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物語
17話 「制限区域」 この気持ちも、今だけだ
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未だに残る潰したような手の感覚と、心に残るあの『執行者』の目がダッシュを不快にさせる。
それもそのはず、『厄災』と言われた自分を間接的に助けてくれた者を殺し、出会って間もない女を助けたのだから。
(あの男は俺のために助けた訳じゃない。それに『執行者』だって善人を殺してきただろう。切り捨てなきゃ駄目だ……)
『執行者』と一戦を終えたダッシュは再度跳んだ。
何度目かの飛翔で彼女を見つけること自体は、さほど難しくなかった。スラムに似つかわしくない目立つ髪色は、上からみたら一目瞭然だ。ただ、攣るような足が悲鳴を上げそうで困る。
「見つけた、……なんであんなとこ歩いてんだ?」
小高い屋根の上から降りる。今度はしっかりと着地でき、そのまま彼女へ駆け寄った。
「ティナ!」
「!!、あんた無事だったんだね……」
ほっとした彼女は、ふらつきながらもまだ動けるようだ。
「7区は南西だ、このまま進めば9区に戻ることになる」
「まじで?どこも似たような景色だから気づかなかった……。あの男はどうしたの?」
「……やるべきことをやったよ、みんながそうしてきたように」
ティナからは彼の表情は見えない。仮面の裏に隠された顔が今どんな風になっているのかは分からない。だが、曇ったような声が何があったかを物語る。
「あんま気にしない方がいいよ。あたしも結構色んな人を手に掛けてきたからさ」
彼女の言葉は軽く、心に響かなかった。でも、これが普通なんだという都の日常を分からせるには十分だった。きっとこの気持ちも今だけだろう、いずれ慣れてしまう。所詮、井の中の蛙だったというだけで。
「そういえば、上からみたが追手が見当たらなかった、騒がしい通路もない。ここから引き上げたのかもな」
「あたしもできればここに長居したくないかも……」
寝っ転がる者、壁にもたれる者たちが2人を好奇な目で見続ける。その視線にティナも嫌がっていた。
「だろうな。無駄足にさせて悪いけど、やっぱり弟と一緒に匿ってもらったほうがいい。俺はここでも狙われる立場になっちまったからな」
「…………ごめん、迷惑かけて」
気まずそうな顔をしながら述べられた弱弱しい謝罪。出会って2日も経たないが、ティナには似つかわしくない台詞だということは分かる。
「言われた言葉を返すよ。あんま気にしない方がいい、俺も結構迷惑かけてきたからさ」
「ぶっ、あはははっ!確かにっ、あの『厄災』だもんね!」
(こいつは本当に良く顔が変わるな)
「そう呼ばれるのは嫌いだな」
「……ありがと」
「気にするなって。で、弟とロミの場所は分かるか?」
「分かるけど、そこまで無事にいけるかな。向こうじゃまだあたしを探してるかもしれない」
「ここに留まっても安全の保障はできない、他に伝手があるか?」
「まったくない……」
そういうとティナが首を横に振る。
金を払って他の事務所に助けを求めるのも手だが、俺は当然として彼女も手持ちはなさそうだ。もしあればここには居ないだろう、伝手も手持ちもないからここへ来たのだ。
「その場所まで案内してくれ。連れ添ってやる、報酬は後でいい」
「あんた金取る気!?」
「都の人間らしいだろ?」
「ちっ……」
「おい、さっきまでの弱弱しいお前はどこにいったんだよ!」
そんなやり取りをしながら、2人は駆け足で9区を目指した。
―――――――
――――
――
9区…都の真東に位置するここは、指輪騒動のあった場所でありダッシュも数度、訪れたことがある。区章は『銭袋に詰められた笑顔』
「ねぇ、これ臭いんだけど。この外套も絶対洗ってないやつじゃん」
