傾奇者-KABUKIMONO-

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第14話 河の童と哀れな盛り皿

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 ノリちゃんたちは次の刺客、河童が控える橋の少し遠くの茂みから様子を窺う。

 河童は手早く、ヒロシの進行ルート上にある橋の下の川に潜水して待機している。

 川の水質はやや汚れているが……河童には然して問題ではなかった。

 かわわらべと書いて『河童』。

 その呼び名は伊達ではない。

 如何なる水質の川であろうと、河川や湖などの類いならば完璧に水に適応し、何時間でも水の底に潜っていても何ら生命活動に問題はない――――正に超人的な水での活動能力を、この河童は有している。

 その河童の存在はもちろん、そんなとてつもない能力を持った者が待ち構えているとも知らず……ヒロシはガミちゃんと遭遇した路地から先の橋に差し掛かった。

(うわ……さすがスラム通り。川の水も汚れてんなー……水の底がまるで見えねえ)

 ヒロシがやや不快に感じながらも橋を中ほどまで渡った辺りで――――

「オラァアアアアアアアッッッ!!」

「うおおおおっ!?」

 ――――すかさず河童は一瞬にして水から飛び出し、ヒロシに襲いかかった! 

「ぬうっ!!」

 間一髪。ヒロシは川へ引きずり込もうとする河童の手を逃れ、走って橋を渡った先まで身を引いた。水飛沫が橋を濡らす。

「ちぃっ、しくじったか……水辺で足さえ掴んじまえばこっちのもんなのによ……」

「……おめえ……伝え聞く日ノ本のモンスター……『河童』って奴か……!?」

 襲撃者の容姿に、思わずヒロシはそう驚嘆の念を述べる。

「……ボケが! 確かに俺の能力は河童そのものだがよ……これでも人間なんだぜ! 人間を舐めるな!!」

 河童が表情筋を歪めて気炎を吐く。

 一瞬驚いたヒロシだったが……そろそろこの街の危険さに慣れてきている頃、恐怖心もあるが、余裕の表情は崩さなかった。

「へっ! 水辺なら最強でもよ、陸上ならどうだ? 俺、逃げ足だけは速ええんだぜ!」

 そう言い捨てると、ヒロシは河童に『あっかんべー』と舌を出して挑発してから、更にスラム通りの奥へと走り出した! 

「ちっ! 待ちやがれぃ!!」

 逆上した河童は水から陸に登り、ヒロシを追いかけた! 

 『鬼ごっこ』の始まりだ! 

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 はじめの数分ほどはヒロシと互角のスピードで追いかけていた河童。

 だが、みるみるうちに消耗していく……。

「どうした、どうした河童ァ! もう息切れかよ!?」

(ぜェーッ……ぜェーッ……や、やべえ……しんどい…………頭の皿が乾いちまう…………!)

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 更に数分。

 気が付けば、もう追いかけてくる河童の気配は無かった。

「……ふーっ!」

(橋の下で待ち伏せされた時はビビったが……どうやら撒いたみてえだな。見掛け倒しだったぜ)

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「……プはァッ!! ……ぜェーッ……ぜェーッ……死ぬかと思ったぜ…………」

 河童は途中で再び川へと潜り、ノリちゃんたちが待機している川の上流付近へと逃げていた。

 すかさずノリちゃんが怒声を発する。

「ナニしくじってんだゴラァアアア!? やる気あんのか、あ!? お!? 河童ゴラァ!!」

「無理無理ムリムリ……確かに俺は水ん中じゃあ誰にも負ける気はしねえがよ……おかでフル活動すんのは無理なんだって……フゥーっ……皿もヤバかったぜ……」

「割ったろか、その皿!! 何処ぞの料理漫画の美食家の手にかかる哀れな盛り皿のように割ったろか!? くぬっ! くぬっ!」

「い、イテテ! 勘弁しろノリちゃん! マジで割れるって……」

 ノリちゃんは怒りに任せ、河童の脳天をグーで殴る。

 傍に控えていたガス美がノリちゃんを引っ張ってなだめる。

「ま、まあまあ! ノリちゃん、そんな怒んないの! 河童に駆けっこは無理なんだよ。許してあげて」

「ふぐぐぐぐ……」

「だーいじょぶだって! 今度は――――私が仕掛けたガスの罠が作動すっから……」

 激昂するノリちゃんに、ガス美は次の策を告げた。

「……ちっ! 引っ捕えるのは当然だけどさ、ガス美。あんたちゃんと解ってる!? 捕まえてもいきなり一切合切盗っちゃならんのよ!?」

「えっ? なんでなんでー? 身ぐるみ剥いじゃえばいいじゃーん?」

 疑問を抱くガス美に、ノリちゃんは一旦気を鎮めて話す。

「……ただでさえ治安が悪いことで有名なこのスラム通り。いきなり一切合切盗っちまうと、獲物は警戒して二度とここには寄り付かなくなる。観光客なら尚更。他所の国まで『スラム通りには行かない』って悪評が広まる。」

 ノリちゃんは口角を上げ不敵な笑みを浮かべる。

「だが、ほんの少しずつ盗られれば、少なくとも同一グループの手口と悟られにくい。獲物も『もうこれ以上襲われやしないだろう』と、被害に遭わないと願いたくなるもの……もし警戒しても、不安が高じて冷静な判断が下しにくくなるはず! そこを掠め取る!」

 そして、ノリちゃんは少女とは思えぬ眼光を放ち、こう告げた。

「……もし、小細工が通用しない相手なら仕方ない――――バラせ。スラム通りの身元不明の死体に変えちまいな」

 河童が顔をこわばらせ、ガス美は目を伏す。

「……イエス、マム。取り敢えず、私のガスの罠は準備OK。タイミングが来たら指示を頂戴」

 三人は顔を見合わせて頷き、散開した。

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(……おっ? いつの間にか傾奇ポイントが増えてやがる。さっきの女の子に食いもんをあげた時と……河童……を撒いた時か。+50ポイント…….っと)

 ――――河童をいなした先のヒロシの眼前には、空き家や長屋らしき廃墟が広がっている。

(……世界中の宝物ほうもつや珍品がカオスシティに集まる……そうヤマベ博士は言ってたっけな……このスラム通りも、もしかしたら…………)

 ヒロシは大胆にも、空き家を一つ一つ調べ始めた。

 ――――現在傾奇ポイント二百三十五ポイント。予選突破への必要ポイント、六十五ポイント。予選終了まで二時間五十一分――――
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