マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第1章 覇気使い戦争。

第13話 復活のリーゼント。

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 六月一日、金剛山の山頂、明朝に綺麗な日の出が差し掛かり、ぐっすりと大の字で間抜け面で寝ている吹雪を太陽の光が照らしていた。
 そこにフードを深く被っている謎の人物、ヘイムーンが太陽の光を遮るように壁になり、吹雪に近づき…

「起きなよ、もう朝だよ。」

 ヘイムーンは膝を曲げ、腰を落とし、両手で眠る吹雪を優しく揺すり起こす。
 だが、揺さぶっても中々起きなかった。

「ふ~ぶ~き~くん! お~き~て~よ~!」

 大声で語尾を伸ばしても、昨日から疲労困憊で、ぐっすりと夢の世界にいる吹雪は起きなかった。

「…手強いな。えい」

 ヘイムーンは最終手段として吹雪の鼻の両端をつまみ呼吸する穴を閉じる。起きないからと言って寝ている人の鼻を摘まむのは失礼極りない。
 数秒後には吹雪は目を開き、鼻を摘まんでいるヘイムーンを見て、眉間にしわを寄せて、こめかみに血管を浮かばせて怒りを露にした。

「テメェ、何やってんだ?」

 鼻を摘まれて喋っているため、声帯がちゃんと通らないが話すという行動はできるため、イタズラしているヘイムーンの返答を待つ。

「起きた? 朝だよ、こんな所で寝てると風邪引いて本当に死ぬよ?」

 ヘイムーンは歓喜な声で心配していたが、その挑発みたいな態度で更に吹雪を不機嫌にさせる。

「とりあえず、その手を離してテメェを殴るっていうのはどうだ?」

「それは怖いね。でも、何発も蹴りを入れられてる人が言える台詞じゃないよね?」

 ヘイムーンの言葉に、ぐうの音が出ない吹雪は押し黙るしかなかった。

「まあ、竹島くんを倒した事は僕にとっては高得点だよ。また『カンザキシノブ』に一歩に近づいたからね? さて、君と竹島くんを病院まで送ってあげるよ。」

「なあ? なんでアンタは『カンザキシノブ』に抵抗すんだ? アンタも竹島と仲村と同じ、そっち側の人間じゃないのか?」

「さあね、けど今の『カンザキシノブ』は止めないと…気づいた時には、大事な者を失ってからじゃ遅いからね。」

 吹雪の疑問に少し声を落としたトーンで話し、目的をはぐらかす。

「まあ別にいいけどよ…っていうか金剛山から、どうやって下層まで行くんだよ。まさか徒歩で下山するとか言うなよな!」

「安心しなよ。もう病院の前だから…」

 その言葉と同時に、吹雪の目の前の景色が一瞬で一変した。そこは修二が入院している海道病院の玄関前で、吹雪の右側の近くに昨日から気絶して横たわっている竹島もいた。

「嘘だろ…奈良から一瞬で海道まで瞬間移動したのか?」

 吹雪は今、起きている現象に頭の整理が追い付かずに困惑と驚愕が入り交じった事態になる。

「瞬間移動じゃないよ。光速移動だよ、ジェット機以上に早かったでしょ?」

「これアンタの『覇気』か?」

 ただ呆然とヘイムーンを見て、吹雪は率直な疑問をぶつけてみた。

「その答えは、いずれ…」

 ヘイムーンは一瞬にして吹雪の目の前から、消え去った。吹雪はヘイムーンの言葉に疑問に持ちながらも、竹島を担ぎ上げ歩きながら病院の中に入る。

「やあ、吹雪くん。その子は?」

 受付をする前に、白衣姿の宗春にバッタリと遭遇する。

「あ、宗春さん。あの…」

「…酷い傷だね。手当てしてあげるから、その子も一緒に私の事務所まで来てくれないか?」

「あ、あぁ分かりました。」

 吹雪は宗春と顔を合わせる事が出来なかった。その理由は先週の修二との喧嘩を未だに気にしていたからだ。

「修二の事なら大丈夫だよ。アイツは友達と喧嘩したぐらいで拗ねる奴じゃないさ。」

「いや、俺とアイツは友達じゃあ…」

「取り敢えず、手当てしよう。その後、病室に行けばいいよ。もう大丈夫だから…」

 宗春は最後に、安堵するような言葉を言い残し先に事務所に向かう。吹雪も宗春に続くように事務所に向かった。
 事務所の中で、竹島を先に手当てをしソファーで寝かせ、竹島が終わると宗春は包帯の束を三つ取り出し、ガーゼに消毒液を浸けながら吹雪の傷口に貼り巻く。

