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 王子と対面した私は、思わず笑いそうになっていた。
 
 目の前で腰を抜かして、まるで幽霊を見ているかのような表情をしている王子が、あまりにも滑稽だったからだ。

「ララーナ、どうして生きているんだ……」

 王子がか細い声でそう言った。

「単純なことですよ。なぜ私が生きているのかというと、それは、刑が執行されなかったからです」

「執行されなかった? ありえない! 証拠も充分だっただろう! 刑の執行も決定していたのに、どうしてだ!?」

 王子は唾を飛ばしながら、わめき散らしていた。

「それも、単純なことですよ。あなたの言うその証拠が、偽装されたものであると判断されたからです」

「な、なんだと……。どうしてばれて……、あ、いや、これは何かの間違いだ! 陛下、これはララーナがおれを嵌めようとしているのです!」

 王子は泣き叫ぶように言った。

「言い訳も、誤魔化しも、私には通用しないぞ。ララーナの進言があったので、確認のためにお前のことは、私が直属の部下に頼んで調べた。すると、お前が証拠を偽装していたのは、間違いではないとわかった。お前が買収した兵も、私が直接質問したら、すべて吐いたぞ。だから私は、彼女のことを信用した」

「そんな……、まさか、こんなことになるなんて……」

 陛下の言葉を聞いた王子は、体を震わせていた。

「島流しの刑は、お前にこそふさわしい罰だ!」

「そんな……、このおれが、島流しにされるだと……。へ、陛下、どうか考え直してはいただけないでしょうか?」

 王子の顔は、涙や鼻水でグシャグシャになっていた。

「これは決定事項だ。覆ることはない」

 そして、陛下は同情などしなかった。

「くそ……こんなことになるなんて……。だが、こうはいかないぞ……」
 
 兵に拘束された王子は、そんな言葉を言い残し、連行されていった。

 さて……、ここからが、いよいよ本番ね……。

     *

 (※王子視点)

 まさか、ララーナが偽証の証拠を掴んでいたとは……。

 悔しいが、観察眼と頭の良さは認めてやる。 
 だがおれには、魔法がある。
 最強の魔法、タイムリープが……。

 この国には、少数だが魔法が使えるものが存在する。
 その数少ないうちの一人が、このおれだ。
 そして、ララーナは魔法が使えない。
 彼女とおれとでは、持って生まれた才能が違う。

 この最強の魔法でやり直して、次はうまくやってやる。

 次に刑に処されるのは、おれではなく、ララーナ、お前だ。
 おれは移送のために乗っている馬車の中で、彼女への復讐を誓った。

 しかし、いくら最強の魔法といっても、それには発動条件があった。
 それは、おれ自身が死ぬことだ。
 つまり、おれが刑に処されることに変わりはない。

 死への恐怖はあるが、ララーナに復讐するためだと思えば乗りきれる。
 体の震えを抑えるために、おれは拳を握りしめた。
 
 その時、突然馬車が大きく揺れた。

「大変だ! この馬車が襲撃されている!」

 外にいる兵の叫び声に、おれは驚いていた。
 襲撃だと?
 いったい、何者だ?

 しばらくは叫び声が聞こえていたが、やがて辺りは静かになった。
 そして、一人の人物が馬車に乗り込んできた。

「ど、どうして……」

 おれは驚きのあまり、それ以上言葉が続かなかった。

 刑の執行のために移送中の馬車を襲撃してきた人物、それは……。
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