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第32話:王の嘆きと差し押さえられた城
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大広間が怒号と罵声に包まれる中、重々しいファンファーレ――ただし、音程は外れ、どこか間の抜けたもの――が鳴り響きました。
「……国王陛下、お成り!」
近衛兵の声と共に、壇上の奥から現れたのは、このグランデ王国の現国王、ステファン王でした。
かつては威厳ある統治者でしたが、今の彼にその面影はありません。
宝石代と借金に頭を悩ませ、心労で急激に老け込んだその姿は、まるで枯れ木のようでした。
*
(※ヘリオス視点)
「ち……、父上! 父上ぇぇ!」
僕は近衛兵の手を振りほどき、父上の足元にすがりついた。
「助けてください! こ、こいつらが、クーデターを! 僕を陥れて、国を乗っ取ろうとしているんです!」
「クーデターだと?」
父上は濁った瞳で、会場を見回した。
そこには、怒りに燃える貴族たちと、冷ややかな目をしたエリーゼ、そしてかつて追放したはずの弟、ルーカスが立っていた。
「……ルーカスか。それに、ノイマン家の娘」
「お久しぶりです、兄上」
ルーカス叔父上が、一歩前に出た。
その態度は不敬なほど堂々としている。
「残念ながら、これはクーデターではありません。債権回収の執行です」
「債権……、回収?」
「はい。貴方の息子と、その婚約者が行った横領、詐欺、そして国家破産。これらに対する精算を行っているのです」
ルーカス叔父上は、僕とリリィが書いた告発文と、空になった金庫の証明書を父上に手渡した。
父上は震える手でそれを読み……、やがて、その顔が土気色に変わった。
「ば、馬鹿な……。国民の金を……、横領したというのか? 王族が、泥棒を?」
「ち、違います父上! それは、借りただけです! すぐに返すつもりだったんです!」
「黙りなさい!」
父上の怒号が響いた。
初めて見る父上の怒りに、僕は縮み上がった。
「情けない……。王家の誇りを、ここまで汚すとは……」
父上はよろめき、玉座に座り込んだ。
「……だが、それでもだ。ヘリオスは王太子だ。裁くのは王である余の役目。お前たちに逮捕する権限はない。直ちに解放せよ」
父上は最後の力を振り絞り、王としての威厳を保とうとした。
そうだ、父上がいれば助かる!
僕は王族なんだ、平民の法律なんて関係ない!
しかし……、その希望を打ち砕いたのは、やはりあの女だった……。
*
「……異議あり」
私は静かに、しかし会場の隅々まで届く声で遮りました。
「ノイマン侯爵令嬢、控えよ。国王の決定であるぞ」
「いいえ、陛下。残念ながら、陛下にその決定権はございません」
私は手帳を開き、一枚の権利書を提示しました。
「ご存じないのですか? この王城、および王都の全域は、先日ヘリオス殿下が署名された土地売買契約により、現在は私――正確には私の管理する商会の所有物となっております」
「な、なんだと?」
国王陛下が目を白黒させます。
「さらに、家賃の未払いが続いておりますので、契約条項に基づき、この建物は現在、仮差し押さえの状態にあります。つまり、ここは王家の城ではなく、私の貸家に過ぎません」
私はニッコリと微笑みました。
「私の家で、泥棒が暴れているのです。警察に突き出すのは、家主として当然の権利ではありませんか?」
「き、貴様! たかが紙切れ一枚で、王権を否定する気か!」
ヘリオス殿下が逆上し、腰の剣に手をかけました。
「近衛兵! 何をしている! この無礼な女を斬れ! これは王命だ!」
殿下の絶叫が響きます。
しかし……、近衛兵たちは、誰一人として動きませんでした。
彼らは抜剣することなく、ただ困惑したように互いに顔を見合わせ、そして――チラリと、ルーカス閣下の方を見ました。
「……無駄だよ、ヘリオス」
ルーカス閣下が、憐れむように言いました。
「彼ら近衛兵への給与は、半年も前から未払いだ。君たちの贅沢のせいでね」