顔を覆うように包むフードにティナが文句を言う。
「我慢しろよ、借りれたことに感謝しろ。誰のか知らないが」
「借りたって……、樽に掛かってたものを勝手に持ってきたんじゃん」
「これだけ人通りも多いんだ。多少の変装でもいくらか効果はあるだろ。目的地はもっと奥か?」
この間とは違う通りを2人で歩く。幾多の人のなかに冒険者も歩いているが、こちらには見向きもしない。関係ない者か、はたまた気づいてないだけか。どちらにせよ思ったより状況は悪くない。
「2等級宿屋『ジア・セーナ』、そこにいるよ」
「なっ!?そこって等級制限区域内の宿屋だろ、俺は入れない!」
「あたしは大丈夫、許可証もあるしね」
一定の等級以上でないと入れない場所や地域が都にはある。今向かっているのがそこだったなんて……。条件を満たさない者が許可なく入ったりしたら……。
「俺は許可証なんて持ってないぞ……。バレたら治安維持事務所が飛んでくる。そうなれば、お縄どころの話じゃなくなる」
「金を取るんだろ。リスクを負わなきゃ稼げないよ?」
呆れたようにティナが言う。まぁ、連れ添うって言い出したのは俺なんだが……
「……やめていいか?」
想定外の場所だったことに驚いたダッシュは、申し訳なさそうにそっと言う。
「ふーん、やめたいんだ。へぇ~。あたし死ぬかもなぁーきっと。八つ裂きにされちゃうんだろうなー。はぁ~弟がいるのになー。きっと悲しい思いをして、いない姉を思って1人で生き抜かなきゃいけないんだろうなー。最後にもう一度顔を見たかったなー」
「へー、やめてほしくないのか。ふ~ん。俺死ぬかもなぁーきっと。引き裂かれて吊るされるんだろうなー。はぁースラムで助けてやったのになー。恩人も居なくなって金もなくて1人で生きてきて、最後は惨めな思いで終わるんだろうなー」
「……」
「……」
「……やれ」
「はい」
こうして、2人は制限区域へと向かう。
――――――――――――――
人間カタログ更新しました。
それもそのはず、『厄災』と言われた自分を間接的に助けてくれた者を殺し、出会って間もない女を助けたのだから。
(あの男は俺のために助けた訳じゃない。それに『執行者』だって善人を殺してきただろう。切り捨てなきゃ駄目だ……)
『執行者』と一戦を終えたダッシュは再度跳んだ。
何度目かの飛翔で彼女を見つけること自体は、さほど難しくなかった。スラムに似つかわしくない目立つ髪色は、上からみたら一目瞭然だ。ただ、攣るような足が悲鳴を上げそうで困る。
「見つけた、……なんであんなとこ歩いてんだ?」
小高い屋根の上から降りる。今度はしっかりと着地でき、そのまま彼女へ駆け寄った。
「ティナ!」
「!!、あんた無事だったんだね……」
ほっとした彼女は、ふらつきながらもまだ動けるようだ。
「7区は南西だ、このまま進めば9区に戻ることになる」
「まじで?どこも似たような景色だから気づかなかった……。あの男はどうしたの?」
「……やるべきことをやったよ、みんながそうしてきたように」
ティナからは彼の表情は見えない。仮面の裏に隠された顔が今どんな風になっているのかは分からない。だが、曇ったような声が何があったかを物語る。
「あんま気にしない方がいいよ。あたしも結構色んな人を手に掛けてきたからさ」
彼女の言葉は軽く、心に響かなかった。でも、これが普通なんだという都の日常を分からせるには十分だった。きっとこの気持ちも今だけだろう、いずれ慣れてしまう。所詮、井の中の蛙だったというだけで。
「そういえば、上からみたが追手が見当たらなかった、騒がしい通路もない。ここから引き上げたのかもな」
「あたしもできればここに長居したくないかも……」
寝っ転がる者、壁にもたれる者たちが2人を好奇な目で見続ける。その視線にティナも嫌がっていた。
