26 / 35
第26話:公開処刑の始まり
王都の中心にそびえ立つ、重厚な石造りの公会堂。
その大ホールは、王立監査委員会の厳格な空気に包まれていた。
高い天井から吊るされたシャンデリアの光の下、半円形に配置された審査員席には、ウォーカー筆頭監査官をはじめとする数名の専門家たちが、険しい表情で着席している。
傍聴席には、ベルク商会の代表や、同業他社の重鎮、そして王都の有力貴族たちの姿があった。
その無慈悲な視線が集中するホールの中央、証言台に立たされているのは、ノリス伯爵アランと、彼に付き従ってきたコゼットだった。
「……それでは、これよりノリス工房が申請したステラ・カットの技術特許に関する公開ヒアリングを開始する」
ウォーカー監査官の冷徹な声が響き渡った。
アランの顔色は、蝋人形のように蒼白だった。
この三日間、彼は血眼になってアリアンヌの行方を探した。
しかし、彼女がどこに身を寄せているのか、誰一人として知る者はいなかった。
実家であるヴァレリー家に問い合わせても、「娘はすでにノリス家とは無関係です」と冷たくあしらわれるだけだった。
完全に手詰まりとなったアランは、何の技術的知識も持たないまま、この公開処刑の場に引きずり出されたのだ。
「ノリス伯爵。当委員会に提出された資料によれば、貴殿はこの技術を工房のチームワークの結晶であると主張している。しかし、当委員会の独自の調査では、貴殿自身が開発プロセスに一切関与していないという疑義が生じている」
ウォーカーは手元の資料を一枚めくり、鋭い視線をアランに突き刺した。
「ステラ・カットの光の屈折率を導き出した、初期の計算式について説明していただきたい。特に、ベースとなる原石の硬度と、研磨盤の摩擦係数の相関関係について、貴殿はどのようなアプローチを用いたのか」
「あ、アプローチ……?」
アランは喉を鳴らし、しどろもどろになった。
摩擦係数?
光の屈折率?
そんなものは、アリアンヌが徹夜でブツブツと呟いていた呪文のようなもので、アランの頭には一文字も残っていなかった。
「ええと……、そ、それはですね。我々はまず、皆で集まって意見を出し合いまして……、あの、とにかく『絶対に新しいものを生み出すんだ!』という、強い情熱を持って原石と向き合ったわけでして……」
アランは必死に笑顔を取り繕い、いつものように身振り手振りを交えて語り始めた。
「そう、情熱です! どんな困難な計算も、職人たちの熱意と、お互いを信じ合う心があれば、自然と答えは導き出されるものなのです! 今回の成功は、まさにその絆の勝利であり――」
「伯爵。私は精神論を求めているのではありません」
ウォーカーの声は、氷点下のように冷ややかだった。
「計算式と、物理的な研磨プロセスの説明を求めているのです。情熱で摩擦係数が変わるというのなら、その魔法のような理論を数値で証明していただきたい」
傍聴席から、クスクスという失笑が漏れた。
アランの顔がカッと熱くなった。
今まで彼の明るい雰囲気とチームワークという言葉に誤魔化されてきた貴族たちも、この冷酷な場では、彼の言葉がいかに中身のない薄っぺらなものかを見透かしていた。
「そ、それは……、職人たちが、現場で調整してくれたもので……。私自身は、全体の士気を高めることに注力しておりましたので、細かな数値までは……」
「当主でありながら、自社の根幹技術の数値を把握していないと? それでよく特許を主張できましたね」
ウォーカーの追及に、アランはついに言葉に詰まった。
額から脂汗が滲み出し、足がガクガクと震え始める。
その時だった。
アランの隣でずっと黙っていたコゼットが、突然証言台の前に進み出たのだった。
その大ホールは、王立監査委員会の厳格な空気に包まれていた。
高い天井から吊るされたシャンデリアの光の下、半円形に配置された審査員席には、ウォーカー筆頭監査官をはじめとする数名の専門家たちが、険しい表情で着席している。
傍聴席には、ベルク商会の代表や、同業他社の重鎮、そして王都の有力貴族たちの姿があった。
その無慈悲な視線が集中するホールの中央、証言台に立たされているのは、ノリス伯爵アランと、彼に付き従ってきたコゼットだった。
