いつも私に偉そうに説教していた癖に、結局はただのクズだったのですね。~幼馴染みとの不貞が発覚した夫の末路~

水上

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第26話:公開処刑の始まり

 王都の中心にそびえ立つ、重厚な石造りの公会堂。
 その大ホールは、王立監査委員会の厳格な空気に包まれていた。

 高い天井から吊るされたシャンデリアの光の下、半円形に配置された審査員席には、ウォーカー筆頭監査官をはじめとする数名の専門家たちが、険しい表情で着席している。

 傍聴席には、ベルク商会の代表や、同業他社の重鎮、そして王都の有力貴族たちの姿があった。

 その無慈悲な視線が集中するホールの中央、証言台に立たされているのは、ノリス伯爵アランと、彼に付き従ってきたコゼットだった。

「……それでは、これよりノリス工房が申請したステラ・カットの技術特許に関する公開ヒアリングを開始する」

 ウォーカー監査官の冷徹な声が響き渡った。

 アランの顔色は、蝋人形のように蒼白だった。
 この三日間、彼は血眼になってアリアンヌの行方を探した。

 しかし、彼女がどこに身を寄せているのか、誰一人として知る者はいなかった。
 実家であるヴァレリー家に問い合わせても、「娘はすでにノリス家とは無関係です」と冷たくあしらわれるだけだった。

 完全に手詰まりとなったアランは、何の技術的知識も持たないまま、この公開処刑の場に引きずり出されたのだ。

「ノリス伯爵。当委員会に提出された資料によれば、貴殿はこの技術を工房のチームワークの結晶であると主張している。しかし、当委員会の独自の調査では、貴殿自身が開発プロセスに一切関与していないという疑義が生じている」

 ウォーカーは手元の資料を一枚めくり、鋭い視線をアランに突き刺した。

「ステラ・カットの光の屈折率を導き出した、初期の計算式について説明していただきたい。特に、ベースとなる原石の硬度と、研磨盤の摩擦係数の相関関係について、貴殿はどのようなアプローチを用いたのか」

「あ、アプローチ……?」

 アランは喉を鳴らし、しどろもどろになった。

 摩擦係数? 
 光の屈折率?

 そんなものは、アリアンヌが徹夜でブツブツと呟いていた呪文のようなもので、アランの頭には一文字も残っていなかった。

「ええと……、そ、それはですね。我々はまず、皆で集まって意見を出し合いまして……、あの、とにかく『絶対に新しいものを生み出すんだ!』という、強い情熱を持って原石と向き合ったわけでして……」

 アランは必死に笑顔を取り繕い、いつものように身振り手振りを交えて語り始めた。

「そう、情熱です! どんな困難な計算も、職人たちの熱意と、お互いを信じ合う心があれば、自然と答えは導き出されるものなのです! 今回の成功は、まさにその絆の勝利であり――」

「伯爵。私は精神論を求めているのではありません」

 ウォーカーの声は、氷点下のように冷ややかだった。

「計算式と、物理的な研磨プロセスの説明を求めているのです。情熱で摩擦係数が変わるというのなら、その魔法のような理論を数値で証明していただきたい」

 傍聴席から、クスクスという失笑が漏れた。
 アランの顔がカッと熱くなった。

 今まで彼の明るい雰囲気とチームワークという言葉に誤魔化されてきた貴族たちも、この冷酷な場では、彼の言葉がいかに中身のない薄っぺらなものかを見透かしていた。

「そ、それは……、職人たちが、現場で調整してくれたもので……。私自身は、全体の士気を高めることに注力しておりましたので、細かな数値までは……」

「当主でありながら、自社の根幹技術の数値を把握していないと? それでよく特許を主張できましたね」

 ウォーカーの追及に、アランはついに言葉に詰まった。
 額から脂汗が滲み出し、足がガクガクと震え始める。

 その時だった。

 アランの隣でずっと黙っていたコゼットが、突然証言台の前に進み出たのだった。

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