創世樹

mk-2

文字の大きさ
89 / 223

第88話 自立と決断

しおりを挟む
「――――そうだ2人とも。ゆっくり、確実に、繊細に…………その出力の練気チャクラの揺らぎを保ってみろ…………よし、かなり出来るようになったな。」




 ――――タイラーとテイテツによるグロウの検査結果を受けた後も、エリー、ガイ、セリーナは練気をコントロールする修行を再開していた。イロハも例によって商人や職人、さらには練気使いの修行者などとも巧みにコミュニケーションを取って情報を集め、知見を深めるのに枚挙に暇が無かった。





 テイテツは一旦、グロウの検査の結果が出たことを一区切りとし、自らが使う端末をモンスタースペックに改造したり、光線銃ブラスターガンの整備などを始めた。その他のこれからの旅に必要な研究などはタイラーに任せた。






 ニルヴァ市国に来て修行など、各々の活動を始めてから、はや1ヶ月が過ぎようとしていた。






 ガイとセリーナは一心に練気のコントロールの修行を続け、ヴィクターとカシムが内心驚くほどに…………やはり並々ならぬ資質があったか、かなりのエネルギーを纏った練気を安定して保つようになってきた。





 そして、エリーに至っては――――





「――これは…………心底驚いたな。凄まじい――――」





 カシムが絶句した。





 元々練気を半ば自我流で使いこなしていたというスタートラインの違い、『鬼』の血の影響もあるとはいえ、修行する前ならばとうに暴走状態に陥るか、エネルギーを使い果たして死んでしまうかもしれないほどの強力な練気のエネルギーを出力したまま、なお安定し、繊細にコントロールが出来るほどになっていた。






 世界に練気使いが実のところどの程度存在するのか定かではないが、エリーは既に、少なくともニルヴァ市国にいるどの練気使いも歯が立たないであろうレベルにまで達していた。






 だが――――






「――エリー。君の練気の力の出し方、そしてコントロールは既に申し分ないレベルにまで達している。保証するよ。だが、君の心には今、迷いが生じてきている。」






「――やっぱ、わかる? ごめん。集中出来てなくて…………」






「――練気は脳から発せられる生命エネルギーだ。その心、つまり精神や感情の在り方がダイレクトに出るものさ。そして君の心は迷っている――――グロウのこれからが、気になるんだね?」






「………………」






「おっと。練気そのものは解かなくていい。そのままそのまま。どんな時もベストな練気の纏い方を忘れてはならない……」






 ――グロウのこと。






 即ち、グロウの今後の未来。






 出会った当初は、かつての弟分と瓜二つなグロウの姿に自己欺瞞に満ちた投影をし、亡くなった弟分の代わりをさせようとした。






 だが、一緒に旅をするうちに、もはや弟分の代わりなどではなく、一人の少年。旅の年少の仲間であり、かつての弟分にかけていたのとは違う親愛の情を持ってここまで来た。






 そして、グロウには本来の種族、本来人生を共にするべき仲間が、この世の果てに存在するかもしれない。






 ――このまま、グロウを旅仲間としていていいのだろうか? 何より、グロウ自身は自分の身の振り方、自分の人生をどう選択するのだろうか?






 そこに、疑似家族として自分の傍に縛り付ける権利など、何処にも無いのではないのだろうか、と――――






「――――そうよ。あたし、正直言って恐い。そりゃあ、ガラテア軍に捕まって実験体にされたり、殺されたりするよりは何億倍もマシだけどさ…………もし、グロウが本来の仲間のとこ行ってさ。そこで暮らすって言ったら――――もう、二度と会えない気がして。そんなの、寂しいに決まってるじゃない…………」





 ――平生、明るく振る舞うエリーも、グロウへの恋しさには俯く。別離の悲しみと不安が心には湧き出ていた。





「――そうなれば、グロウにとって自立だね。本来、人間にとって喜ばしい成長だ。自分の生きる道を自分で選択するというのは、己の人生を生きることそのもの。そこに他人の意志は介在しないもの。君が仲間として、家族として親しみを持ち続けるなら、喜んで送り出してあげるべきだね。冒険者も卒業だ。」