「だろうな。無駄足にさせて悪いけど、やっぱり弟と一緒に匿ってもらったほうがいい。俺はここでも狙われる立場になっちまったからな」
「…………ごめん、迷惑かけて」
気まずそうな顔をしながら述べられた弱弱しい謝罪。出会って2日も経たないが、ティナには似つかわしくない台詞だということは分かる。
「言われた言葉を返すよ。あんま気にしない方がいい、俺も結構迷惑かけてきたからさ」
「ぶっ、あはははっ!確かにっ、あの『厄災』だもんね!」
(こいつは本当に良く顔が変わるな)
「そう呼ばれるのは嫌いだな」
「……ありがと」
「気にするなって。で、弟とロミの場所は分かるか?」
「分かるけど、そこまで無事にいけるかな。向こうじゃまだあたしを探してるかもしれない」
「ここに留まっても安全の保障はできない、他に伝手があるか?」
「まったくない……」
そういうとティナが首を横に振る。
金を払って他の事務所に助けを求めるのも手だが、俺は当然として彼女も手持ちはなさそうだ。もしあればここには居ないだろう、伝手も手持ちもないからここへ来たのだ。
「その場所まで案内してくれ。連れ添ってやる、報酬は後でいい」
「あんた金取る気!?」
「都の人間らしいだろ?」
「ちっ……」
「おい、さっきまでの弱弱しいお前はどこにいったんだよ!」
そんなやり取りをしながら、2人は駆け足で9区を目指した。
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9区…都の真東に位置するここは、指輪騒動のあった場所でありダッシュも数度、訪れたことがある。区章は『銭袋に詰められた笑顔』
「ねぇ、これ臭いんだけど。この外套も絶対洗ってないやつじゃん」
顔を覆うように包むフードにティナが文句を言う。
「我慢しろよ、借りれたことに感謝しろ。誰のか知らないが」
「借りたって……、樽に掛かってたものを勝手に持ってきたんじゃん」
「これだけ人通りも多いんだ。多少の変装でもいくらか効果はあるだろ。目的地はもっと奥か?」
この間とは違う通りを2人で歩く。幾多の人のなかに冒険者も歩いているが、こちらには見向きもしない。関係ない者か、はたまた気づいてないだけか。どちらにせよ思ったより状況は悪くない。
「2等級宿屋『ジア・セーナ』、そこにいるよ」
「なっ!?そこって等級制限区域内の宿屋だろ、俺は入れない!」
「あたしは大丈夫、許可証もあるしね」
一定の等級以上でないと入れない場所や地域が都にはある。今向かっているのがそこだったなんて……。条件を満たさない者が許可なく入ったりしたら……。
「俺は許可証なんて持ってないぞ……。バレたら治安維持事務所が飛んでくる。そうなれば、お縄どころの話じゃなくなる」
「金を取るんだろ。リスクを負わなきゃ稼げないよ?」
呆れたようにティナが言う。まぁ、連れ添うって言い出したのは俺なんだが……
「……やめていいか?」
想定外の場所だったことに驚いたダッシュは、申し訳なさそうにそっと言う。
「ふーん、やめたいんだ。へぇ~。あたし死ぬかもなぁーきっと。八つ裂きにされちゃうんだろうなー。はぁ~弟がいるのになー。きっと悲しい思いをして、いない姉を思って1人で生き抜かなきゃいけないんだろうなー。最後にもう一度顔を見たかったなー」
「へー、やめてほしくないのか。ふ~ん。俺死ぬかもなぁーきっと。引き裂かれて吊るされるんだろうなー。はぁースラムで助けてやったのになー。恩人も居なくなって金もなくて1人で生きてきて、最後は惨めな思いで終わるんだろうなー」
「……」
「……」
「……やれ」
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こうして、2人は制限区域へと向かう。
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