マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第2章 魔導使い襲来。

第59話 帰って来た。中分けと最強。

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 時は早く残酷にも二ヶ月が過ぎた。静寂である『地獄』では拳と拳が激しく、縦横無尽に衝突する音が響いていた。
 それは『太陽』と『闇』が、お互いのプライドを賭けた。二つの激しい戦いだった。

「……。」

 遠くの安全な岩場へ座り、二つの戦いを眺めている『悪魔』もいた。
 事態は終盤へと差し掛かかっていた。『太陽』と『闇』が空から地面へと着地し、お互い対峙していた。
 そして数秒後に互いは戦いを終わらせようと、再び急スピードで接近した。

「…そこまでだ。」

 だが、衝突する途中で戦いを終了させる声が聞こえた。
 『太陽』と『闇』は動きを急停止させ、硬直した状態で維持していた。

「今日が契約の日だ。もう終わりにしろ…。」

 冷静に近づき、停止を求めたのは閻魔だった。理由は、今日は忍が『悪魔』と契約し、満了する三ヶ月後だったからだ。
 『太陽』を鎮火し姿を現しのは、所々に服は破れて肌が露出している。ボロボロの修二。
 『闇』を消滅させ姿を現したのは、服が少し汚れている忍。

「後、もうちょいだったのにな。」

 修二はもう少し続けていれば勝てたという悔しさが露に出ていた。

「そう簡単に倒されてたまるか。」

 忍は余裕な表情で、簡単には倒させてもらえない態度だった。

「俺からすれば、徐々に品川に圧されていたように見えたが?」

 閻魔は悪戯っぽく、忍が修二から徐々に制圧されている事を指摘していた。

「前半までは完全に手を抜いてた…テメェが俺に対し手抜きしてたの分かった瞬間、ムカついて後半からは力を加えていった。」

「俺もだ。」

 忍と修二は戦いの際、どうやら途中まで二人は手抜きをしていたらしく。最初から本気で戦っていなかった。

「手抜きでも、ここまで出来れば『魔導使い』達には十分に戦えるだろう。問題は、この先だ。」

 閻魔は気の進まない様子で『地獄』の出口を見ていた。

「そうだな。アレを突破しねぇと『地獄』を制覇した事にはならねぇからな。」

 忍は閻魔の発言に同意し、同じく気の進まない様子で出口を見ていた。

「どうしたんだ?」

 何も知らない修二は二人が何故、気の進まない様子で出口を見ていたのが理解できなかった。

「品川、そろそろ人間界に戻るぞ。絶対に洞窟の中で振り向いたり・・・・・・するなよ? 理由は……だからだ。」

「え? 今、なんて言った?」

 忍から忠告する言葉が聞こえた。が、重要な部分だけ、邪魔をするようにかき消された。

「…ちっ、いつも邪魔しやがる。とにかく洞窟に入ったら、どんな事でも振り向くな・・・・・だ。例え俺でも、閻魔光でも…親しい人物でもな。」

 そう忍は告げ修二から離れ、顎を手に添え、色々と考え込んでいた。

「…アイツ、もしかして俺の事を心配してんのか?」

 敵でもあり、今は味方の忍が自分を心配している事が驚愕だった。そして、ちょっと気持ち悪いとも思った。
 暫くして戦闘の疲れを癒した所で三人は『地獄』の出口である洞窟へ向かった。

「良し! 帰ろうぜ!」

 修二は明るく気合いを入れて、先に洞窟へと走り出し入って行った。

「閻魔、もし品川の身に何かあったら…。」

「大丈夫、お前に勝った男だ。そんなヘマしない事を祈るって言っても神頼みは嫌いだったな? まあ、アイツを信頼してやるのが一番だ。それより品川修二を心配するよりーーお前が一番危険だ。顔から死相が濃く浮かんでいるぞ。」

「四年前も預言者に同じ事を言われた。ただし『魔導使い』の戦いでは死なない。死ぬなら品川修二の手でだ。」

 閻魔から死が近いことを忍は無慈悲に警告された。
 けれども忍は死ぬならば、修二の手で死ぬ事を望んでいた。閻魔へ気持ちを告げた忍は洞窟に入って行った。

「…そうだと良いな。」

 望みが叶うと良いなという心境で呟き、閻魔も暗い洞窟の出口へ向かった。

 深淵で暗く不気味な洞窟を三人で歩いて数分だった。異変は起きず、このまま何も起こらず無事に人間界へ戻れたらと誰もが思っていた。

「……。」

「……。」

「…なんか静かだな。入口の時は、あんだけ話してたのによ?」

 喧嘩でもしてないのに辛気くさい雰囲気が、耐えきれなかったのか、修二は明るく振る舞い、二人へ声を掛けた。

「……。」

「……。」

「あのさ、ここから出たらよ。俺は先に飯食いに行きてぇな。忍と閻魔さんは何食いたい?」

 修二は二人に食べ物の話題で空気を変化させようとしていた。

「…閻魔光が経営してる鰻屋。」

 忍はボソッと行きたい店を返答した。

「へぇ~閻魔さん、飲食店とかやってんだ。」

「あぁ。若い者は台所に立たされて、シノギを稼げるまで組の一員にしてもらえなかったからな。俺もこれから始めて、のし上がった。」

「閻魔光の腕はプロ以上なのは確かだ。極道の会長してるのが勿体ないくらいにな。」

「食ってみてぇな。」

 料理の話で、なんとか場は明るく盛り上がっていた様子だった。
 すると突然怪しい何かを察知し、三人は立ち止まった。

「…来たぞ。」

 閻魔が問い掛けると修二と忍は静かに頷き、一歩ずつ前進する。

「良いか? ここからは誰も信用するな。己だけを信じろ、決して…振り向くな・・・・・。」

 冷静な忍は再び二人へ警告し、先にと進んで行った。
 すると背後にあった道が次々となくなる感覚に陥った。それは一歩でも下がれば、崖へと真っ逆さまに落ちる緊張感が三人を襲った。
 修二は背後から何が起きてるのか、知りたい。が、気持ちを押し殺し前進した。