「――――でも!!」





 ――エリーはそこまで言いかけたが、言葉は続かなかった。





 もし、グロウが自らの生きる道を選んだのであれば、それは喜ばしいこと。その通りだ、とエリー自身も頭では理解している。






 だが、ガイやテイテツと共に10年間を生きてきて、まるで運命のようにグロウと出会えた。しかも、幼心から忘れられるはずもない親愛と悲しみを伴った弟分そっくりに。





 旅の途中で様々な人と出会ってきたエリーだが、家族と呼べるような関係性の者は当然少ない。グロウと別れることは、内心四肢をももがれるほどの悲しみと寂しさを予感せずにいられない――――






「――――俺だって寂しいぜ。だが、あいつはおめえの玩具なんかじゃあねえんだぞ。」




「――――ガイ。」






 エリーが不安に満ちていることにすぐ気付き、ガイは声を掛けてきた。





「――エリー。もしそうなったら、カシムの言う通りだ。ってか、最初にグロウを連れて行く時にも解り切ってたことだよな? あいつは一人の人間だ。そいつが自立するってんなら……笑って送り出してやるのが、姉貴分の筋ってもんじゃあねえのか。」





「…………でも、もう二度と会えないかも――――」





「んなこたあ、解らねえ。まだ今生の別れと決まったわけじゃあねえんだ。幻霧大陸…………確かに、人類未踏の地ともなりゃあ、会いに行くのは一苦労だろうが、案外、旅の足さえ確保すりゃあ、いつでも会えるかもしれねえじゃあねえか。悲観するのは早えぜ。」





「………………」





「そんな顔してんじゃあねえよ。おめえらしくもねえ――――大丈夫だ。家族はグロウだけじゃあねえ。俺がいる。例えグロウと別れようと、俺はおめえを絶対に幸せにする。だから…………泣くな。」





「――ガイ…………泣いてやしないわよ、馬鹿…………」






 ――生涯を誓い合ったエリーとガイ。グロウの別離の予感に怯えるエリーを、ガイはしっかりと抱き寄せ、頭を撫でて慰め、温かい声で励ました。






「――――二人とも。その当事者が来たぞ。一番話を聴いてやらないといけないんじゃあないのか?」





 セリーナも歩み寄り…………宿から歩いて来るグロウを指さした。





「グロウ…………」





 ――当事者であるグロウ。その顔つきは普段とさほど変わらないが…………『明るく触れ合ってあげよう』、そう意識しようとするエリーだが、やはり哀惜の念が振り払えなかった。





「――ようグロウ。そういや、検査はもう済んだんだったな…………おめえはどうすんだ…………?」





「――――僕は…………」





 ――すると、グロウはカシムとヴィクターにそれぞれ頭を下げて一礼し、こう告げた。






「――――僕は…………僕も、練気の修行、します! ヴィクターさん、カシムさん。それにエリーお姉ちゃんたち、よろしくお願いします!!」





「――えっ!?」





 ――グロウ自身から、意外な発言。練気の修行を共にするという。






 カシムが不思議そうに、グロウに問う。





「それは構わないが…………グロウ。君のルーツが幻霧大陸にあるかもしれないんだろう? そっちはどうするつもりなんだい?」





 グロウは頷き。答えた。





「――確かに、僕の行くべき場所はそこかもしれません。でも……そこが僕のゴール地点とは限りません。もっともっと世界は広いかもしれないし、僕が骨を埋めるべき場所は別かもしれない。でも、練気の修行はここでしか出来ないはず。だったら、目いっぱい力を付けてから、旅立ちます。ガラテア軍にも、エリーお姉ちゃんたちにも負けないぐらい!!」





「おお……」

「グロウ――――!!」





 ――グロウの決意に満ちた瞳。





 確かに目的地は世界の果てだ。だがそこで終わりとは限らない。そして、まっとうに練気の修行が出来るのは、ここニルヴァ市国だけ。





 グロウは、まだエリーたちと今生の別れなどは意識せず、まず目の前で出来ることに専心すると宣言した。





 思いもかけずしっかりとした答えに、ガイは感嘆し、エリーはとうとう涙ぐむのだった――――別れの時は、少なくとも今ではない――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...