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3話
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「・・・・・・。」
ハーヴェイがやや身を乗り出してセドリックの頬を無言で二、三回叩く。最初は軽く叩く程度だったが、三回目はほぼ平手打ちのレベルで、パァン!という聴いてても痛そうな音が響いたのでジェニファーが慌てて奴の右腕を握って制止した。
「失神て、そんな簡単に目がさめるものじゃないでしょ・・・!?」
「じゃあ殴った方が・・・。」
ジェニファーは「叩いたりなど物理的に何かしたところで意味がない」と言いたかったのだろうが、違う意味で伝わってしまったことに気付いて首を大きく横に振った。二人の間に語弊を生んだ瞬間だった。
「置いていくわけにはいかないね。僕の腕が直れば、背負っていけるんだけど・・・。」
小柄だけど俺たちと比較にならない力を秘めてるだろうマシューならセドリックを運ぶぐらい容易いと思う。しかし、腕が片方ないなら、それは難しい。
「あっ、でも担ぐことなら!」
「俺がおんぶするからいいよ。」
・・・片方があるなら、担ぐことはできる。でも、担ぐ本人が担がれる人と同じ体型だと、足を引きずったりと安定はしなさそうだ。そう判断したのかはしらないが、この中で力があり大柄なハーヴェイが名乗り出る。
「外に出ても大丈夫なの?ほんとに・・・。」
トンネルから覗いて左右を見渡すジェニファーにマシューは余裕と落ち着きを持って答える。
「うん!魔物はもういないだろうから、外へ出ても大丈夫さ。少しぐらいなら、僕が対処するよ。」
これほど頼もしい事はない。腕はないが、不便というだけでマシューにとってはたいして支障が出ることではなさそうだ。
みんなは、それでもどこか腑に落ちない様子でおずおずとトンネルから外へ出る。俺も同じく、この世界において身の休まる場所なんかあるのだろうかと心配とか不安が心に重りとなってのし掛かるみたいな。簡単には取り払えない。
人間ではなく人間の動きを遥かに超えた殺意を向けてくる生物に不意打ちされたら、無事じゃあすまない。俺たちは、腕がなくなって平然といられる体じゃないんだから。
いや、不安ばかりしていて動かないわけにはいかないんだ。今すぐに打開策は見つけられなくても、こうやって協力してくれる助っ人だっているんだ。何もない時こそ、冷静でいなければ・・・。
そういえば、これから俺たちはどこへ行けばいいんだろう。多少見慣れた街とはいえ、所々がおかしくなってしまった以上土地勘も当てにならない。皮肉にもこの世界に住み慣れている人の方が俺たちより詳しいのだ。
「よいしょ・・・。」
ハーヴェイはセドリックの腕を掴んで中から引きずり出した後、聖音に手伝ってもらいながらなんとか背負うことができた。
「これからみんなの活動拠点が必要になるね。拠点というか、できるだけ「誰にも」見つからない場所というか。」
マシューが顎に親指と人差し指を当てしばらく思案した後何やら案が浮かんだのか、笑顔でみんなの顔を一通り見渡す。
「いい場所がある!僕と師匠が修行する際よく行く場所なんだ。山の奥の奥だけどその前に大通りがあるし野良の魔物に対しては厳しいから、そうそう現れないよ。山奥だから人も滅多に来ないしね。」
ここでいう人も魔物と同じみたいなものだが、そのどちらも現れる可能性が無いのなら今の俺たちにとっては最も安心できる場所といえる。
「小屋もあるし、食べ物とかも・・・まあなんとかなるよ。そこで、これからの事とか一緒に考えよう。君たちが一刻も早く元の世界に戻れるよう、協力するから。」
不安にさせないよう、場違いな程の笑みでマシューは力になってくれると言ってくれた。
初めて異世界に来てから、心から信用できる存在に出会えた。
すぐには解決できない事かもしれない。でも、その間だけでもマシューのような、異世界に住む立場でありながらこちらを理解してくれる味方がいるだけですごく心強い。
ジェニファー、ハーヴェイ、聖音、オスカーはいつも通り不満そうだが、みんなの表情から緊張がわずかに和らいだように感じた。
「ついてきて・・・。」