「なっ……」
「だが、昨日の夜、僕が全額肩代わりして支払っておいた。……さらに、来月分も前払いでね」
その言葉の意味を、殿下が理解した瞬間でした。
近衛兵団長が、静かに殿下の前に立ち塞がりました。
彼が向いているのは、敵としてではなく、捕縛対象としてです。
「……申し訳ございません、殿下」
団長が低く言いました。
「俺たちにも家族がいます。パンを買える金をくれる主に仕える。それが騎士ではなく、一人の人間としての判断です」
「う、裏切り者ォォッ!!」
ヘリオス殿下の絶叫と共に、近衛兵たちが一斉に彼を取り押さえました。
リリィ様も「嫌ぁ! 放して!」と泣き叫びますが、容赦なく手錠をかけられます。
権威よりも、血筋よりも、お金。
経済的な信用のない王など、裸の王様以下です。
「お、終わりじゃ……。グランデ王国は、終わりじゃ……」
目の前で息子が捕らえられる光景を見て、国王陛下はガクリと項垂れ、そのまま意識を失って玉座から崩れ落ちました。
「陛下!」
「医者だ! 医者を呼べ!」
騒然とする大広間。
その中心で、ルーカス閣下がスッと手を挙げると、不思議と静寂が戻りました。
彼は倒れた王を一瞥し、そして会場の貴族たち、諸外国の大使たちに向けて宣言しました。
「国王は倒れ、王太子は罪に問われた。王家の統治機能は、今この瞬間をもって停止した」
閣下の冷徹な声が響きます。
「よって、私が緊急事態宣言を発令する。これより、この国は暫定統治機構による管理下に入る。私がその代表となり、経済の再建と、正義の執行を行うことをここに誓う」
一瞬の沈黙の後。
誰からともなく、拍手が起こりました。
最初はパラパラと、やがて雷のような喝采へ。
それは、腐敗した王政の終わりと、合理的な新時代の幕開けを歓迎する音でした。
私はルーカス閣下の半歩後ろで、静かに頭を下げました。
復讐は成りました。
しかし、本当の仕事――マイナスになった国をゼロに戻し、プラスへと導く経営は、ここからが本番です。
「……国王陛下、お成り!」
近衛兵の声と共に、壇上の奥から現れたのは、このグランデ王国の現国王、ステファン王でした。
かつては威厳ある統治者でしたが、今の彼にその面影はありません。
宝石代と借金に頭を悩ませ、心労で急激に老け込んだその姿は、まるで枯れ木のようでした。
*
(※ヘリオス視点)
「ち……、父上! 父上ぇぇ!」
僕は近衛兵の手を振りほどき、父上の足元にすがりついた。
「助けてください! こ、こいつらが、クーデターを! 僕を陥れて、国を乗っ取ろうとしているんです!」
「クーデターだと?」
父上は濁った瞳で、会場を見回した。
そこには、怒りに燃える貴族たちと、冷ややかな目をしたエリーゼ、そしてかつて追放したはずの弟、ルーカスが立っていた。
「……ルーカスか。それに、ノイマン家の娘」
「お久しぶりです、兄上」
ルーカス叔父上が、一歩前に出た。
その態度は不敬なほど堂々としている。
「残念ながら、これはクーデターではありません。債権回収の執行です」
「債権……、回収?」
「はい。貴方の息子と、その婚約者が行った横領、詐欺、そして国家破産。これらに対する精算を行っているのです」
ルーカス叔父上は、僕とリリィが書いた告発文と、空になった金庫の証明書を父上に手渡した。
父上は震える手でそれを読み……、やがて、その顔が土気色に変わった。
「ば、馬鹿な……。国民の金を……、横領したというのか? 王族が、泥棒を?」
「ち、違います父上! それは、借りただけです! すぐに返すつもりだったんです!」
「黙りなさい!」
父上の怒号が響いた。
初めて見る父上の怒りに、僕は縮み上がった。
「情けない……。王家の誇りを、ここまで汚すとは……」
父上はよろめき、玉座に座り込んだ。
「……だが、それでもだ。ヘリオスは王太子だ。裁くのは王である余の役目。お前たちに逮捕する権限はない。直ちに解放せよ」
父上は最後の力を振り絞り、王としての威厳を保とうとした。
そうだ、父上がいれば助かる!