「なんで、宗春さんは医者を目指そうとしてたんですか?」

 吹雪はふと口から本音を宗春に聞いた。それを聞いた宗春は悪い顔は悪い顔はせずに少し恥ずかしそうな表情になった。

「簡単だよ。給料が良かった上に誰かに自慢できる職業だからだよ。」

「え?」

 意外にも、ちゃんと答えてくれた事に拍子抜けで代わりに吹雪は驚かされた。宗春は治療を続けながら話す。

「驚いた? 私は昔に、やんちゃしてて親に勘当されてね、その代償なのかヤクザの親分の娘さんと間に子供ができて、それが修二なんだ。」

「マ、マジかよ。」

「今となっちゃあね、母親と一緒に暮らしたかったんだと思うよ。私が無理矢理に修二を海道に連れ出してしまったからね・・・多分、修二は私を憎んでいると思うな。」

「・・・品川は宗春さんを憎んでませんよ。アイツは付き合いは短いけどアイツは人を憎むほど、そんな悪い奴じゃないと思います。アイツ、馬鹿だけど入学式の時に俺は襲ったのにアイツは・・・俺を仲間として認めてくれた。俺の案にも真剣に考えて乗ってくれて・・・とにかくアイツは馬鹿だけど、そんな事を思ってる奴じゃないです!」

 最後の最後まで言った吹雪。宗春はクスッと笑い、耐えきれずに大笑いをしてしまう。
 吹雪は何が起きたのかが分からずに唖然としてしまう、宗春は笑うのをゆっくりと止めて、人差し指で涙を拭きながら笑顔で吹雪と面と向う。

「そうか、ありがとう吹雪くん。」

 宗春は吹雪が、ここまで修二に関して赤裸々に話した事が嬉しくて吹雪に感謝の意を込めた。
 吹雪は恥ずかしそうな表情で、右手で頬を人差し指で掻く。

「それと修二の病室に行ってみると良いよ…それと、ちゃんと仲直りするんだぞ?」

 宗春は余ったガーゼを直し、救急箱を棚の中に収納する。

「宗春さん、俺!」

「早く行きなよ。年寄りに構わずに…」

「はい!」

 吹雪は事務所を出て病院の廊下を無心に走り、ある場所に向かっていた。そう修二の病室だ。
 目的の場所まで辿り着いた吹雪は肩で息をしながら病室の前にいた。

「スゲェな、それ…」

 ワイワイと病室で騒ぐ音が聞こえ、吹雪はドアノブに手を出した。少し戸惑い苦しみ、このドアノブを捻って入室はしたくなかったが、数秒後には考えるのを止めた吹雪は決意をしてドアノブを捻り、修二の病室に入る。
 そこには相川と美鈴と仲村が和気藹々と修二を囲みながら楽しい一時を団らんしていた。

「…品川!」

 吹雪がハッキリと大きな声で修二の名前を呼ぶ、それに気づいた三人は、ニコやかに待ってましたと言う状態で、吹雪に今の修二の状態を見せる為に、真ん中を裂き見せる。
 そこには右腕以外は全て完治していた元気な修二の姿があった。ベッドに倒れている訳でもなく無理して座ってる訳ではない、元気な姿の修二が吹雪の目の前にあったからだ。