マシューが背を向けた。すると、ヴォンという耳に残る重い音が聞こえた直後、何も無い空間が歪み、そこから先ほど魔物と戦っていた軍服の男性が降り立った。
「なんで・・・!?」
それらは次々と、四方に現れる。それぞれ、手には大きな銃器を持っている。
俺たちは俺たちで、背を内側に向けて円形に集まった。
「え、え?何!?」
うろたえるジェニファーのそばに寄り添う聖音。オスカーもバットを両手に構え、ハーヴェイはいつになく険しい顔で前方を睨んでいるがセドリックをまだ背負ったままだ。身体に伝わる警戒心は硬いコンクリの壁みたいに張り巡らされる。
「お前らは、駆除の対象外は勝手に攻撃も捕獲もできない!そういう風に出来ているはずだ!!」
マシューは庇うように一歩前に出る。 表情をコロコロ変えるあいつの今の顔は、それでも信じられないぐらいのひどい剣幕だった。
「・・・我々は。」
「喋った!!」
男性のうちの一人が口を開くと聖音とジェニファーが同時互いに体を寄せ合いながら目をまん丸にして驚いた。
「我々はアマリリア様の所有物。先程駆除に当たっていた個体とは関係無く、国、地方の命令とも一切関係の無い、アマリリア様の命令によるものである。」
「アマリリア・・・。」
初めて聞いた人物の名前を呟くマシューの表情は変わらない。アマリリアという人物が今の彼らを雇っているという事なのだろうか?そもそも、こいつらは一体なんなんだろう。所有物?マシューが言い放った「そういう風に出来ている」も気になる。
「アマリリアって、どんな人?知ってるの?」
ハーヴェイの問いかけに振り向く事なく答えた。
「・・・なんて言ったらいいかな。ここらで一、二を争う権力者・・・かな。彼女は人間を好意的に受け止めてはいる。危害を加えることはしないはずだけど・・・。」
しばらくの沈黙の後、苦虫を潰したみたいな顔のマシューが続けた。
「魔女は人でなしの極みだ。表の顔がどうであろうと信用できない。・・・クソ!見つかるのが早すぎた。まだ大ごとにしたくないのに!」
そう吐き捨てたのを狙って軍服を着た男性が一斉にマシューの方に銃口を向ける。
「待て!!」
俺は咄嗟に声をあげた。しかし視線も、銃口の先も微動だに動かない。
俺がこんなところで彼らに対して何ができる?
出来ることなどありやしないのに、「このまま黙ってる」事の方が俺には出来なかった。気持ちが、先に声となって外に出てしまった。
でも、意味はなかった。
「リュドミール・・・。」
やっと振り向いたあいつは、こっちを憂いていた。今から遠出に旅立つ子供を見送る前の心配性の親に似ている。でもすぐに強気な顔で前を向いた。
「みんなをどうするつもりなんだい?危害を加えないのなら、僕はここを去るよ。」
声は落ち着きを取り戻している。軍服の人物のうち一人がすぐに答えた。
「アマリリア様には、人間を見つけ次第保護するよう命令されている。よって危害を加える行為は禁じられている。ただし、抵抗した場合や逃走を図った場合は拘束もやむを得ないと言われている。」
「・・・・・・。」
マシューも、みんなも、一斉に黙り込む。だいたい何を考えているか、概ね見当がついている。いや、あくまで俺個人の想像に過ぎない。
「彼らにおとなしくついていった方が良いのではないか」。
アマリリアがまだ俺たちにとって得体の知れない人物なのには変わりないが、もしここで抵抗や逃亡したりすると拘束されるかもしれない。いくら危害を加えないと口では言っても、手には人の頭が軽く吹っ飛びそうな大きな銃を抱えているのだから信用できない。何があっても、圧倒的に敵わない実力差。これをわかりやすい言葉で例えるならこの状況はまさに「無理ゲー」てやつだ。
本当におとなしくしていたら、従うだけ従っている間はきっと大丈夫だろう。
・・・考えすぎかもしれないが、マシューの好意を裏切る形にもなるんだろう。
でも、彼らのいう通りにしていれば、マシューもまた無事でここから逃れられる。それの方が多分、あいつのためになると思うから。
「アマリリアって人は俺たちを保護したいって言ってるんだよな?」
みんなの視線が一気に俺の方に集まる。
「リュドミール、まさか・・・。」
「お前、本気なんだな?」
ハーヴェイとオスカーの半信半疑のこもった声に頷いてみせた。
「今の状況からして拒否の意思を見せるのは明らかに危険だ・・・と思う。この先どうなるかわからないけど、今をなんとかしないと・・・。」
