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代理戦争
下僕
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京舞は、頻繁に神人に会うわけではない。
恋人同士を演じているとは言っても、京舞は神人より一回りほど年上で、既に社会人。また、遠距離恋愛という事にしているから、余りにも一緒にいるのは不自然なのだ。
ふと京舞は、二人の関係の始まりを思い出す。
今は年の差なんて、昔よりは厳しく言われない。それに、きっかけがきっかけである為に年の差になんて気付けなかったというのが、なんとも生々しい話になる。
二人の共通点は、共に大手電化製品メーカーであるスパーク社のプログラム・コンテストの参加者であった事だ。
第37回のコンテストでの優勝と、審査員特別賞。前者が京舞、後者が神人だ。二人はそれぞれ、当時は大学院生、高校生だった。
互いの才能を認め合う友人、という形で今の関係は始まった。それこそ、当初は純然たるプログラム技術向上のための集いであったし、二人以外にもコンテスト主催者や参加者もおり、趣味のサークル感覚というよりは、起業まで見越した社会的な団体という形として発展していった。
大学院生ならともかくとして、高校生からそんな高度な活動に参加など出来るのか、そう思うのも無理はない。
しかし、事実は小説より奇なり、である。実際、大学生で出版社を営む者や、もっと有名な例では子役タレントのように、若くから社会で活躍する人材は数多く存在するのだ。
もちろん、世間知らず故に損をする話も多いけれども、早い者勝ちの真理はどんな業界にも当てはまるのもまた本当なのである。というのは、一般には知られていないような事を若くして大量に学ぶ事が出来る、という経験に関しては、確かなメリットだからだ。
ただ最終的には起業どころか、その団体ごと、次第に参加者はフェードアウトしていった。既に安定した生活を送る者も少なくないものの、あわよくばと言った思いが、リスクもあると知ると霧散するという実に良くある話だ。
革新的な試みに、現代人は特に魅了される。家電というハイテクの成功が、人に高度なビジネスを追い求めさせるのは自然でもある。だから未知の世界が最初は明るく見えてしまうのは、決して盲目の結果とは限らないというわけである。
ともかく、神人と京舞はそうした流れの中で諦めきれずに残った二人なのだ。共に学生で、若かったという事もある。仕事に繋がるチャンスを見つけたいという、清い熱意が男女を越えた友情を育むのに時間は掛からなかった。
だが、神人はその時、既に狂っていた。
邪神は壊れた心を、京舞という健全な精神で埋めようとしていたのだ。
それからの神人は、修業時代に学んだ人心を巧みに利用し、友情だったはずの絆を支配者と下僕の関係に変化させていった。
神人は京舞を、最初から友人などとは見なしていなかった。使える右腕を欲していたに過ぎないのだ。
その時、スマホに着信が入った京舞は、そんな回想から我に返った。
「藤太郎はおとなしくしているだろう」
「さあ、そんなに気になるなら会ったらどうだ」
「今は無理だ。俺には俺の考えがある」
「あまり運命を弄ぶな。あなたは天才だが、弱者を理解していない」
「理解しているさ。これは教育だ。あいつにも少しは強くなってもらわないと、この代理戦争は始まらない」
通話の相手は神人だ。
代理戦争。神人は今回の暴挙を、そう位置付けている。
神人は神となるべく、藤太郎は人であるべく生きてきた。つまり、これは神と人との代理戦争だと言うのである。
代理戦争どころか、戦争ではないかと思うのが普通だ。ただ、これは神人があくまでまだ神とまでは言えない現状に対する、神人自身の自戒が含まれている。
代理としての神。
だから、人類全てを敵に回すまでは出来ないのだという事らしい。
神は、ギャラルホルンを与えてからは、一度も神人の前に現れていない。
それを、神人は自らの意思で決定していけという事なのだと考えている。その結果が代理戦争なのだ。
京舞は神人のそうした思想を、ある程度は理解している。そして、善悪は別にしても、少なくとも神人はもう、後には引けないのだとも分かる。
ギャラルホルン。全てはきっと、その異物がもたらした呪いなのだ。
そんな奇跡がなければ、神人は賢く幸せで、穏やかな人生を送っていたに違いないと思うと、京舞には神人を裏切る事を躊躇ってしまう所がある。
それは神に選ばれし者が行き着く未来を最後まで見なければならないという使命感、義務感、そして責任感なのだ。
まだ、代理戦争の幕開けではないと神人は言う。京舞は、苦しみを隠せない藤太郎の姿を思い浮かべようとした。
けれども、京舞には藤太郎の顔が分からない。
京舞は京舞として、藤太郎に会っていないからだ。
二重人格。京舞はその病を患う異常者。神人とはまた違った形での異端なのである。
その事を、神人は知らない。どういうわけか、もう一人の京舞の関心は藤太郎にしかなく、神人に関わる時には絶対に出てこないのだ。