僕は王族なんだ、平民の法律なんて関係ない!
しかし……、その希望を打ち砕いたのは、やはりあの女だった……。
*
「……異議あり」
私は静かに、しかし会場の隅々まで届く声で遮りました。
「ノイマン侯爵令嬢、控えよ。国王の決定であるぞ」
「いいえ、陛下。残念ながら、陛下にその決定権はございません」
私は手帳を開き、一枚の権利書を提示しました。
「ご存じないのですか? この王城、および王都の全域は、先日ヘリオス殿下が署名された土地売買契約により、現在は私――正確には私の管理する商会の所有物となっております」
「な、なんだと?」
国王陛下が目を白黒させます。
「さらに、家賃の未払いが続いておりますので、契約条項に基づき、この建物は現在、仮差し押さえの状態にあります。つまり、ここは王家の城ではなく、私の貸家に過ぎません」
私はニッコリと微笑みました。
「私の家で、泥棒が暴れているのです。警察に突き出すのは、家主として当然の権利ではありませんか?」
「き、貴様! たかが紙切れ一枚で、王権を否定する気か!」
ヘリオス殿下が逆上し、腰の剣に手をかけました。
「近衛兵! 何をしている! この無礼な女を斬れ! これは王命だ!」
殿下の絶叫が響きます。
しかし……、近衛兵たちは、誰一人として動きませんでした。
彼らは抜剣することなく、ただ困惑したように互いに顔を見合わせ、そして――チラリと、ルーカス閣下の方を見ました。
「……無駄だよ、ヘリオス」
ルーカス閣下が、憐れむように言いました。
「彼ら近衛兵への給与は、半年も前から未払いだ。君たちの贅沢のせいでね」
「なっ……」
「だが、昨日の夜、僕が全額肩代わりして支払っておいた。……さらに、来月分も前払いでね」
その言葉の意味を、殿下が理解した瞬間でした。
近衛兵団長が、静かに殿下の前に立ち塞がりました。
彼が向いているのは、敵としてではなく、捕縛対象としてです。
「……申し訳ございません、殿下」
団長が低く言いました。
「俺たちにも家族がいます。パンを買える金をくれる主に仕える。それが騎士ではなく、一人の人間としての判断です」
「う、裏切り者ォォッ!!」
ヘリオス殿下の絶叫と共に、近衛兵たちが一斉に彼を取り押さえました。
リリィ様も「嫌ぁ! 放して!」と泣き叫びますが、容赦なく手錠をかけられます。
権威よりも、血筋よりも、お金。
経済的な信用のない王など、裸の王様以下です。
「お、終わりじゃ……。グランデ王国は、終わりじゃ……」
目の前で息子が捕らえられる光景を見て、国王陛下はガクリと項垂れ、そのまま意識を失って玉座から崩れ落ちました。
「陛下!」
「医者だ! 医者を呼べ!」
騒然とする大広間。
その中心で、ルーカス閣下がスッと手を挙げると、不思議と静寂が戻りました。
彼は倒れた王を一瞥し、そして会場の貴族たち、諸外国の大使たちに向けて宣言しました。
「国王は倒れ、王太子は罪に問われた。王家の統治機能は、今この瞬間をもって停止した」
閣下の冷徹な声が響きます。
「よって、私が緊急事態宣言を発令する。これより、この国は暫定統治機構による管理下に入る。私がその代表となり、経済の再建と、正義の執行を行うことをここに誓う」
一瞬の沈黙の後。
誰からともなく、拍手が起こりました。
最初はパラパラと、やがて雷のような喝采へ。
それは、腐敗した王政の終わりと、合理的な新時代の幕開けを歓迎する音でした。
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