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第13話:シネレシス――絶頂から泥濘への墜落と、自壊する虚栄
ロデリックは、大広間の壇上で、満ち足りた心地で周囲を見渡していた。
サヴォイ大使へのお披露目の儀を控え、貴族たちの羨望の視線が、彼と隣のアストリッドに集まっている。
(これで、ヴァルモント家の権威は守られる。ガリアン家を切り捨てた私の判断が正しかったと、親族どもに証明できるのだ)
そう確信した瞬間、人波を割って外交卿ユリアス・トレヴェリアン侯爵が歩み寄ってきた。
ユリアスは、ロデリックの前に立ち、低い声で告げた。
「儀礼長、サヴォイ大使の安全を確保するため、その細工を直ちに舞台から後退させよ」
ロデリックは、一瞬、耳を疑った。
「……何を言われるのですか、外交卿。これは、私を支えるためにアストリッドが身を削って作り上げた、我が家の名誉の証です。不当な理由で儀式を妨害されることは、容認できません」
アストリッドも、ロデリックの袖を強く握りしめ、縋り付くようにして涙を浮かべた。
「トレヴェリアン侯爵閣下……私のような家柄の低い者が作ったからと、そのように虐められるのですか? 私はただ、ロデリック様のお役に立ちたかっただけですのに……」
周囲の貴族たちがざわめき始める。
だが、ユリアスは眉一つ動かさず、舞台の下に控える外務院の憲兵たちに前進を命じた。
焦ったロデリックは、アストリッドを庇うように一歩前に出て、声を張り上げた。
「特別免責令により、この展示物の管理権はすべて私にある! 誰も触れさせない!」
ロデリックが強引に細工の覆いを取り払おうとした、その瞬間だった。
大樹を模したショコラ細工の幹のあたりから、僅かな亀裂の音が響いた。
急冷によって不完全に結合していたテオの細工は、会場の熱気に晒され、内部でシネレシスを起こしていた。
結合が緩んで収縮したカカオバターの格子から、液化した脂肪分が分離し、内側から泥のように染み出している。
外側を覆う薄い糖衣だけでは、数十キログラムに達する自重のバランスを支えきれなくなっていた。
次の瞬間、大樹の幹がぐにゃりと歪み、双翼が不自然に傾いた。
「あ……」
アストリッドのか細い悲鳴が響く間もなく、巨大なショコラ細工は内側から完全に自壊し、泥のような黒い塊となって壇上に崩落した。
飛び散ったショコラの泥が、ロデリックの真っ白な礼服と、アストリッドの桃色のドレスを無残に汚していく。
大広間を包んだのは、絶句と、それに続く割れんばかりの騒然だった。
ロデリックは、足元に広がる黒い泥を見つめ、全身の血の気が引いていくのを感じた。
サヴォイ大使へのお披露目の儀を控え、貴族たちの羨望の視線が、彼と隣のアストリッドに集まっている。
(これで、ヴァルモント家の権威は守られる。ガリアン家を切り捨てた私の判断が正しかったと、親族どもに証明できるのだ)
そう確信した瞬間、人波を割って外交卿ユリアス・トレヴェリアン侯爵が歩み寄ってきた。
ユリアスは、ロデリックの前に立ち、低い声で告げた。
「儀礼長、サヴォイ大使の安全を確保するため、その細工を直ちに舞台から後退させよ」
ロデリックは、一瞬、耳を疑った。
「……何を言われるのですか、外交卿。これは、私を支えるためにアストリッドが身を削って作り上げた、我が家の名誉の証です。不当な理由で儀式を妨害されることは、容認できません」
アストリッドも、ロデリックの袖を強く握りしめ、縋り付くようにして涙を浮かべた。
「トレヴェリアン侯爵閣下……私のような家柄の低い者が作ったからと、そのように虐められるのですか? 私はただ、ロデリック様のお役に立ちたかっただけですのに……」
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だが、ユリアスは眉一つ動かさず、舞台の下に控える外務院の憲兵たちに前進を命じた。
焦ったロデリックは、アストリッドを庇うように一歩前に出て、声を張り上げた。
「特別免責令により、この展示物の管理権はすべて私にある! 誰も触れさせない!」
ロデリックが強引に細工の覆いを取り払おうとした、その瞬間だった。
大樹を模したショコラ細工の幹のあたりから、僅かな亀裂の音が響いた。
急冷によって不完全に結合していたテオの細工は、会場の熱気に晒され、内部でシネレシスを起こしていた。
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外側を覆う薄い糖衣だけでは、数十キログラムに達する自重のバランスを支えきれなくなっていた。
次の瞬間、大樹の幹がぐにゃりと歪み、双翼が不自然に傾いた。
「あ……」
アストリッドのか細い悲鳴が響く間もなく、巨大なショコラ細工は内側から完全に自壊し、泥のような黒い塊となって壇上に崩落した。
飛び散ったショコラの泥が、ロデリックの真っ白な礼服と、アストリッドの桃色のドレスを無残に汚していく。
大広間を包んだのは、絶句と、それに続く割れんばかりの騒然だった。
ロデリックは、足元に広がる黒い泥を見つめ、全身の血の気が引いていくのを感じた。
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