いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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月が沈む前に、海を見ようと、
月明かりがある中、街を抜けていく。
さすがにこの時間で開いている店はない。
かなりの距離を鍛錬状態で歩いていく。
どんどん家もなくなり、草原となり、がけっぷちにでた。
途中、道端にウリがなっている。
つぶしてシャーベットにするのもいいかもしれない。
メロンシャーベット。
あの容器はお風呂のおもちゃだった。

「これを食べないって、やっぱり贅沢だよね。」
「そこかしこにあるからな。この村は特にだ。
だから逆に食べないのかもしれないな。」
「甘いのにね。これに代わる甘味があるってことかな?」
「そこまで、人は甘味を求めはしないぞ?」
「そうか。なければべつにいのか。ドーガーが聞いたら卒倒するね。」
「お前もだろ?」
「もちろん!」
「これで、なにか甘味を作ってみようか?」

そういってくれるので、シャーベットをお願いした。
つぶして、凍らせて、かき混ぜて、それを繰り返す。
それでできる、はず。


月が沈む。きちんと方位を示してくれている。
暗い海が明るくキラキラ輝いていく。


「ああ、きれいだね。」

陽が昇らなくても輝く。不思議だが、きれいだとしか言いようがない。

「ああ、きれいだな。」

ここで、軽くパンと昨日のハムを挟んだものを食べて、下に降りていくことにする。
月無し石はさっそく海に入っていった。戻れるのか?


砂浜はなく、岩肌が見えているだけ。

藻があるのかうっすら緑だ。あ、海苔かな?

「ティス?これって食べる?」
「どれ?岩?」
「・・・いや、さすがに岩は食べないな。この、緑の。」
「・・・食べない。」
「そうかー。ちょっと、集めておいていい?
乾かしたら海苔になるかも。」
「あのおにぎりに巻く?」
「うん。砂漠で魚をほしたらいい感じになったでしょ?
これも乾かしてみたいな。収納しとけばいつでも大丈夫でしょ?」
「ああ、わかった。しかし、ここは寒いから、呼び寄せだぞ?体が冷える。」
「はーい。」

呼び寄せで岩についてる海藻を集める。


「さ、戻ろう。おいで。」

きゅっと抱きしめられて、崖の上に戻った。
月無し石に戻るよーと声を掛ける。
ピュンピュン上に上がってくる。
それを二人でタオルで拭いていく。
少し磨くようにするのがお気に入りのようだ。
ここにもまた3つほど残るそうだ。はいはい、お好きにどーぞ。

また、元来た道を戻る。
結構時間がたったのか、店も開き始めている。
さすがに肉屋が多い。ここにいろいろ買い付けに来るのだろう、
宿屋も多いな。野菜は少ない。なにでビタミンを取っているんだろう?
やっぱりお茶かな?
八百屋らしき店を覗くと、緑の茎状のものが売っていた。

「すいません。それなんですか?初めて見ます。」
「いらっしゃい?旅人かい?これはビルだ。炒めて食べる。
臭いはあるがうまいよ。」

手に持たせてくれる。においを嗅ぐ。おお、大蒜ですな。
まさに大蒜の芽。

「へー、これって草?土に生えてる?」
「ビルっていう木の葉だ。若い芽だけをとるんだ。」
「栽培してるんですか?木を?」
「林に入ればなってる。それを取ってくるんだ。
かなり高いところまで昇らないと取れないがな。」
「そうか、林に入ったけど気付かなかった。その木には実がなる?」
「なるぞ。今時分だ。やはりかなり高いところだな。
ああ、食べれるかってことか?
ははは、無理だな。舌がしびれるぞ?」
「そうなんだ。じゃ、その茎ください。」
「あいよ~。」

「知ってる?このビルって言う木。」
「いや、しらん。しかし、このビルは知ってる。ここら辺の産地なんだな。
うまいが、臭いがある。ガムがいるぞ?」
「あ、ガムを噛めばいいんだ。」
「噛めばな。だが匂いがあるから、ニバーセルではあまり食べない。」
「そうか。ここの人は食べるみたいだね。
臭いどうしてるんだろ?」
 「ああ、愛しい人。膜を張ってるだろう?低酸素ではなくて、匂いよけに。
外してみろ。その匂いがするから。」
「え?」

なるほど。村全体がこの匂いだった。ニンニクの匂い。

「これは問題だね。気づかないのはまずい。
癖でそのままだった。妖精と帝都の匂い以外ははずようにするね。
ティスは?知ってたの?」
「私は外しているから。王都を出てからは外している。
そうでないと、感覚が少し鈍る。」
「そうか、わたしもそうするね。ダメだったら、張るようにするよ。」
「無理はするな?」
「うん、ありがとう。でね、このビルの実を取りに行きたいんだけどいいかな?」
「もちろんいいが、食べられないと聞いたのでは?」
「んー、生ではね。とにかく取りに行こう。ダメもとで。」

そのまま、村の入口まで歩いていく。
あとのお店屋さんは同じような感じだった。
広場のあの店は閉めたまま。いいんだろうか?
ま、決断したのはあのご主人だ。大丈夫だろう。


守衛さんがいる。

「どうした?荷はそろっていないぞ?揃うのは明日の半分だ。」
「ああ、それでいい。このビルを知ってるか?
この木を見たいと妻が言うから一度外に出る。」
「へ?それなら豚を狩った林の木のほとんどがそれだぞ?」
「そうなんだ。下ばっかり見てたから気付かなかった。
今の時期に実がなってるってきいたんですけど、ほんとですか?どんな実?」
「あんた、食べる気じゃないだろうな?子供だけだぞ?そんなことしでかすのは。
それで、辛くてウリをかじるんだ。」
「ははは、そんなことしませんよー。」
「嘘つけ。食べる気満々じゃないか。嘘はわかるんだよ、俺は!」
「あははははは!」
「守衛殿、やはり食べてはいけないものなのか?」
「いや、かまわんさ。子供の根性試しみたいなもんだ。
どれだけ我慢できるかな。
死にはしないが、その年でするのか?ぶ、ははははっは、ひー。」

また、守衛さんがひきつけを起こしている。
この人は沸点がよほど低いようだ。

ちょっとムカついたのでお仕置きだ。

「守衛さん、守衛さん、アヒルって知ってますか?」
「ひ、ひ、はー、苦しい。え?アヒル?しってるさ。ここにはいないがな。
それが?」
「ちょっと、これ見てほしいんだ。」

マティスも頷いて、2人で左右対称のズンタッタを披露した。

目が点になっていた守衛はそのままおなかを抱えている。
ふん、たわいもない。

横を見ればマティスも、笑いをかみしめている。

「ティス、林に行こう。」
「ぶ、は、ああ、行こう。ぶはははははは!」

もう、かわいいな。
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