44 / 869
44:タロスの木
しおりを挟む家、元家のあったところまで、戻り、彼女が声を上げる。
「ただいまー。あ、そうだ、タロスさんにお礼がいいたい。」
そういうと、木に向かって歩き出した。
ここまでは火も廻らなかったのか、積み上げた石もそのままだった。
井戸は巻きこまれたか、崩れていた。
「タロスさん、はじめまして。
マティスを嫁にもらいました。必ず幸せにします。すでにわたしは幸せです。
あ、服ももらいました。とても素敵です。ありがとうございます。
しばらくしたら、違う砂漠に行きます。」
「・・・嫁の話はいい。
タロス、すまない、家を失ってしまった。だが、大体のものはそのまま使わしてもらっている。
それで、契の相手が見つかった。彼女だ。弟のこともあって、この砂漠を出る。
しかし、生きる場所は砂漠だ。」
「この石と木も持っていく?」
「石はこのままでいいが、この木は持って行きたい。あの扉もこの木を床板にしたものだ。
生き物はダメだといったが、植物もだめなんだろうか?」
「んー、それは要実験ですね。空気と水分も一緒に入れて、別空間って感じにすればいいかな?
ちょっと、ここに生えてる草を持って帰って実験してみようか?」
「では、そこの薬草を少し持っていこう。料理にも使える。」
「おお!俺の嫁は世界一。」
「その言葉は呪文なのか?」
「ははは、そうとも言える。これをつぶやくだけでさらに元気が出るよ?」
「・・・そうか。」
火からのがれた薬草数種を土ごと外套に包み、
木の裏手に積み上げていた加工用の木材を小袋にいれた。
「様子を見に来たりしないかな?弟君たち。
薬草や積み上げていた木材が無かったら怪しまれない?」
「そうだとしても、まさか、地下にいるとは思わないだろう?
どこかで生きてるとおもって見当違いなところを探せばいいさ。
次の混合いはじめにはあきらめているだろう?」
「うん、そうだね。あ、変装しよう。マティスを絶世の美女にしてあげるよ?」
「・・・ああ、その話もあとだ。帰ろう。」
「うん、帰ろう。んじゃ、タロスさんと、またね。それと、」
そういい、タロスの木に抱きついた。
『タロスの木よ。何かあったら教えて?扉に伝えて?』
「そんな言葉でいいのか?」
「うん、植物は言葉が分かるからね。大丈夫。」
「さて、扉はどこ?扉くーんお待たせ。戻りました。」
音もなく扉が押しあがる。
「・・・すごいな。」
「うん、扉君はかしこいね。」
階段を下りる。
振り返り、扉を閉めた。
「あ、お願いしとかないと。」
彼女が言いうが、今度は私が言葉を掛ける。
『タロスの木の扉よ。ありがとう。なにかあったら伝えてくれ。
また外に出るときまで、ここを誰にも知らせないでくれ。』
「うん。基本はお礼だよね。言霊は。」
「そうだな。さぁ、薬草と木材をおいて来よう。
お前の作業部屋でいいか?トカゲとサボテンは台所に持っていく。
少し薬草はもらうぞ。」
「うん、こっち。さ、どうぞ。」
その部屋は彼女の部屋よりさらに簡単なものだった。
机、椅子、壁に棚。
ただ、部屋の真ん中に階段があった。
「なぜ?」
「うん、なんでだろうね?」
「わからんのか?」
「いや、作れるものなら作りたいと思う商品なんだよ、螺旋階段は!」
「そうなのか?上にいけ、はしないのか?のめり込んでいるが?」
「んー、この上って位置的にどこ?」
「そうだな・・・タロスの木の近くかな?」
「え?まずかったかな?タロスさんとこのお墓壊してないかな?根っことか?」
「いや、ここはそれなりに深いだろう?墓といっても石を積んでるだけだ。」
「そうなの?その遺体とか、遺灰とかをあの石の下に埋めてるんだと思った。」
「遺灰、同じだな?砂漠で荼毘に伏して遺灰はそのまま砂漠にまく。
あの石はタロスが死んだことを示すものだ。あのまま、ここで朽ちて行く。動かしはしない。」
「そうか。あの木はもっていくんだよね。」
「あれは俺が植えたんだ。タロスの石に木陰ができるように。
タロスの死んだ証は置いていくが、タロスの木は生きているからな。持っていく。」
「わかった。この薬草たちでちょっと実験してみるね。
2株ぐらい置いて行って。木材はいつでも使えるように、どっか隅に。
あ、そこはトイレだから、そっちね?」
「といれ?便所をつくったのか?どうして?」
「いや、あすこって広いでしょ?落ち着かないのよ。」
「そうなのか?ちょっと見てもいいか?」
「ん?どーぞ?設備的にはおんなじだよ?」
扉を開くといきなり座るところがあった。
扉を閉め座ってみる。いままでの便所より、少し広いぐらいか?うむ、落ち着く。
この便所がいいな。
少ししてから外に出ると、植木鉢を作ったのか、
持ってきた薬草はきれいに植え替えられており、土で汚れたであろう外套もきれいになっていた。
彼女も外套を脱ぎ、靴も柔らかいものに変えている。
「すまない、手間を掛けさせた。」
「ん、ありがとうってゆってくれればそれでいいよ?」
「ああ、ありがとう。」
軽く口づけを落とす。
「・・・キス」
彼女はまた、腰を強く自分で抱きしめている。
「?先ほどの問答の時もそうしてたな?まさか、体になにか影響していたのか?
無理はするな!」
「・・・ちがう。影響というか、力の言葉は抵抗できるけど、マティスのは受け入れたいの!本能的に。
だから、こう、なんだ?キスして抱きしめてほしいなんて、あんな力強くお願いしてくるから、
こう・・・」
自分で自分を抱きしめている。
「?・・・!・・・もっと?きす?」
「あ、あ、マティスぅ・・その声でいわないで」
深い深い口づけをする。
腰を強く抱きしめれば、頭を押し付けてくる。
「んー、マティスの匂い。ちょっと汗臭いけどいい匂い・・・」
なんとも恥ずかしいことをつぶやいている。
お前の匂いのほうがいい匂いだ。
髪に、首筋に、口づけを落とす。
「あの?軽くシャワー浴びてきていい?
さっき”きれい”にしたけど、ちょっと・・・」
「・・・きれいにしたいのか?」
「うん。あっ、違う!」
抱きかかえ彼女の部屋に向かう。
夜の砂漠にいるよりも、
素直な彼女はかわいらしかった。
12
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
異世界からの召喚者《完結》
アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。
それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。
今回、招かれたのは若い女性だった。
☆他社でも公開
R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。
半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。
凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。
だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった……
同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!?
一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる