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代理戦争
アウトブレイク
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山小屋が、静まり返っている。
そこで過ごしているはずの藤太郎も、たびたび訪れる立命館も、気配がない。なぜなら、誰もいないからだ。
久々の、長い外出。
学生服とジャージしか着た事がない藤太郎は、立命館に見繕ってもらったシンプルな薄手のシャツにジーンズ、そしてスニーカーというカジュアルな服装に身を包み、尚且つ顔が分からないように、伊達眼鏡を掛け帽子を目深に被っている。
立命館は、いつもはダークグレーのスーツ姿なのが、緑と白ストライプ柄のシャツに黄色のジャケット、そして薄桃色のスラックスという、よほど着こなせないと誰にも似合わない色合いを微妙に着こなしていた。
知らない人が二人の取り合わせを見たら、家族とか恋人を疑う以前に不審者と思いそうでもあった。だが、犯罪者とまでは思わないだろう。ダサい服装と見られるくらいで良い。中途半端におしゃれをすると、目に止まってしまうかもしれないからだ。
そして二人が向かった先というのは、神がいる場所である。
加護盾 神人。
立命館が神と呼ぶその男は、指定された公園の中央で、慄然と立ち尽くしていた。
「なぜお前がそこに」
神人は、驚いている様子だった。
その驚愕の対象は、藤太郎であるらしい。そもそも、藤太郎が釈放される事も想定外だったようだ。
立命館は思案していた。
今は、主人格である京舞に全てを任せるべきか。だが京舞では、会ったことがない藤太郎に当惑してしまうだろう。
京舞に比べると、立命館は軽率な一面がある。ただ闇雲に神に挑む、村人のような性格と言えよう。
藤太郎は藤太郎で、戸惑っていた。
神人という男は、確かに神を思わせるような特別な雰囲気を持っている。その上、藤太郎を見て驚いたという事は、神人は藤太郎を知っていたという事に他ならない。
三者三様の思いが交錯し、何の変哲もない公園には奇妙な静寂が漂っていた。
まず、神人がその静けさを破り詰問した。
「何の用だ、京舞。それに、この状況は何だ」
「勘違いしないで。私は京舞であって、京舞ではない」
「俺の志の深遠さに、遂に気が触れたか」
「あいにく、これは生まれつきよ。京舞に自覚がないだけ。私たちは出会う事がない双子のようなものなの」
「いや、飲み込めたぞ。道理であいつは純粋過ぎる」
藤太郎を置き去りにして、何かが始まった。そんな妙な緊張感が場を占め始めた。
すかさず、負けじと藤太郎が話を切り出す。
「神様だそうですけど、あなたがボクに何かしたんですか?それで、ボクは捕まったんですか」
「ちっ。まあ、そうだ。俺にはそれをやり遂げるだけの力があると言う事になるのが分かるか」
「出来るからって、やって良い事はあるでしょ」
「俺がやってはいけない事は、俺が俺でいられなくなる事、たった一つだ」
「何を言ってるんだ。自分のした事が分かっていないのか」
緊張は更に高まる。しかし、藤太郎が声を荒くしたのは良くなかった。所詮はただの公園。今は昼下がりだが、それでも近隣の住民が、家から、あるいは道ばたから、ちらちらと藤太郎たちの様子を伺ったり、世間話を始めたのだ。
「二人とも、場所を変えるぞ」
立命館はそう告げ、更に、辺りを気にしろと言わんばかりにわざとらしく、周囲を何度も大袈裟に見渡してみせた。
開戦の空気は台無しだが、そうも言っていられないために近くの適当なビルの陰に移動した。
「何が、神だ」
藤太郎が呟いた。神人は終止、冷たい眼差しで何を考えているのか全く読めない。
「もう、ボクに関わらないでくれませんか」
それでもなお、藤太郎はもっともな主張を神人に訴え掛けた。当然である。そもそも、藤太郎は神人とは何の関係もない、赤の他人だからだ。
またしても、重々しい沈黙が流れる。車の往来が少ない、閑静な町であるから余計にそう感じられるのが、藤太郎には自らの苦しみの現れのように思えた。
神人は、またしても黙っている。何も考えていないのではないかというくらいに、身動きもせず、相変わらずどこか遠くを見つめている。
と、その時、立命館が口火を切った。
「あ、あれは。まずいぞ。全員、走れ」
一行は、先ほどとは別の公園に行き着いた。
「立命館さん。一体、どうしたって言うんですか」
「捜査官が、こちらを見ていた。もしかしたら気付かれたかも」
神人が見ていた方向を振り向いた立命館は、その事実に気付き、急いで移動を促したのだ。
「だったら何だ。疑いのない潔白なら、堂々としていろ」
神人は無茶な意見を平然と述べた。仮に無実でも、逮捕されること自体がとんでもない事なのだ。避けられるなら避けるに決まっている。
「知ってて黙ってたんだな。あんた、神でもなんでもない。ただの最低野郎だ」
藤太郎が憤慨しながら言う。
もし、神人に異常な能力がなければ、二人はただの犬猿の仲で済んだのではないか。
それどころか、ギャラルホルンさえなければ、藤太郎と神人は出会う事さえなかった。
