いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
156 / 869

156:常識の範囲

しおりを挟む
くったりとした彼女を抱え、家に戻り
寝床に寝かしつけた。
腕を離すと小さく丸まり、クーっと深い寝息を立てている。
かわいいな。
このまま見ていたいが、上の様子も気になるので、
頬に口づけを落とし戻ることにする。

「兄さん!姉さんは?」
「寝ている。酒は?飯も足りているか?」
「ええ、もう充分です。いま、面白いことを発見したんですよ!
見ててください!」

タオルにコップ一杯の水をしみ込ます。

『水よ、コップに戻れ』

水が当然、コップに戻る。

「要は、石を使うときと同じなんですね。それよりも柔軟性がある。
ただ、石を使わないだけだ。さっきのずぶぬれ状態は
元の水の量が分からないから駄目でしたが。」
「ああ、それは簡単だ。私も使っただろう?”適当”もしくは”いい感じ”とかだ。
彼女がよく使う言葉だな。そうすれば、量を把握していなくても移動はできる。」
「なるほど!」
「ただ、複雑なものではダメだ。莫大な量もな。
砂漠の砂全部とか、年予算20年分のリングとか。
一度見て把握できるならいいと思うがな。
あくまでも常識の範囲だ。
水と泥の混じったものなら、水だけ、泥だけと
移動できるが、融合して違うものになっているもの、酒などは無理だ。
移動と分離は違う。
王都のソースの卵だけというのもな。何と言ったか?乳化しているそうだ。
あと、質量保存の法則だとかいったな。
そのものが増えることはないし、減ることはない。
彼女がめったに使わない言葉だが、これは絶対だそうだ。
声を出すこと。緊急時は仕方がない。
声色を変えるのがいい。命令形でな。」
「モウ殿は学院の出なのですか?」
「いや、そういうものではないらしい。彼女の話はたいていが、たぶん、だ。
故郷では広く浅く見聞きしただけだと。ああ、だから彼女の話を、
その専門の人間には話すなと、恥をかくからといつも言われている。」
「あははは、姉さんの話の真実は4割でしたか?」
「違うぞ、3割だ。」
「それでも、素晴らしいことには変わりない。
 組み合わせの発想がいいのです。アイスをいただいたのは2回目ですが、
これに酒を掛けて食べるなど、だれも思いつかない。」
「そんなことはないらしいぞ、いつか誰かが気付くとな。
ただ、彼女が知っているだけだ、そういう使い方もあると、な。
彼女が一から研究をしてなにかを作ったわけではない。あらゆることが、たぶんなんだ。
だから、なにかあっても彼女を責めないでくれ。
セサミナが姉と慕うのはかまわない、ルグとドーガーが上官として尊敬するのもかまわない。
だが、彼女の知識を特別視しないでくれ。神聖視しないでほしい。
過ぎたるものは彼女を傷つける。彼女が傷付くことは許されない。
それだけは、それだけは。
マティス・ダーマトナティスナの名においてお願いしたい。」

貴族の名は、特別だ。
その名において何かを願うというのは、
絶対といってもいい。あらゆる流れがその願いに動く。
流れが止まらないように願った者のあらゆるものが注がれて行く。
コットワッツ領国を離れ、自分の名にどれほどの力があるかわからないが、
いままで、名を使った願いなぞしていない。
彼女のためだけだ。少しくらいは効力は有るだろう。

「兄さん、姉さんは姉さんです。
特別視や神聖視しているわけではない。みな、姉さんが好きなんですよ?
兄さんが頭を下げることはない。」
「マティス様、奥方様を赤い塊殿を尊敬することは、武を目指すものなら
誰でも持つものなのです。それが特別視だとは思わない。」
「そうです。ルグさんは少し違ったことで尊敬を持っているようですが。」
「ドーガー、黙れ!」
「あなたが頭を下げるとは。面白いものが見れましたね。
そんなことより、ふれんちとーすとなるものがどのようなものかを、
さわりだけでも教えていただきたい。」
「・・・甘いものだ。プリンを含ませたパンだ。それとしょっぱい肉を付けろといっていた。」
「なんと、甘いプリンのパン?それにしょっぱい肉?
ますますわかりませんね。うーん、聞くんじゃなかった。
あ、モウ殿はわたしと手合わせしてもらえないでしょうかね?」
「手合わせならいいんじゃないか?お前は棒術ができるな?
できればそれで相手をしてやってくれ。私のは槍なのでな。
強い相手とすればまた腕も上がるだろう。」
「奥方様は拳術遣いではないのですか?」
「彼女の師がそれで、師の対戦相手が棒術遣いなのだ。
動きを真似するだけだったが、それなりに鍛錬できたと思う。
ふふん、棒術の師は私というわけだ。」
「ほぉほぉ、棒術とは。これは楽しみですね。」
「我々もお願いしたい!」
「ワイプとの手合わせを見てからのほうがいいぞ?」
「?そうですか?ではそのあとで!」

ワイプが笑っている。
それはそうだろう。
2人はまだ鍛錬不足だな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...