不完全な代理戦争。それは、こうしてその始まりを予感させるのだった。
恋人同士を演じているとは言っても、京舞は神人より一回りほど年上で、既に社会人。また、遠距離恋愛という事にしているから、余りにも一緒にいるのは不自然なのだ。
ふと京舞は、二人の関係の始まりを思い出す。
今は年の差なんて、昔よりは厳しく言われない。それに、きっかけがきっかけである為に年の差になんて気付けなかったというのが、なんとも生々しい話になる。
二人の共通点は、共に大手電化製品メーカーであるスパーク社のプログラム・コンテストの参加者であった事だ。
第37回のコンテストでの優勝と、審査員特別賞。前者が京舞、後者が神人だ。二人はそれぞれ、当時は大学院生、高校生だった。
互いの才能を認め合う友人、という形で今の関係は始まった。それこそ、当初は純然たるプログラム技術向上のための集いであったし、二人以外にもコンテスト主催者や参加者もおり、趣味のサークル感覚というよりは、起業まで見越した社会的な団体という形として発展していった。
大学院生ならともかくとして、高校生からそんな高度な活動に参加など出来るのか、そう思うのも無理はない。
しかし、事実は小説より奇なり、である。実際、大学生で出版社を営む者や、もっと有名な例では子役タレントのように、若くから社会で活躍する人材は数多く存在するのだ。
もちろん、世間知らず故に損をする話も多いけれども、早い者勝ちの真理はどんな業界にも当てはまるのもまた本当なのである。というのは、一般には知られていないような事を若くして大量に学ぶ事が出来る、という経験に関しては、確かなメリットだからだ。
ただ最終的には起業どころか、その団体ごと、次第に参加者はフェードアウトしていった。既に安定した生活を送る者も少なくないものの、あわよくばと言った思いが、リスクもあると知ると霧散するという実に良くある話だ。
革新的な試みに、現代人は特に魅了される。家電というハイテクの成功が、人に高度なビジネスを追い求めさせるのは自然でもある。だから未知の世界が最初は明るく見えてしまうのは、決して盲目の結果とは限らないというわけである。
ともかく、神人と京舞はそうした流れの中で諦めきれずに残った二人なのだ。共に学生で、若かったという事もある。仕事に繋がるチャンスを見つけたいという、清い熱意が男女を越えた友情を育むのに時間は掛からなかった。
だが、神人はその時、既に狂っていた。
邪神は壊れた心を、京舞という健全な精神で埋めようとしていたのだ。
それからの神人は、修業時代に学んだ人心を巧みに利用し、友情だったはずの絆を支配者と下僕の関係に変化させていった。
神人は京舞を、最初から友人などとは見なしていなかった。使える右腕を欲していたに過ぎないのだ。
その時、スマホに着信が入った京舞は、そんな回想から我に返った。
「藤太郎はおとなしくしているだろう」
「さあ、そんなに気になるなら会ったらどうだ」
「今は無理だ。俺には俺の考えがある」
「あまり運命を弄ぶな。あなたは天才だが、弱者を理解していない」
「理解しているさ。これは教育だ。あいつにも少しは強くなってもらわないと、この代理戦争は始まらない」
通話の相手は神人だ。
代理戦争。神人は今回の暴挙を、そう位置付けている。
神人は神となるべく、藤太郎は人であるべく生きてきた。つまり、これは神と人との代理戦争だと言うのである。
代理戦争どころか、戦争ではないかと思うのが普通だ。ただ、これは神人があくまでまだ神とまでは言えない現状に対する、神人自身の自戒が含まれている。
代理としての神。
だから、人類全てを敵に回すまでは出来ないのだという事らしい。
神は、ギャラルホルンを与えてからは、一度も神人の前に現れていない。
それを、神人は自らの意思で決定していけという事なのだと考えている。その結果が代理戦争なのだ。
京舞は神人のそうした思想を、ある程度は理解している。そして、善悪は別にしても、少なくとも神人はもう、後には引けないのだとも分かる。
ギャラルホルン。全てはきっと、その異物がもたらした呪いなのだ。
そんな奇跡がなければ、神人は賢く幸せで、穏やかな人生を送っていたに違いないと思うと、京舞には神人を裏切る事を躊躇ってしまう所がある。
それは神に選ばれし者が行き着く未来を最後まで見なければならないという使命感、義務感、そして責任感なのだ。
まだ、代理戦争の幕開けではないと神人は言う。京舞は、苦しみを隠せない藤太郎の姿を思い浮かべようとした。
けれども、京舞には藤太郎の顔が分からない。
京舞は京舞として、藤太郎に会っていないからだ。
二重人格。京舞はその病を患う異常者。神人とはまた違った形での異端なのである。
その事を、神人は知らない。どういうわけか、もう一人の京舞の関心は藤太郎にしかなく、神人に関わる時には絶対に出てこないのだ。
不完全な代理戦争。それは、こうしてその始まりを予感させるのだった。
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