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 (※王子視点)

「私がコピーの魔法を使っている? 残念ですが王子、ハズレです」

 ララーナはそう言いながら、鞭を勢いよく振り下ろした。

「あぁあああぁああ!!!」

 直撃した鞭によって、おれの体には激痛が走った。

 痛い!
 体が熱を帯びて、熱さも尋常ではない。
 こんな地獄のような苦しみが、まだまだ続くのか……。

「や、やめてくれ……。ララーナ、どうしてこんなひどいことができるんだ! おれが苦しむ姿を見て、なんとも思わないのか!?」

 おれは必死に叫んだ。

「酷いことを最初にしたのは、あなたですよ。私はただ、その仕返しをしているだけです。苦しむ姿を見て、なんとも思わないのか、ですって? 私だって人間なんですから、なにも思わないわけないじゃないですか……。心から楽しいと思っていますよ! そうでなければ、こんなこと、するわけないじゃないですか!」

 ララーナは狂気染みた表情でそう言った。

 ……狂っている。
 彼女は、完全に復讐の鬼と化している。
 もとはといえばおれのせいとはいえ、彼女のことを化け物のように感じた。

「どうしました、王子。もうギブアップですか? 私の魔法の詳細を、当ててみてくださいよ」

 ララーナは心底楽しそうに言った。

 彼女は完全に今の状況を楽しんでいる。
 それに付き合わなければ、さらに状況は悪くなるに違いない。
 おれは必死に考えた。
 しかし、なにも思い浮かばない。

 心を読むわけでもなく、おれのタイムリープをコピーしたわけでもない。
 それなのに、彼女は前回の記憶を引き継いでいるこのおれの行動を、あらかじめ知っていたかのように立ち回った。

 いったい、どんな魔法を使えば、そんな芸当ができるんだ……。
 どれだけ考えても、なにも思い浮かばない。
 そして、ふとララーナの顔を見ると、彼女はつまらなそうな表情をしていた。

「拍子抜けですね……。少しは頭が回っているのかと思いましたが、この程度が限界ですか。……仕方がありませんね。では、答えを発表します」

「……え?」

 まさか、このタイミングで答えを聞かされるとは思わなかった。

「答えを聞けば、あなたは間違いなく、絶望することになるでしょう。その表情を見るのが、楽しみです」

 ララーナは歪んだ笑みを浮かべている。
 しかし、これはチャンスだ。
 ここで彼女の魔法の詳細を聞けば、次の周回で対策もできる。
 そうすれば、今度こそ彼女に、地獄のような苦しみを与えることができる。

 おれは息を呑んだ。
 そして、彼女の言葉を待った。

「私の魔法、それは……、です」

 ララーナは、静かにそう言った。

「……は?」

 おれはそれ以上、言葉が続かなかった。
 
 ……タイムリープ?
 タイムリープだと!?
 ありえない!!

 同じ時代に、同じ系統の魔法は一つしか存在しない。
 これは、絶対のことだ。
 今までの長い歴史の中でも、例外は一つもなかった。

 それなのに、タイムリープだと!?
 どう考えても、ありえない。
 おれがタイムリープの魔法をもっている以上、ララーナがタイムリープの魔法を使えるなんてありえない!

「どういうことだ!? タイムリープだと!? 嘘はよせ! 同じ時代に同じ系統の魔法は一つしか存在しないのは、魔法使いにとっては常識だ! お前も知っているだろう! 見え透いた嘘で、おれをからかっているつもりか!?」

 気づけばおれは感情を爆発させ、叫んでいた。
 バカにされているとしか思えなかった。
 人をこけにして、そんなに楽しいのか!?
 バカにするのも大概にしてほしい。

 せっかく有益な情報が聞けると思っていただけに、落胆も大きかった。
 とんでもない悪ふざけだ。
 身体的にも精神的にもダメージを与えて、それを楽しんでいるということか。 
 とんでもない狂人だ。

 おれの浅はかな行動で、まさかこんなことになるなんて……。

「うーん、嘘だと言われましても……、困りましたね。私はただ、本当のことを言っただけなのに……」

 ララーナは、本当に困ったような表情をしていた。
 そして、続ける。

「私がタイムリープの魔法を使えるなら、今までのことにも説明がつくでしょう? あなたの行動をあらかじめ知っていたように立ち回ったり、兵たちが攻撃してくる場所をあらかじめ知っていたかのように、簡単に避けたり……」

「確かに、そうだ……。だが、お前がタイムリープの魔法を使えるなんて、ありえないんだ!」

 確かに彼女がタイムリープを使えるなら、今までの状況にも納得がいく。
 しかし、その肝心のタイムリープを、彼女は使えるはずがないのだ。
 
「ここまで言ってもわからないなんて、つまらないですね……」

 ララーナはそう言いながら、持っていた鞭を構えた。
 おれはそれを見て、焦った。

「お、お前も魔法使いなら、知っているだろう!?」

 とにかく、会話だ。
 会話をしていれば、彼女が鞭で攻撃してくることはない。

「同じ時代に、同じ系統の魔法は一つしか存在しない! この前提条件は絶対だ! それとも、お前は初めての例外で、二人目のタイムリープの魔法使いだとでもいうのか!?」

 おれは必死に叫びながら言った。

「前提条件ですか……。私の言葉のニュアンスでは、それは前提条件ではなく境界条件なのですが、まあそんなことはどうでもいいでしょう。……私は、二人目のタイムリープの魔法使いではありません。ですが、タイムリープが使えるのは本当のことです」

 ……意味がわからない。
 彼女の言っていることは、完全に矛盾している。
 狂人となった彼女からは、以前のような思考力は失われたのか?

「私がタイムリープを使えることに、あなたが納得する説明をしてあげましょう。とっても分かりやすく説明してあげるので、よく聞いてくださいね。そして、こんどこそ、絶望する顔を私に見せてください」

 ララーナは歪んだ笑みを浮かべながら言った。
 おれは絶望なんて、する気はない。
 どんな話の内容だろうと、次の周回のための有益な情報には違いないのだから。

「私がタイムリープを使えた理由は……」

 彼女は説明を始めた。

 そしておれは、を知ることになってしまうのだった……。
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