マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第2章 魔導使い襲来。

第49話 鬼神と闇帝。

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 鬼塚から溢れ出た『魔力』を感じた。鳩と烏は本能的に屋敷から必死で遠くへと飛び去った。
 そんな動物達を見ていた忍は「羨ましいな」と思いながら冷や汗を流し、鬼塚と対峙する。

「…まあ、ちょっと言っても幻魔ぐらいの力はあるので――気をつけてくれたらいいです。」

 忍はハッキリと鬼塚の姿を視認していた。が、一瞬にして姿は消え、背後から声が耳に深く響いた。

 鬼塚は忍の背後へと回り、右耳に目掛け、容赦ない高速ハイキックを繰り出した。

 攻撃を感じた忍は右腕を出し防御した。が、衝撃には耐えきれなく遠くまで飛ばされ、屋敷の塀へと背中からマトモに受けた。
 塀は大きく綺麗にクレーターを作り、蹴りの威力を現していた。

「『闇の覇気』の弱点は『光系統の覇気』と『神に近い魔力』で攻撃されれば普通の人間と変わらなくなる。まあ、アンタの事だから無事だと思いますけど…。」

 鬼塚は事前に察知していたのか、突然と左頬に目掛けて飛び出して来た。右拳を左腕のみで防御していた。

「なんで対応できんだよ。」

 忍は穴から顔だけを覗かせ、常識はずれな鬼塚の反射神経に突っ込んでいた。

「経験の違い。」

 そう言って鬼塚は穴に左手を深く突っ込み、忍の右腕を表まで引き摺り出した。そして右腕を大きく奥まで引っ込み、勢いに乗せ忍の左頬を殴った。
 忍は鬼塚に猛烈な一発を喰らい、地面へと叩き付けられた。地面に叩き付けられた衝撃で意識を失いかけたが、なんとか保ち鬼塚から腕を払いのけ、再び遠くへとワープした。

「かなり力を入れたんだけどな? ちょっと浅かったか?」

「いや、結構痛かった。意識失いそうになった。」

 鬼塚が自分自身の力を疑っていた所を忍がフォローする様に否定した。

「…アンタに言われると嬉しくねぇな。品川修二くんも可哀想だな、こんな奴に褒められても全部が嫌味に聞こえてくるからな。まあ、どうでもいいか。」

 鬼塚は気だるげに首をポキポキと鳴らし、忍へ余裕を見せていた。

「…本気出して良いぜ。『闇帝の翼』だっけ? 神に復讐する為、神の国へ進入する為の翼。俺も一応、鬼神って背負ってるんだ。鬼の神に勝てなければ飾りじゃねぇのか?」

 鬼塚の挑発的な態度に忍は黙り込み、次はどうでるのか行動を観察していた。

「…やっぱ無理か。」

 忍は不適に鼻で笑い諦めた表情で呟き、『ダークネスホール』から出て鬼塚を見ていた。

「?」

 鬼塚は理解出来なかった。忍が不適に笑い、諦めた言葉を呟き目の前に現れたのか。

「アンタみたいな真っ直ぐ生きて来た悪魔に、手加減する方が無理だったみたいだな…『闇帝の翼』。」

 忍は背中へと闇の霧を集合させ、衝撃波が発せられる翼を形成した。つまり忍は鬼塚に対し本気を出したのだ。

「…いいね。最高にいい答えだ。久し振りだな、俺をここまで滾らせて、楽しませてくれたのは敵は何時以来だろうな!」

 鬼塚は忍の本気に対し大いに喜び、『魔力』を半分以上解放していた。鬼塚は『魔力』を解放したと同時に額から二本の突起物が生えた。
 それは種族の尊重と証でもある。鬼の角が生えていたのだ。

「徹底的に殺ろうぜ。お互いが納得する最高の戦いをして、心残りがない様に生涯を全うしようぜ神崎忍!」

 鬼塚の口調は変わり、忍が本気出した事に本能的がアドレナリンを分泌し興奮させていた。

「そこまで変態じゃねぇよ…けど約束があるから俺も引けねぇのは確かだ!」

 忍は『闇帝の翼』を大きく羽ばたかせ、瞬間移動的な速さで鬼塚の目前まで苦悶と必死な顔で近づいた。そして目に見えない速い右ストレートで鬼塚の左頬を殴った。
 鬼塚の左頬から遠くにいる人物まで聞こえる。骨が砕けた音が響き、無抵抗のまま吹っ飛ばされ、塀を破壊しながら民家を巻き込み、瓦礫の山へと姿を消した。

「…お前等、手加減を知らねぇのか? いくら結界を三世帯まで貼ってるからと言ってよ。地割れまでは処理しきれねぇぞ。」

 度が過ぎる二人の戦闘に対し、不機嫌な表情で鮫島は酒をグビグビと飲みながら文句を垂れていた。

「大人しく『鍵』を貰って撤退してたら面倒事にはならなかったと思うが?」

 正しく忍の正論で鮫島はぐうの音は出なかった。

「…まあ、確かにそうだが――俺と話して油断する方も大概だと思うがな?」

 忍は鮫島の言葉で気づいた時には遅かった。背後から溢れるばかりの殺気を放っていた鬼塚が、左手で忍の右肩をガッチリと掴んだ。
 忍の全身からは今まで発汗した事がない程、冷や汗を流し、ゆっくりと驚愕の表情を浮かべ振り向いた。