「……それでは、これよりノリス工房が申請したステラ・カットの技術特許に関する公開ヒアリングを開始する」
ウォーカー監査官の冷徹な声が響き渡った。
アランの顔色は、蝋人形のように蒼白だった。
この三日間、彼は血眼になってアリアンヌの行方を探した。
しかし、彼女がどこに身を寄せているのか、誰一人として知る者はいなかった。
実家であるヴァレリー家に問い合わせても、「娘はすでにノリス家とは無関係です」と冷たくあしらわれるだけだった。
完全に手詰まりとなったアランは、何の技術的知識も持たないまま、この公開処刑の場に引きずり出されたのだ。
「ノリス伯爵。当委員会に提出された資料によれば、貴殿はこの技術を工房のチームワークの結晶であると主張している。しかし、当委員会の独自の調査では、貴殿自身が開発プロセスに一切関与していないという疑義が生じている」
ウォーカーは手元の資料を一枚めくり、鋭い視線をアランに突き刺した。
「ステラ・カットの光の屈折率を導き出した、初期の計算式について説明していただきたい。特に、ベースとなる原石の硬度と、研磨盤の摩擦係数の相関関係について、貴殿はどのようなアプローチを用いたのか」
「あ、アプローチ……?」
アランは喉を鳴らし、しどろもどろになった。
摩擦係数?
光の屈折率?
そんなものは、アリアンヌが徹夜でブツブツと呟いていた呪文のようなもので、アランの頭には一文字も残っていなかった。
「ええと……、そ、それはですね。我々はまず、皆で集まって意見を出し合いまして……、あの、とにかく『絶対に新しいものを生み出すんだ!』という、強い情熱を持って原石と向き合ったわけでして……」
アランは必死に笑顔を取り繕い、いつものように身振り手振りを交えて語り始めた。
「そう、情熱です! どんな困難な計算も、職人たちの熱意と、お互いを信じ合う心があれば、自然と答えは導き出されるものなのです! 今回の成功は、まさにその絆の勝利であり――」
「伯爵。私は精神論を求めているのではありません」
ウォーカーの声は、氷点下のように冷ややかだった。
「計算式と、物理的な研磨プロセスの説明を求めているのです。情熱で摩擦係数が変わるというのなら、その魔法のような理論を数値で証明していただきたい」
傍聴席から、クスクスという失笑が漏れた。
アランの顔がカッと熱くなった。
今まで彼の明るい雰囲気とチームワークという言葉に誤魔化されてきた貴族たちも、この冷酷な場では、彼の言葉がいかに中身のない薄っぺらなものかを見透かしていた。
「そ、それは……、職人たちが、現場で調整してくれたもので……。私自身は、全体の士気を高めることに注力しておりましたので、細かな数値までは……」
「当主でありながら、自社の根幹技術の数値を把握していないと? それでよく特許を主張できましたね」
ウォーカーの追及に、アランはついに言葉に詰まった。
額から脂汗が滲み出し、足がガクガクと震え始める。
その時だった。
アランの隣でずっと黙っていたコゼットが、突然証言台の前に進み出たのだった。
あなたにおすすめの小説
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます
コトミ
恋愛
セラフィナは、実の親と、妹によって、家から追い出されることとなった。セラフィナがまだ幼い頃、両親は病弱なカタリナのため設備環境が良い王都に移り住んだ。姉のセラフィナは元々両親とともに住んでいた田舎に使用人のマーサの二人きりで暮らすこととなった。お金のない子爵家な上にカタリナのためお金を稼がなくてはならないため、子供二人を王都で暮らすには無理があるとセラフィナだけ残されたのだ。そしてセラフィナが19歳の時、3人が家へ戻ってきた。その理由はカタリナの婚約が上手くいかず王宮にいずらくなったためだ。やっと家族で暮らせると心待ちにしていたセラフィナは帰宅した父に思いがけないことを告げられる。
「お前はジェラール・モンフォール伯爵と結婚することになった。すぐに荷物をまとめるんだ。一週間後には結婚式だ」
困惑するセラフィナに対して、冷酷にも時間は進み続け、結婚生活が始まる。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。