創世樹

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第155話 職人の勇気

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 ――――ゴッシュから『戦艦』の進呈を懸けたレーシングの大会に誘われて6日。とうとう明日が本番である。



「――ふうーっ…………良い感じっス。これでとうとうフル改造っスかね……おっといけない、燃料を補給しとかないと……」



 もう夕方。陽が落ちかけているが、イロハも自身の不安を振り払う意味も込めてか、自然と労働歌を口ずさみながら最終段階の作業に入り込んでいる。



「♪ ふ~んふふふ~ん♪ 腹にひーそみし邪~のこーこーろ~♪ しょーくにーんかーたぎーは魔ーのスーキール~♪ あ~あーまーかいぞ~まーかいぞ~お~♪ ス~パナ振ーるうーはー世ーのたーめーおーのれ~のよーくのたっめ~ああ、MADなか~じ~や~…………♪」




 やや怪しい、音痴な歌を歌いながら、乗用車用のガソリンではなく、さらには一般的なモトレーシングで用いられる燃料でもなく、イロハが独自に調合した最高の燃費とエネルギーを誇る赤い燃料をタンクから持ち出して『黒風』に補給する。



「――いよいよ改造完了ですか、イロハ。」



 様子を見に来たテイテツが声を掛ける。しかしイロハは一瞥したらすぐに補給作業に戻った。



「――――やるだけのことはやったつもりっス…………あとは本番で気張ることと、後は運っスよ、運。」




「そうですか……しかし、当初のコンセプトよりかなり変更されたフルチューンとなりましたね。私も実戦向けのシミュレーションを繰り返したつもりですが……やはり明日のあの円形闘技場の環境と他の競争相手がどう出るかは全ては図りかねます。勝率は……弾き出すにはデータが圧倒的に不足していますね……」




 やや不安も混じった様相で改造された『黒風』を見遣るテイテツだが、イロハはやはりあっけらかんと片手を大きく振って大声で返す。




「――だーいじょうぶっス!! 『黒風』もウチもバイタル、メンタル共にMAXスタンバイ状態でいるっスよ!? 負ける気がしないっス!! そんなことより……他の皆さんはどうなってるッス?」




「――まず、セリーナは改造した空中走行盤エアリフボードにかなり飛び慣れて、己の翼としてかなり安定してスピードと繊細な動きを出せるようになっています。知覚鋭敏化の練気チャクラの修行がかなり功を奏したようです。ガンバは試運転しましたが、やはりレースでの操縦は一番身体能力……特に反射神経の鋭いエリーが行なって、ガイとグロウはサポートに回るのが得策かと。私も搭乗するべきか検討しましたが……身体能力の点で足手まといになってしまうのは否めない。離れた席からセコンドとして情報処理をサポートします。その為、全員にこのヘッドフォンマイクを頭部に取り付けてもらいます。イロハもどうぞ。」




「――おおっ! レース中も連絡を密に取り合うのは大事っスね。カッコイイヘッドフォンマイクっス……ううん……ただ、今言ったこと、ほぼ賛成ッスけど、ガンバの操縦はガイさんがいいっスねえ。何故なら――――よっ、と……」




「――それは?」




「――『乗り物』なら何でもいいっつってたっス。それなら……エリーさんの場合は脚部にこのブーツを履いて、自前のあの物凄い身体能力で走ってもらうっス。でないと、勿体ないっスよ!!」




「……これは――――なるほど。それが良さそうですね。あとでエリーたちにも伝えます。」




 ――イロハが取り出したのは、武具店で売っている金属のブーツを改造した、何やら噴射機構とローラーのような物を取り付けた脚部ユニットである。




「――エリーさんが練気で飛んだりスピード出したり出来ること。そんでセリーナさんの脚部噴射機構を見て閃いたッス。名付けて『ロケッタブル・エリー』!! にははははは!!」




 ――徹夜なしで、この短期間でさらにもう一基、『乗り物』を作り出してしまったイロハ。やはり並々ならぬ職人仕事である。




「これでバッチリっスよ!! あっ、そうそう、この調合した燃料、ガンバに補給しといて欲しいっス。それで準備は完了っスよ!! 明日が楽しみっスねえ……にひひひひひ~。」




 そのまま背を向けて肩甲骨と首を回してほぐしながら、宿へと向かっていくイロハ。




「――――イロハ。死ぬのが恐くて、覚悟しようとしてる……よね?」




「――――!!」





 ――買い出しから帰って来たグロウが、イロハの背に問いかけた。イロハは背を向けたまま固まってしまう。




「――前にセリーナが言ってたから、わかるよ。その練気の揺らぎ方――――以前より不安な気持ちが収まるどころか、強まってるよね…………?」




 ――グロウの目には見える。本当は今にも逃げ出したいほどに恐怖している自分の心を、必死で抑えているイロハの理性。練気に表れた感情が…………。




「――――やれやれ……練気使いさんには何もかもお見通しって事っスかねエ――――そりゃあ、恐いに決まってるッスよ。当然っス。生命懸けて危険なレースに挑むんスから。恐怖心を無理矢理抑えたガラテアの改造兵じゃああるまいし――――」




 ――イロハは天を仰ぎながら、目元に手を当てて頭を振る。




 そして振り返ると――――恐怖で表情は引き締めつつも、覚悟の伴った強い目をしたイロハの心がそこにあった。




「けど、大きなお世話っス!! ウチは皆さんについていって、ガラテア軍とドンパチやる時点でこれくらいのことはとっくに覚悟完了っス。その覚悟の延長線上でちょっと気張るだけなんスよ――――大丈夫っス。必ず皆さんと一緒に勝って……皆さんと生き延びるっス。」




 ――そうして、ふっ、とイロハは静かに笑みを浮かべた。己の中の恐怖を、ほんの少し振り払ったようだ。グロウもそれを見て微笑む。




「――――さあーって!! ウチのできることはやったっス!! あとは~……この国で仕入れたよいしょ本読みまくってメンタルチャージしまくるっス!! あああ~……すっごいBL読みたいっス~!! ものごっついエッグイやつが~♪」




 ――もはや退路は無い。皆が覚悟を固め、明日の大会を待った――――
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