はっきりと、こうしろとはとても言えなかった。先が見えないから、これで本当に良かったのかとまだ迷いが残っている。
「マシューには悪いけど、これが多分最善なんだ。」
振り向かない。でもその声は、今まで聞いた中で一番穏やかで落ち着いていた。
「うん。ありがとう。そうだね。・・・その方がいい。」
「お待ちください。」
せっかくの良い雰囲気に割り込んで軍服の人物が口を挟む。
「人間に関わった者として事情を聴取する必要あり。よってマシュー様にもアマリリア様の元へ連れていくよう言われております。」
後ろから見ても、マシューの肩の力がふっと抜けて落ちたのがわかった。
「・・・へっ?僕も行っていいの?」
気取った態度がやたら多かった彼のなんとも間の抜けた様子だった。
俺は胸をなでおろした。安堵で大きく息を吐く。
まさか、頼れる助っ人も一緒だなんて、これはツイている。ジェニファーは「やったー!」と聖音の手を握って飛び跳ねている。セドリックが起きていたら、同じように喜んでいたに違いない。聖音の表情もすっかり綻んでいる。ハーヴェイはいつものぼんやりした無表情だったが、いつも通りに戻っているのはすなわち平常心に戻ったということで、オスカーに至っては・・・バットを降ろしているあたり警戒心は解いたと見よう。
「良かった・・・。」
俺も、緊張からの脱力感は半端ないものだった。思わずそう呟いてマシューの肩に手を置いて頭を垂れる。
「マシューにはそばにいて欲しかったから、ホッとした・・・。あっ、てみんなも思ってると思うぞ!」
つい、無意識に本音をこぼしてしまったものの、なんだか急に気恥ずかしくなってぱっと手を退けたあとみんなのところに戻った。最後の方なんか、何を言ってるんだか。まあ、みんなを見てると確かに、俺と同じ事を考えて喜んでいるんだろうけど。
勿論、マシューがどんな反応をしたかは見ていない。
「では皆様は我々について行くことを了承したと見なし、早速我らが主、アマリリア様の元へ案内させていただきます。近道がありますので、そちらを通ります。」
軍服の人物が数人二列に並び、続いて同じように二列に並んだ後ろに残りの数人も二列に並ぶ。公園のブランコの後ろのフェンスが扉みたいに開いたことにびっくりし、人が通る事を想定していない場所・・・茂みがそこらにあって足場の悪い森の中に足を踏み入れた。
ハーヴェイがやや身を乗り出してセドリックの頬を無言で二、三回叩く。最初は軽く叩く程度だったが、三回目はほぼ平手打ちのレベルで、パァン!という聴いてても痛そうな音が響いたのでジェニファーが慌てて奴の右腕を握って制止した。
「失神て、そんな簡単に目がさめるものじゃないでしょ・・・!?」
「じゃあ殴った方が・・・。」
ジェニファーは「叩いたりなど物理的に何かしたところで意味がない」と言いたかったのだろうが、違う意味で伝わってしまったことに気付いて首を大きく横に振った。二人の間に語弊を生んだ瞬間だった。
「置いていくわけにはいかないね。僕の腕が直れば、背負っていけるんだけど・・・。」
小柄だけど俺たちと比較にならない力を秘めてるだろうマシューならセドリックを運ぶぐらい容易いと思う。しかし、腕が片方ないなら、それは難しい。
「あっ、でも担ぐことなら!」
「俺がおんぶするからいいよ。」
・・・片方があるなら、担ぐことはできる。でも、担ぐ本人が担がれる人と同じ体型だと、足を引きずったりと安定はしなさそうだ。そう判断したのかはしらないが、この中で力があり大柄なハーヴェイが名乗り出る。
「外に出ても大丈夫なの?ほんとに・・・。」
トンネルから覗いて左右を見渡すジェニファーにマシューは余裕と落ち着きを持って答える。
「うん!魔物はもういないだろうから、外へ出ても大丈夫さ。少しぐらいなら、僕が対処するよ。」
これほど頼もしい事はない。腕はないが、不便というだけでマシューにとってはたいして支障が出ることではなさそうだ。
みんなは、それでもどこか腑に落ちない様子でおずおずとトンネルから外へ出る。俺も同じく、この世界において身の休まる場所なんかあるのだろうかと心配とか不安が心に重りとなってのし掛かるみたいな。簡単には取り払えない。