「まだ終わらねぇよ。こんな楽しい戦いを簡単に終わらせるのは馬鹿がやる事だ。」

 完全に鬼塚の顔は口から牙が生え人面を保たず。完全なる化物、鬼の顔へと変化していた。
 すると忍の視界は空へと変わっていた。すぐに理解は出来なかったが、数秒で脳はハッキリとし理解したのだ。
 それは忍は鬼塚に掴まれた勢いで地面に背中から叩き付けられ、その衝撃と反動で体が浮遊し、無抵抗の状態にいる事だった。

「お前の事だから簡単には潰れないと思うが…精々、死なないでくれ幻魔達とリベンジするまではな。」

 そう忍に告げた鬼塚は左ストレートで地面へと叩きつける。忍はボールの様にバウンドし、再び浮遊した。更に鬼塚は追撃として右膝蹴りで、忍の背中へダメージを与えた。
 忍は体の中にある空気を吐き出し、苦悶な表情を浮かべ地面へ倒れた。

「まだだ! まだ終わらねぇ!」

 鬼塚が大きく右腕を奥まで引き、倒れている忍の顔へ狙いを定めて殴る。が、忍は失いそうな意識を保ちながら『闇の覇気』で上空にワープした。

(助かった。あのまま攻撃を喰らってたら完全に顔面がグチャグチャになってた…。容赦がない、これは本気出しても勝てるかどうか怪しくなってきた…仕方ない、自滅覚悟でやるか。)

 忍は考えが纏まると更に上空へと飛翔し、雲の付近まで停止する。そして両手に『闇』を収集させ、一つの球体へと形成する。
 忍が形成していたのは『ダークマター』だった。

「……。」

 鬼塚は忍が行動している最中は邪魔をせず、ずっと黙って見ていた。

「上手くいってくれよ。」

 忍は『ダークマター』を右手に隠し、鬼塚へ目掛けて急降下した。
 準備が終わった事を知った鬼塚は右腕を奥まで引っ込み、右ストレートで忍を迎撃する態勢になっていた。

「来い!」

 忍と鬼塚の右拳が衝突した。その際に発生した衝撃波は模造でもある二世帯までの住宅を瓦礫化とさせ破壊した。

「『ダークマター』!」

 忍は右手に隠していた『ダークマター』の効果を発生し、爆発させた。忍と鬼塚は闇の渦に飲み込まれ姿を消した。
 近くにあった屋敷だけは無事で、見物していた鮫島はキョロキョロと辺りを見渡す。
 すると庭の中心から空間が歪み闇が現れ、そこから二人が追い出される様に、傷だらけの倒れた姿で出現した。

「…この勝負は決まったな。」

 勝負が決着した事を確認した鮫島は、立ち上がり屋敷の奥へと消えた。
 数秒経つと、うめき声を上げながら苦悶の表情を浮かべ最初に立ち上がったのは…

「…賭けだったが…なんとか勝てた…。」

 フラフラになりながらも辛勝な感想を述べた忍だった。

「おい、神崎忍。鬼塚に倒した褒美だ。『地獄門』の鍵、『炎龍』と『氷龍』だ。」

 鮫島は屋敷の奥から二つの刀を取り出し、忍が来るのを待っていた。
 忍は虚ろな目で鮫島へとフラフラになりながら近づき、二本の刀を受け取ろうとする。

「…ありがとうございます。」

 忍は鮫島に礼を述べ、手渡しで二本の刀を受け取った。

「今度は品川修二も連れて来い、歓迎してやる。」

「アイツが行きたいなら連れて行きますよ。アイツが『魔界酒』を飲めるなら大丈夫なんでしょうね。」

 忍は重い刀を『ダークネスホール』の中へ入れ、代わりに黒いワイシャツを取り出し羽織る。そしてフラフラで出口まで向かった。

「…おい、ふざけた気絶をしやがって三流の役者じゃねぇか!」

 鮫島は鬼塚に向かって怒りを露にしていた。

「分かってました? これでも頑張って手加減したんですよ? アイツ強くなってましたし、変わりましたね。」

 なんと鬼塚はピンピンと元気な様子で立ち上がり、鮫島に弁解していた。

「…『鬼神覚醒きじんかくせい』まで使わなかったな? それを使えば勝負は早く終わってた筈だぞ?」

「…確かめたかったんですよ。今の忍と品川修二が兄貴に会う資格があるのか…合格ですよ。アイツ等なら大丈夫だと思います。」

「…そうか。」

 鬼塚の言葉に鮫島は納得し、二人の行く末を考え想像していた。
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