「おーい、品川。何してんだよ?」

 次は今ここにいる筈がない、吹雪の声が背後から聞こえきた。修二は立ち止まり、冷や汗を流していた。
 修二が立ち止まった事を知った二人は振り向かず、そのまま前を向いたまま、立ち止まっていた。

「先に行って来れ、絶対に追い掛ける。」

 その言葉に忍と閻魔は信用し、修二を置いて出口へと向かって走った。

「何してんだよ? こっち来いよ。皆、待ってるぜ?」

 吹雪らしき声は修二を振り向かせようとしていた。

「…吹雪さ、お前こんな所で何してんだよ? 大学の勉強しなくていいのか?」

「そんな事より、こっち来いよ。相川も南雲も待ってるぜ。」

「品川!」

「おい、クソリーゼント。そこに行っても何もねぇぞ!」

 吹雪に続き、相川と南雲らしき声までもが修二を惑わしていた。

「…相川さキモロンゲよ。お前等、仕事とかサボって何してんだよ? 納得する理由がねぇと、吹っ飛ばすぞ?」

「だったら振り向いて来いよ。そんな俺等が許さないんだったらよ?」

 これは挑発だった。声は修二に振り向かせる為、過去と性格を探り、『地獄』から抜け出せないようにしていた。

「…俺の夢知ってるか?」

「はあ? 何言ってんだよ?」

 突如と意味不明な修二の発言に声は聞き返していた。

「まあ、聞けよ。これはよテメェ等には言ってねぇ事なんだ。俺はこの五年間、『覇気』が使えず、テメェ等が羨ましいと思ってた。吹雪なんか夏だけ涼しそうにして、相川なんか怪我一つしねぇ身体だしよ、キモロンゲは電気代殆ど掛かってねぇって聞いてよ。いきなり虚しくなってさ、一度だけ神崎忍と戦いたくねぇと思ってしまったんだよ。初めてさ、部屋の隅っこでよ泣いたんだ。」

 五年前の記憶を遡り、修二は存在しない吹雪達へ赤裸々に語る。
 修二にとっての苦悩と後悔、そして孤独な戦いを…

「あの時、初めて後悔した。あの時、初めて頭が痛くなるほど考えた。馬鹿な俺だから、良い考えなんて浮かばなかったし、誰かに道を聞かねぇと進めねぇ状態だった。弁護士なんて輝さんの案だし、『覇気』が戻るならって思ってた…けどな、忍を久し振りに見たらよ。アイツ、めっちゃいい顔してたんだよ。俺より生き生きしてさ、五年前とは変わっててよ…五年前から全然成長していない俺と違って、スゲェなって思った。だから、俺は思った。」

 修二は振り向かず、右手だけ後ろへ回しサムズアップを見せていた。

「また、神崎忍を越えてぇなって、夢がまたできたんだよ。今度は後悔しねぇように約束を果たせるようにな…今は見といてくれ、俺がよ『覇気使い最強』になるまでな。」

 そう告げると修二はサムズアップを止めて、走り出していた。

「全く仕方ねぇ奴だな。」

「本当だよ。でもさ、そんな品川だから僕達は付いて来たんだよね。」

「…じゃあな品川修二。」

 暗い洞窟は突如と眩い光に包まれ、修二を出口へと導いていた。

(ありがとうよ。こんな俺のために…さようなら『地獄』。)

 ふと気づくと修二は夕暮れの遺跡にいた。息を繰り返し、シャツにビッシリと汗が付着し気持ち悪く濡れ、修二は呆然としていた。

「くたばったと思ってたぜ。」

 右横で暇そうに石へ座って待機していた忍が、修二へ声を掛けていた。

「…忍。」

「ちゃんと言う通りにしたな。『地獄』を出る際、試されるんだ。過去に後悔する事があって振り向けば、魂ごと『地獄』に囚われる事になっていた。けれども、お前はクリアした…五年前とは違って成長したな。お前との戦いが楽しみになってきた。」

 忍はニヒルに笑い、修二の右肩を称賛するように少しだけ触り、そして離れた。

「あのさ!」

 ふと修二が突如と何か気づいた声を上げ、忍は静かに止まり振り向いた。

「俺は絶対になるからよ。『覇気使い最強』にな、その時まで誰にも負けるなよ?」

 修二は真剣な眼差しで忍へ右拳を突きだしていた。

「…お前が一瞬の油断もせずに俺に勝てるならな?」

 皮肉混じりだが、忍も修二へと近づき、右拳を突きだし…軽くグータッチした。
 五年前の約束を果たす為に。

「今度は絶対に勝つ。お前が、また強くなっても俺がまた越えてやる。」

「もう『闇の覇気』だけで手加減はしない。『もう一つの覇気』も使って阻止する。」

 そして互いは右拳を離し、閉じようとする『地獄門』から離れた。『地獄門』はゆっくりと閉じ、再び長い眠りについた。

(五年前の決着が本当にできると良いな。)

 閻魔だけは無表情だが、忍を怪しく眺めていた。そして何も邪魔されず二人の決着がつけられる事を見守り、修二と忍に合流した。
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