人間ではなく人間の動きを遥かに超えた殺意を向けてくる生物に不意打ちされたら、無事じゃあすまない。俺たちは、腕がなくなって平然といられる体じゃないんだから。
いや、不安ばかりしていて動かないわけにはいかないんだ。今すぐに打開策は見つけられなくても、こうやって協力してくれる助っ人だっているんだ。何もない時こそ、冷静でいなければ・・・。
そういえば、これから俺たちはどこへ行けばいいんだろう。多少見慣れた街とはいえ、所々がおかしくなってしまった以上土地勘も当てにならない。皮肉にもこの世界に住み慣れている人の方が俺たちより詳しいのだ。
「よいしょ・・・。」
ハーヴェイはセドリックの腕を掴んで中から引きずり出した後、聖音に手伝ってもらいながらなんとか背負うことができた。
「これからみんなの活動拠点が必要になるね。拠点というか、できるだけ「誰にも」見つからない場所というか。」
マシューが顎に親指と人差し指を当てしばらく思案した後何やら案が浮かんだのか、笑顔でみんなの顔を一通り見渡す。
「いい場所がある!僕と師匠が修行する際よく行く場所なんだ。山の奥の奥だけどその前に大通りがあるし野良の魔物に対しては厳しいから、そうそう現れないよ。山奥だから人も滅多に来ないしね。」
ここでいう人も魔物と同じみたいなものだが、そのどちらも現れる可能性が無いのなら今の俺たちにとっては最も安心できる場所といえる。
「小屋もあるし、食べ物とかも・・・まあなんとかなるよ。そこで、これからの事とか一緒に考えよう。君たちが一刻も早く元の世界に戻れるよう、協力するから。」
不安にさせないよう、場違いな程の笑みでマシューは力になってくれると言ってくれた。
初めて異世界に来てから、心から信用できる存在に出会えた。
すぐには解決できない事かもしれない。でも、その間だけでもマシューのような、異世界に住む立場でありながらこちらを理解してくれる味方がいるだけですごく心強い。
ジェニファー、ハーヴェイ、聖音、オスカーはいつも通り不満そうだが、みんなの表情から緊張がわずかに和らいだように感じた。
「ついてきて・・・。」
マシューが背を向けた。すると、ヴォンという耳に残る重い音が聞こえた直後、何も無い空間が歪み、そこから先ほど魔物と戦っていた軍服の男性が降り立った。
「なんで・・・!?」
それらは次々と、四方に現れる。それぞれ、手には大きな銃器を持っている。
俺たちは俺たちで、背を内側に向けて円形に集まった。
「え、え?何!?」
うろたえるジェニファーのそばに寄り添う聖音。オスカーもバットを両手に構え、ハーヴェイはいつになく険しい顔で前方を睨んでいるがセドリックをまだ背負ったままだ。身体に伝わる警戒心は硬いコンクリの壁みたいに張り巡らされる。
「お前らは、駆除の対象外は勝手に攻撃も捕獲もできない!そういう風に出来ているはずだ!!」
マシューは庇うように一歩前に出る。 表情をコロコロ変えるあいつの今の顔は、それでも信じられないぐらいのひどい剣幕だった。
「・・・我々は。」
「喋った!!」
男性のうちの一人が口を開くと聖音とジェニファーが同時互いに体を寄せ合いながら目をまん丸にして驚いた。
「我々はアマリリア様の所有物。先程駆除に当たっていた個体とは関係無く、国、地方の命令とも一切関係の無い、アマリリア様の命令によるものである。」
「アマリリア・・・。」
初めて聞いた人物の名前を呟くマシューの表情は変わらない。アマリリアという人物が今の彼らを雇っているという事なのだろうか?そもそも、こいつらは一体なんなんだろう。所有物?マシューが言い放った「そういう風に出来ている」も気になる。
「アマリリアって、どんな人?知ってるの?」
ハーヴェイの問いかけに振り向く事なく答えた。
「・・・なんて言ったらいいかな。ここらで一、二を争う権力者・・・かな。彼女は人間を好意的に受け止めてはいる。危害を加えることはしないはずだけど・・・。」
しばらくの沈黙の後、苦虫を潰したみたいな顔のマシューが続けた。
「魔女は人でなしの極みだ。表の顔がどうであろうと信用できない。・・・クソ!見つかるのが早すぎた。まだ大ごとにしたくないのに!」
そう吐き捨てたのを狙って軍服を着た男性が一斉にマシューの方に銃口を向ける。
「待て!!」
俺は咄嗟に声をあげた。しかし視線も、銃口の先も微動だに動かない。
俺がこんなところで彼らに対して何ができる?