「こっち来いよ。吹雪!」

 修二の一言だけで、顔を下げて吹雪の目から涙が溢れ落ち拳を握り締めた。

「すまなかった! 俺の勝手な判断で諦めるなんて言って! 俺は…俺は…」

 膝から崩れ落ち、額を地面に擦り付け震えた声で吹雪は土下座という形で謝罪する。
 修二は黙ってベッドから立ち上がり、治った左足で一歩ずつ吹雪に近づき、修二も膝立ちの姿勢きなり左手で吹雪の右肩に触れる。

「吹雪、俺も謝らねぇといけねぇんだ。あの時、俺は負けたショックで一早く『カンザキシノブ』を倒したいと気持ちが先走って、吹雪の意見なんか無視してよ…俺は仲間として最低な事をした。俺こそ悪かった―――許してくれないか?」

 うるうるとした目で、前に吹雪が同じように自分の欠点を告白した時の反対、そして今にも泣きそうな修二だった。

「お前が…謝ったら…俺が謝った意味が…ねぇだろうが!」

 何故か急に怒りだした吹雪は、修二の左手を瞬時に掴み、早い動きでコブラツイストの体制で修二にダメージを与えていく…
 あの感動の場面から一変し、周りが期待していた展開ではなく三人を呆然とさせる事態になった。

「まだ右腕折れてんだよ!」

「右腕以外なら大丈夫だろうが! この馬鹿リーゼントが!」

「吹雪テメェ! 馬鹿リーゼントって言いやがったな!」

「馬鹿リーゼントは馬鹿リーゼントだろうが!」

 馬鹿の二人が楽しそうに歪み合っている間に、三人は集まり一安心していた。

「なんか今まで通りに戻ったね。」

「アイツ等らしいな、これで一件落着ッスね。」

「なんか昔に戻ったみたい…」

 美鈴だけが吹雪が楽しそうに喧嘩している様子を見て、去年の事を思い出した。
 そこには修二ではなく南雲で吹雪の背後で内藤が笑っていたのが脳裏に浮かんだ。

「っていうか、仲村テメェ! なんで、ここにいんだよ!」

「今更ッスか!」

 痛みで青ざめている修二をコブラツイストしたまま、吹雪の眼中に入った仲村が、何故ここにいるのかを突っ込まれた。
 自分の空気の薄さで、ガビーンとした表情で簡単にショックを受ける仲村だった。

「っていうか、俺は兄貴の命令で三銃士のメンバーの変更を伝えに来たんッスよ。今回、ゴン兄の勝手な都合により三銃士のメンバーを変える事にした。けれど勝手なのは無礼なので次の『覇気使い』の情報を与える。次の『覇気使い』の能力は…『毒の覇気使い』以上ッスよ。」

 気を取り直し、仲村は前もって忍から伝えられた言葉を一句一句間違えずに全員揃った所で修二たちに伝達する。

「…『毒の覇気使い』、名前だけでも手強そうだね。」

 『覇気』の名前を聞いて息を飲み込み、緊張する相川だったが、隣ではコブラツイストから解放された修二と吹雪の二人は怪しく微笑み…

「毒だろうが核兵器だろうが全部ぶっ倒せば『カンザキシノブ』に近づけるんだろ?」

「『カンザキシノブ』を倒すのに一人増えただけだろ? だったら、そいつを含めて倒すだけだ。」

 竹島の件で、敵が増えた事には不服を持たない二人の意見が奇跡的に一致した。

「やっぱり、このコンビだね。」

 相川は修二と吹雪のコンビネーションに微笑み、絶賛していた。
 仲村も二人の怖いもの知らずの言葉に顔をひきつらせて呆れ返るが、それでも仲村は内心は少し期待していた。

「そんじゃあ、期待してるッスよ。品川…」

 仲村はバーイと手を振り、修二の病室から退出する。

「何時、仲村一之と仲良くなったんだ?」

「お前がいなくなっての数日間だ。」

 二人が楽しそうに雑談しながら、それを押し黙って見つめるように眺めている相川は思った。

(品川は右腕がまだ動かない、それに吹雪くんもダメージが深い…僕も、そろそろ守られる立場じゃあ駄目だね。彼等が復活するまで僕が盾になるよ。)

 相川は心に決意を固め、二人が『カンザキシノブ』の刺客から守る事を決めた。
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