残酷な運命の悪戯を、人知れず立命館は呪わずにはいられないのだった。
そこで過ごしているはずの藤太郎も、たびたび訪れる立命館も、気配がない。なぜなら、誰もいないからだ。
久々の、長い外出。
学生服とジャージしか着た事がない藤太郎は、立命館に見繕ってもらったシンプルな薄手のシャツにジーンズ、そしてスニーカーというカジュアルな服装に身を包み、尚且つ顔が分からないように、伊達眼鏡を掛け帽子を目深に被っている。
立命館は、いつもはダークグレーのスーツ姿なのが、緑と白ストライプ柄のシャツに黄色のジャケット、そして薄桃色のスラックスという、よほど着こなせないと誰にも似合わない色合いを微妙に着こなしていた。
知らない人が二人の取り合わせを見たら、家族とか恋人を疑う以前に不審者と思いそうでもあった。だが、犯罪者とまでは思わないだろう。ダサい服装と見られるくらいで良い。中途半端におしゃれをすると、目に止まってしまうかもしれないからだ。
そして二人が向かった先というのは、神がいる場所である。
加護盾 神人。
立命館が神と呼ぶその男は、指定された公園の中央で、慄然と立ち尽くしていた。
「なぜお前がそこに」
神人は、驚いている様子だった。
その驚愕の対象は、藤太郎であるらしい。そもそも、藤太郎が釈放される事も想定外だったようだ。
立命館は思案していた。
今は、主人格である京舞に全てを任せるべきか。だが京舞では、会ったことがない藤太郎に当惑してしまうだろう。
京舞に比べると、立命館は軽率な一面がある。ただ闇雲に神に挑む、村人のような性格と言えよう。
藤太郎は藤太郎で、戸惑っていた。
神人という男は、確かに神を思わせるような特別な雰囲気を持っている。その上、藤太郎を見て驚いたという事は、神人は藤太郎を知っていたという事に他ならない。
三者三様の思いが交錯し、何の変哲もない公園には奇妙な静寂が漂っていた。
まず、神人がその静けさを破り詰問した。
「何の用だ、京舞。それに、この状況は何だ」
「勘違いしないで。私は京舞であって、京舞ではない」
「俺の志の深遠さに、遂に気が触れたか」
「あいにく、これは生まれつきよ。京舞に自覚がないだけ。私たちは出会う事がない双子のようなものなの」
「いや、飲み込めたぞ。道理であいつは純粋過ぎる」
藤太郎を置き去りにして、何かが始まった。そんな妙な緊張感が場を占め始めた。
すかさず、負けじと藤太郎が話を切り出す。
「神様だそうですけど、あなたがボクに何かしたんですか?それで、ボクは捕まったんですか」
「ちっ。まあ、そうだ。俺にはそれをやり遂げるだけの力があると言う事になるのが分かるか」
「出来るからって、やって良い事はあるでしょ」
「俺がやってはいけない事は、俺が俺でいられなくなる事、たった一つだ」
「何を言ってるんだ。自分のした事が分かっていないのか」
緊張は更に高まる。しかし、藤太郎が声を荒くしたのは良くなかった。所詮はただの公園。今は昼下がりだが、それでも近隣の住民が、家から、あるいは道ばたから、ちらちらと藤太郎たちの様子を伺ったり、世間話を始めたのだ。
「二人とも、場所を変えるぞ」
立命館はそう告げ、更に、辺りを気にしろと言わんばかりにわざとらしく、周囲を何度も大袈裟に見渡してみせた。
開戦の空気は台無しだが、そうも言っていられないために近くの適当なビルの陰に移動した。
「何が、神だ」
藤太郎が呟いた。神人は終止、冷たい眼差しで何を考えているのか全く読めない。
「もう、ボクに関わらないでくれませんか」
それでもなお、藤太郎はもっともな主張を神人に訴え掛けた。当然である。そもそも、藤太郎は神人とは何の関係もない、赤の他人だからだ。
またしても、重々しい沈黙が流れる。車の往来が少ない、閑静な町であるから余計にそう感じられるのが、藤太郎には自らの苦しみの現れのように思えた。
神人は、またしても黙っている。何も考えていないのではないかというくらいに、身動きもせず、相変わらずどこか遠くを見つめている。
と、その時、立命館が口火を切った。
「あ、あれは。まずいぞ。全員、走れ」
一行は、先ほどとは別の公園に行き着いた。
「立命館さん。一体、どうしたって言うんですか」
「捜査官が、こちらを見ていた。もしかしたら気付かれたかも」
神人が見ていた方向を振り向いた立命館は、その事実に気付き、急いで移動を促したのだ。
「だったら何だ。疑いのない潔白なら、堂々としていろ」
神人は無茶な意見を平然と述べた。仮に無実でも、逮捕されること自体がとんでもない事なのだ。避けられるなら避けるに決まっている。
「知ってて黙ってたんだな。あんた、神でもなんでもない。ただの最低野郎だ」
藤太郎が憤慨しながら言う。
もし、神人に異常な能力がなければ、二人はただの犬猿の仲で済んだのではないか。
それどころか、ギャラルホルンさえなければ、藤太郎と神人は出会う事さえなかった。
残酷な運命の悪戯を、人知れず立命館は呪わずにはいられないのだった。
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