずだからだ。
電気はないが、ろうそくの火の明かりで顔が見て取れた。ただ、ろうそくなので不気味に映ったのも腰が抜けた原因である。
「な、な、なんでいるの」
もはや、余所者と会話したくない、村の代表のような口ぶりで、藤太郎は口を利いた。
「悲しい時は、ここで気持ちを落ち着かせている」
「悲しい時なんてあるんだ」
「ええ、実は私には悲しい時があるのよ」
「ボクが泣いていたの、聞こえてたろ」
「さあ。私は、星をただ眺めていた」
神の居所だとか、立命館の正気だとか、実際には聞くべき事は山積みである。藤太郎は、のんびりしていられる状況ではないはずだ。
しかし、確かに悲しみを隠さない立命館の言葉こそが一つの真実であるように藤太郎には思えた。
何も具体的な説明は必要ない。
立命館は狂った人間ではないという安心は、言葉を交わす事で実感出来る。
少なくとも、藤太郎はそう思うのだった。
おそらく、神に会わせる事が出来なかった申し訳なさからだろうと藤太郎は推定した。別に、それに関しては藤太郎は怒っていない。
光の柱があったから動いただけで、神と呼ばれる人間が必ずそこにいるとは限らないよなとは、自転車で短くない道のりを走っていたあの時から思っていたからだ。
それに、光の柱は科学的なトリックで演出出来る事で、実は子どもだましなのではないかとさえ藤太郎は考えていた。
幻想的な演出で、神の実在を藤太郎に信じ込ませる、つまり洗脳という可能性だ。いざ冷静になって考えてみれば、有り得る話ではある。
そうなれば、立命館は単なるカルト教団の信者なのだろう、という事にもなってくる。たまたま藤太郎が先に気付いてしまっただけで、本来は立命館が柱がある事を仄めかすつもりだったのかもしれないのだ。
「立命館さん」
藤太郎は遂に、勇気を持って立命館に問い正した。
神が現世にいるはずはないし、光の柱は何かへの勧誘のための演出なのではないか。軟禁していると悟らせたくないだけで、実は自分を拘束したいだけなのではないか。
立命館は案の定、かなりの間、沈黙していた。
この沈黙は勝利だ、藤太郎はそう感じた。犯人は立命館で、全ては自作自演の小芝居。もしそうなら、立命館は異常者。最悪の場合、戦闘により彼女を倒し、逆に身柄を拘束して警察に突き出さなければならないのかもしれないのだ。
「信じて。お願い」
立命館の、いや、よく分からない女の、真剣そのものの眼差しは、却って藤太郎には狂気に見えた。
考えてみれば、おかしい事だらけだ。
仮にも神とするほどの凄い人間の悪事を裁きたいなら、もう少しは協力者を募るはずである。しかも、丘に行ったあの日以来、そして今までもではあるが、黒幕である神については一切語らないのだ。
藤太郎は構えた。
もはや、戦うしかない。頭の中はその思いで一杯である。
と、崩れ落ちる藤太郎。
何が起きたのか理解が追い付かない。
立命館が人間とは思えない速さで間合いを詰め、喉にある急所を右手で鋭く突いたのを気付くのに、藤太郎は数秒を要した。
速すぎる動きは、脳が認識出来ないのだ。
「分かるわ、全ては犯人である私の妄想。もしそうなら、私もどんなにか素敵と思う」
立命館は心底、同情するように藤太郎に語りかけた。
「殺せよ、気違いなカルト信者」
信じていない藤太郎には、何も届かない。迷わず狂った言葉を繰り出す狂った女に殺される。藤太郎はそう覚悟を決めたのだ。
しかし、立命館は何もしない。それは藤太郎が、打撃から立ち直るのを待つためのように思えた。
そして、藤太郎が気を持ち直すのを見届けると、立命館は帰って行った。
何なんだよ。
藤太郎からすれば、留置所の方がまだましであった。怖くはあっても、身分が明らかで事務的な仕事もこなしている警官が、取り調べのためとは言え、結果的には一時的に自らを見張ってくれていたのだ。
一方、立命館が帰ってしまえば、藤太郎は完全に孤独な中で、山小屋で過ごすしかない。
ふもとに降りた所で、藤太郎は顔まで報道されてしまっている。動転していたから分からなかっただけで、光の柱に向かうどころか、外出自体が今の藤太郎には危険な行為なのだ。
藤太郎はいつもより激しく泣いた。泣き過ぎて、夕飯に食べたカツ丼を吐いてしまったほどだ。人は本当に絶望すると、血圧が下がり体調が悪くなるほど泣いてしまう生き物なのである。
外まで持たず、床にこぼしてしまったその吐いた物体を、常備されている雑巾で拭き取った。そして、水道で雑巾を洗っては、きれいになるまで床を拭いた。
カーペットに掛かってしまったので、一応は立命館にクリーニングを頼もうと思いかけた所で、藤太郎は彼女の気違い説を忘れかけている自分を発見し、冷静になろうと努めた。
そして、気分転換にと藤太郎は外に出た。
そこに、立命館はいた。
藤太郎は腰を抜かした。無理もない。帰ってから、かれこれ3、4時間は経過しているはずだからだ。
電気はないが、ろうそくの火の明かりで顔が見て取れた。ただ、ろうそくなので不気味に映ったのも腰が抜けた原因である。
「な、な、なんでいるの」
もはや、余所者と会話したくない、村の代表のような口ぶりで、藤太郎は口を利いた。
「悲しい時は、ここで気持ちを落ち着かせている」
「悲しい時なんてあるんだ」
「ええ、実は私には悲しい時があるのよ」
「ボクが泣いていたの、聞こえてたろ」
「さあ。私は、星をただ眺めていた」
神の居所だとか、立命館の正気だとか、実際には聞くべき事は山積みである。藤太郎は、のんびりしていられる状況ではないはずだ。
しかし、確かに悲しみを隠さない立命館の言葉こそが一つの真実であるように藤太郎には思えた。
何も具体的な説明は必要ない。
立命館は狂った人間ではないという安心は、言葉を交わす事で実感出来る。
少なくとも、藤太郎はそう思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる