「君は強いから一人でも平気だろう?」と妹を優先する夫。~陶器の心を持つ私の完璧な微笑みに、夫が凍りつくまで~

水上

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第10話:叫び出したい心と完璧な微笑み

「実は妻が色出しに行き詰まっていた時、ソフィアが何気なくアドバイスをしたんだ。彼女の感性は天性のものだからね。技術のアデライドと、感性のソフィア。二人が力を合わせたからこそ、この傑作が生まれたんだ」

 アデライドは我が耳を疑った。

(エリアス? あなたは何を言っているの?)

 アデライドの体が震える。

(あなたがいつ、私が研究している姿を見たというの? あなたは私が書斎で専門書と格闘している時、ソフィアの愚痴を聞くために実家に入り浸っていたでしょう?)

 アデライドが鋭い視線を向けると、エリアスは彼女にだけ分かるように、すっと目配せをした。

 その目は雄弁に語っていた。

 『ソフィアに花を持たせてやれ』と。

 『彼女は傷ついているんだ。このくらいの手柄、姉なら譲ってやれるだろう?』と。

 父のクライスト伯爵も、満足げに頷いている。
 彼にとって、どちらの娘が作ったかなどどうでもいいのだ。

 クライスト家の娘たちは優秀だ、という評判さえ立てば。

「さあ、ソフィア。君もこちらへ来て、皆さんに挨拶をしなさい」

 父に促され、ソフィアは頬を染めて前に出た。
 アデライドの横に並び、まるで自分が主役であるかのようにカーテシーをしてみせる。

「ありがとうございます。姉の技術があってこそですが、私のイメージ通りに仕上がって本当に嬉しいですわ」

 会場から拍手が起こった。
 「素晴らしい姉妹愛だ」「美しい共同作業だ」という称賛の声。

 アデライドは、その中心で一人、取り残されていた。

 自分が削った睡眠時間も、荒れた指先も、積み重ねた実験データも、すべて妹の感性という煌びやかな嘘の下に塗り込められていく。

 怒りで視界が赤く染まりそうになった。

 叫び出したかった。

 嘘をつくなと。 
 人の努力を奪うなと。

 エリアスの袖を掴み、「なぜ私を守ってくれないの」と問いただしたかった。

 けれど、アデライドはふと、自身の心の奥底にある冷たい場所に触れた。
 そこは、先日の結婚記念日の夜に生まれた、絶対零度の空洞だ。

(ああ、そうか。この人たちは、私の努力なんてどうでもいいのだ。私がどれだけ苦労しても、それは家族のためという名目で搾取され、都合よく分配される共有財産でしかないのね)

 エリアスにとってアデライドは、文句一つ言わずに妹を立てる便利な妻であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 期待するから腹が立つのだ。
 理解してくれると信じるから、絶望するのだ。

 なら、捨ててしまえばいい。
 この場での名誉も、夫への信頼も、家族への情も、すべて。

 アデライドは、ゆっくりと息を吐き出した。
 そして、顔を上げた。

 そこには、陶磁器のように硬質で、隙のない完璧な微笑みが張り付いていた。

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