出来ることなどありやしないのに、「このまま黙ってる」事の方が俺には出来なかった。気持ちが、先に声となって外に出てしまった。
でも、意味はなかった。
「リュドミール・・・。」
やっと振り向いたあいつは、こっちを憂いていた。今から遠出に旅立つ子供を見送る前の心配性の親に似ている。でもすぐに強気な顔で前を向いた。
「みんなをどうするつもりなんだい?危害を加えないのなら、僕はここを去るよ。」
声は落ち着きを取り戻している。軍服の人物のうち一人がすぐに答えた。
「アマリリア様には、人間を見つけ次第保護するよう命令されている。よって危害を加える行為は禁じられている。ただし、抵抗した場合や逃走を図った場合は拘束もやむを得ないと言われている。」
「・・・・・・。」
マシューも、みんなも、一斉に黙り込む。だいたい何を考えているか、概ね見当がついている。いや、あくまで俺個人の想像に過ぎない。
「彼らにおとなしくついていった方が良いのではないか」。
アマリリアがまだ俺たちにとって得体の知れない人物なのには変わりないが、もしここで抵抗や逃亡したりすると拘束されるかもしれない。いくら危害を加えないと口では言っても、手には人の頭が軽く吹っ飛びそうな大きな銃を抱えているのだから信用できない。何があっても、圧倒的に敵わない実力差。これをわかりやすい言葉で例えるならこの状況はまさに「無理ゲー」てやつだ。
本当におとなしくしていたら、従うだけ従っている間はきっと大丈夫だろう。
・・・考えすぎかもしれないが、マシューの好意を裏切る形にもなるんだろう。
でも、彼らのいう通りにしていれば、マシューもまた無事でここから逃れられる。それの方が多分、あいつのためになると思うから。
「アマリリアって人は俺たちを保護したいって言ってるんだよな?」
みんなの視線が一気に俺の方に集まる。
「リュドミール、まさか・・・。」
「お前、本気なんだな?」
ハーヴェイとオスカーの半信半疑のこもった声に頷いてみせた。
「今の状況からして拒否の意思を見せるのは明らかに危険だ・・・と思う。この先どうなるかわからないけど、今をなんとかしないと・・・。」
はっきりと、こうしろとはとても言えなかった。先が見えないから、これで本当に良かったのかとまだ迷いが残っている。
「マシューには悪いけど、これが多分最善なんだ。」
振り向かない。でもその声は、今まで聞いた中で一番穏やかで落ち着いていた。
「うん。ありがとう。そうだね。・・・その方がいい。」
「お待ちください。」
せっかくの良い雰囲気に割り込んで軍服の人物が口を挟む。
「人間に関わった者として事情を聴取する必要あり。よってマシュー様にもアマリリア様の元へ連れていくよう言われております。」
後ろから見ても、マシューの肩の力がふっと抜けて落ちたのがわかった。
「・・・へっ?僕も行っていいの?」
気取った態度がやたら多かった彼のなんとも間の抜けた様子だった。
俺は胸をなでおろした。安堵で大きく息を吐く。
まさか、頼れる助っ人も一緒だなんて、これはツイている。ジェニファーは「やったー!」と聖音の手を握って飛び跳ねている。セドリックが起きていたら、同じように喜んでいたに違いない。聖音の表情もすっかり綻んでいる。ハーヴェイはいつものぼんやりした無表情だったが、いつも通りに戻っているのはすなわち平常心に戻ったということで、オスカーに至っては・・・バットを降ろしているあたり警戒心は解いたと見よう。
「良かった・・・。」
俺も、緊張からの脱力感は半端ないものだった。思わずそう呟いてマシューの肩に手を置いて頭を垂れる。
「マシューにはそばにいて欲しかったから、ホッとした・・・。あっ、てみんなも思ってると思うぞ!」
つい、無意識に本音をこぼしてしまったものの、なんだか急に気恥ずかしくなってぱっと手を退けたあとみんなのところに戻った。最後の方なんか、何を言ってるんだか。まあ、みんなを見てると確かに、俺と同じ事を考えて喜んでいるんだろうけど。
勿論、マシューがどんな反応をしたかは見ていない。
「では皆様は我々について行くことを了承したと見なし、早速我らが主、アマリリア様の元へ案内させていただきます。近道がありますので、そちらを通ります。」
軍服の人物が数人二列に並び、続いて同じように二列に並んだ後ろに残りの数人も二列に並ぶ。公園のブランコの後ろのフェンスが扉みたいに開いたことにびっくりし、人が通る事を想定していない場所・・・茂みがそこらにあって足場の悪い森の中に足を踏み入れた。
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