転生したら厄災と呼ばれました。 ~転生後のスキルは『奪取』!?せっかくなので他人の能力を奪いまくってやります~

バカの天才

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物語

16話 「貧者の冠」 彩るように鮮やかな赤

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「……ここは私の家だ!!!」

「お前これ!半分私怨だろ!?」

 男の力がより一層増した。

 ダッシュは『貧者の冠』について知っている。

 監視には『目』と呼ばれる者を、『耳』は盗聴を、『舌』はそれら情報の連絡を。
 それぞれが生物の器官と同じように働く。
 そして、対象を罰するものが『執行者』と呼ばれている。今まさに対峙しているこの男もその一人だ。

(あいつが言う彼女ってのは、恐らくばあちゃんか……)

「ぅ……らぁっ!」

 負けじと踏ん張り、何とか相手の剣を弾くようにして膠着状態を脱した。
 だが一瞬の隙も与えず、相手は向かってくる。

 『執行者』の刃が腿の内の大動脈を、切っ先が神経の集中する脇の下を、翻した剣の柄が首の喉頭隆起を。常に急所を変えては流れるように繰り出される刺・斬・打の連撃をダッシュが捌く。
 時折、甲高い音を立てて剣は腕ごと上にかちあげられる。剣のみならず、足払いを交えた不意討ちがダッシュの体勢を崩さんとする。
 こちらも軌道を読み、間合いを見切る。一歩下がって躱しては、たまに見せる隙を狙って突く。
 
(クソッ……!)

 力を籠め足を狙い切り払うも、これは難なく躱わされた。
 こちらを両断せんと叩きつけるようにして切掛る男に目掛けて、床に転がる木片を蹴り上げる。振り払うようにして姿勢を崩すが、男は怯まない。
 
 しかし一瞬視界を遮り、動きが止まれば十分だった。

 足に力を込めて強く後ろへ跳ねると同時に、相手との距離を僅かにとる。
 そのまま剣をしまうと、

 「4番!」

 能力と同様、こいつ手袋も調べた。
 意思を汲み取るかのように、欲しい物をこの手に握らせる。
 咄嗟の時、手を突っ込んであれだこれだと考えてはいられない。
 だからパック詰めされたような武器達に番号を振った。
 
 呼べば、こいつは応える。ほんの少しだけ掌から飛び出るように物がでてくる。
 僅かだが取り出すまでの動作を楽にした。

 次に取り出したのは槍、別に大した代物じゃない。
 槍頭が細い円錐状で長さの半分を占める、徳用品の1つ。

 軸を外すように距離を詰めようとした男へ目掛け……

「ふっっ!」

 突き刺す!

 が

 その距離は少し足りない。
 
(……捉えた!)

 槍は伸縮する。それは不意の一手。『貴方に必要なハッピーセット』
 勢いよく伸びる持ち手が距離を埋め、刃先はガラ空きの腹部目掛けて突き刺さる。

 だが、ブスリという鈍い音は響かない。
 突き破ったのは体を隠すように纏った外套だけで、男は浅い傷ぐらい済んだだろう。

「……やっぱりあんたも、身体施術者か」



『能力は優れています。しかし、それを持たない人達へ。

 変わりの物を、当ギルドが与えます。

 異形の素材・新薬を用いた新たな技術が、貴方の命を守ります。

 必要なのはお金だけ。ぜひこの機会に施術バフしましょう』
 
 一昔前の宣伝文句だ。今では能力の有無に関係なく行っている。

 なぜ、華奢な乙女が屈強な男の一撃を受け止められる?
 なぜ、血を流しても意識を失わず立ち続ける? 
 なぜ、戦いの場で肌を露出した服装ができる?

 施術を行えば解決できるからだ。金があれば身体を施術しより強くできる。 

 ティナもそうだ。四肢から失血したがなお動き続けた。俺も粉砕で負った怪我を少しの間でマシにできた。都の人間の大半はやっている。人の命は安いがそれを守るものは当然高い、低等級を除けば。

 甲冑や衣類のような防具は、払う金を持たぬ者・遺物の力や異形の素材を用いた機能美・または単なる見た目等に特化した。
 身体に埋め込むようなこの施術は、着脱しなければいけない装備の手間を解決させる。
 安い施術は低等級の異形の革を肌へ縫い付けたりするだけだ。だが、それでも強力だ。彼のように致命傷は回避できる。
  
 こういった者同士の戦いは、大きな1撃か傷を負わせ続けることで勝敗が決まる。
 さながらHPを削り合うかのように。

「このままずっと戦い続けるか?」

 突き刺したと思った槍を離し、また互いの間合いをはかる。

「……目的はお前を隠すことにある。能力を奪い続ければ隠れるのにも限界が来る。お前が我々にとっての『厄災』となる前に、対処するだけだ」

「俺の動向を知ってるって言ってたな。知ってるなら俺が奪った能力についても聞いてるはずだ。だがあんたは俺が構えた時に動かなかった」

「……ちゃんと見ない『目』、正確な情報を伝えない『舌』が居たのは確かだ。いずれ『脱退』させる」

「道理は理解してるよ。それに家を壊したことも謝る、直すための金も作ろう……。俺だって『貧者の冠』は知ってる。アンタみたいな『執行者』は1人で対象を殺しはしない……。執行対象になった奴には何人来る?3人か?4人か?執行日はまだのはずだ」

「……」

「無理な頼みだが時間をくれ!騒ぎは収めるし、他の区のスラムへ移る!」

「………………3日やる。でていけ、他所のスラムも駄目だ」

『執行者』は剣を床に突き立て、低い声で述べた。

「拒否したら執行か?」

「当たり前だ」

「……分かったよ、3日以内に出ていく」

 ダッシュは武器を収めると、重い足取りで扉から差す光の向こうを目指す。

(ティナは大丈夫か?7区へ行けたか?俺を頼ったから死んだとか、後味悪いぞ……)

 抱える不安はまだある。自分の居場所だ。

 自由の代償は払うべきだ、それは理解している。
 だけどスラムを出たら行きつく先はどこだ?都の外界か?おれはそこで何分もつ?
 それとも『地下街』?人間を嫌う俺をやつらが住まわせるか?
 ……まいったな。どの道まともな場所にはいけないか。


 ―――――――


 ――――


 ――ギシッ


「ッ……!」

 不意に後ろから近づく素早い足音。それは考え事をしているダッシュに向かってくる。

 ダッシュは『執行者』について知っている。
 見逃すようなことはしないと。
 
 だが、期待してしまった。
 
 そうなることを。
 

「っ!!!!」

 跳んだ。後ろに迫る男を越え、天井に着かんばかりの高さで。

 そして構える。

 左手を、視線を。自分を突き刺そうとしたその男に向けて。

 頭が下へ向き髪が垂れる。天井裏が足に当たる。

 そして時が満ちた。


「クソッ!!」 

 ……本日何度目かの粉砕が執行された。

 弾けるものは変わらない。
 幾多のガラクタと破片。だが、それらを彩るように鮮やかな赤が混じる。
 
 何とか姿勢を戻し、不格好ながら着地した。
 掌が何かを潰したような感触を得る。

 粉砕の後に、男の影はない。

 あるのは、いくつかの肉とそこから突き出る骨。

 半分だけ残った顔がこちらを見ているような、そんな不気味な視線が……ダッシュを罪悪感で満たす。

 「最初にあんたに向かって使わなかったのは、俺を置いてくれた恩が『貧者の冠』にあるからだ……!なのに……っ!」

 ダッシュはその場を後にした。




 物言わぬ肉が、スラムをまた1つ、赤く染める。

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