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第17話:招待状は決闘の合図
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王室法務局の役人を、契約書という鈍器で殴り返してから数日後。
今度は、金箔で縁取られた豪奢な封筒が、アークライト領主館に届けられました。
「……建国記念祝賀パーティーへの招待状、ですか」
執務机の上で、私はその封筒を開封し、中身を一瞥して鼻で笑いました。
差出人は国王陛下のお名前になっていますが、筆跡と香水の匂いからして、実質的な主催者がジェラルド殿下(とミア様)であることは明白です。
「欠席でいいだろう? どうせ、お嬢様を呼びつけて嘲笑い者にしようという魂胆だろうからな」
レイモンド様が、不快そうに顔をしかめました。
彼の分析通りでしょう。
王太子側からすれば私は、辺境の田舎に引っ込み、泥にまみれて工事現場を指揮している落ちぶれた令嬢という認識のはず。
華やかな夜会に、流行遅れのドレスと荒れた肌で現れる私を見て、溜飲を下げたいのでしょうね。
「いいえ、出席しますわ。それも、主役として」
私は招待状を丁寧に畳み、瞳を輝かせました。
「考えてもみてください。王国の有力貴族、各国の外交官、そして富豪たちが一堂に会する場所ですのよ? これほど効率的なプロモーションの場はありませんわ」
私の言葉に、同席していたルーカス殿下がニヤリと笑いました。
「なるほど。向こうが用意した舞台を、そのまま俺たちのランウェイとして使おうって腹か。悪辣だな」
「資源の有効活用ですわ。それに……」
私は立ち上がり、壁際に飾られたマネキンの方へと歩み寄りました。
そこには、まだ世に出していない、最高機密の衣装がかけられています。
「王都の貴族たちはまだ、アークライト・シルクの本当の価値を知りません。言葉で説明するより、見せた方が早いですもの」
アークライト・シルク。
それは、我が領地で独自改良した蚕と、特殊な魔導紡績機によって生み出された、極薄かつ強靭な新素材です。
光の当たり方によって色が変化する偏光染色と、汗を瞬時に蒸発させる吸湿速乾性。
見た目の美しさと機能性を両立させた、繊維革命の結晶。
「ミア様はきっと、最新流行のフリルとレースで着飾っていらっしゃるでしょうね。重たくて、暑くて、動きにくいドレスで」
想像するだけで滑稽です。
真夏の夜会会場は、人の熱気で蒸し風呂状態になります。
そんな中で、何層にも重ねた厚手のドレスを着ていれば、化粧は崩れ、汗染みができるのは避けられません。
一方で、私は。
「涼しい顔で、誰よりも美しく輝いてみせますわ。……セバスチャン、準備を。最高のスタイリストチームを招集して」
「御意。すでに待機させております」
優秀な執事が恭しく一礼しました。
*
(※ジェラルド視点)
王都、王太子宮殿。
「ねえジェラルド様ぁ、本当にあの方、いらっしゃるのかしら?」
ミアが、特注のピンク色のドレスを鏡の前で合わせながら尋ねてきた。
私は、自身の新しい礼服に満足げに頷きながら答えた。
「来るさ。王家の招待を断れば不敬罪だからな。それに、金に困っているはずだ。頭を下げて援助を乞いに来るに違いない」
「うふふ、楽しみ! 私、田舎で日焼けしてシミだらけになったエリーゼ様を見るの、ちょっと可哀想だけど……、でも、私が一番かわいいって証明しなきゃ!」
「当然だ、マイ・エンジェル。君の美しさは国宝級だ。薄汚れたエリーゼなど、君の引き立て役にすぎない」
私たち二人は笑い合った。
しかし、このときの私たちは知らなかった。
今、王都に向かっている馬車の中に、私たちの美意識を根底から覆す破壊兵器が積まれているということを……。
夜会当日。
王城の大広間は、着飾った貴族たちの熱気と、高級香水の入り混じった匂いに包まれていた。
「……暑いわね」
「空調の魔道具が効いていないのか?」
扇子を激しく動かす貴婦人たち。
額の汗をハンカチで拭う紳士たち。
そこへ、ファンファーレが鳴り響いた。
「アークライト辺境伯令嬢、エリーゼ様のご到着です!」
扉がゆっくりと開かれる。
会場の視線が一斉に注がれたその瞬間。
ざわめきが、感嘆のため息へと変わった。
「……あれは、何だ?」
現れたのは、日焼けなど微塵もしていない、透き通る肌のエリーゼ。
そして彼女が纏っているのは、誰も見たことのないドレスだった。
生地は水のように滑らかで、動くたびにオーロラのような光沢を放っている。
デザインは極めてシンプル。
無駄な装飾を削ぎ落とし、身体のラインを美しく見せるカッティング。
何より、彼女自身がとても、涼しげに見えた。
汗一つかかず、重力から解放された妖精のように軽やかに歩を進める姿。
それは、汗だくでフリルに埋もれている会場の我々にとって、あまりにも衝撃的な格差だった……。
*
「ごきげんよう、皆様」
私が優雅に微笑むと、ジェラルド殿下とミア様を含めて、その場にいた全員が言葉を失いました。
さあ、ショータイムの始まりですわ。
この夜会が終わる頃には、王都のトレンドはすべて書き換わっていることでしょう。
今度は、金箔で縁取られた豪奢な封筒が、アークライト領主館に届けられました。
「……建国記念祝賀パーティーへの招待状、ですか」
執務机の上で、私はその封筒を開封し、中身を一瞥して鼻で笑いました。
差出人は国王陛下のお名前になっていますが、筆跡と香水の匂いからして、実質的な主催者がジェラルド殿下(とミア様)であることは明白です。
「欠席でいいだろう? どうせ、お嬢様を呼びつけて嘲笑い者にしようという魂胆だろうからな」
レイモンド様が、不快そうに顔をしかめました。
彼の分析通りでしょう。
王太子側からすれば私は、辺境の田舎に引っ込み、泥にまみれて工事現場を指揮している落ちぶれた令嬢という認識のはず。
華やかな夜会に、流行遅れのドレスと荒れた肌で現れる私を見て、溜飲を下げたいのでしょうね。
「いいえ、出席しますわ。それも、主役として」
私は招待状を丁寧に畳み、瞳を輝かせました。
「考えてもみてください。王国の有力貴族、各国の外交官、そして富豪たちが一堂に会する場所ですのよ? これほど効率的なプロモーションの場はありませんわ」
私の言葉に、同席していたルーカス殿下がニヤリと笑いました。
「なるほど。向こうが用意した舞台を、そのまま俺たちのランウェイとして使おうって腹か。悪辣だな」
「資源の有効活用ですわ。それに……」
私は立ち上がり、壁際に飾られたマネキンの方へと歩み寄りました。
そこには、まだ世に出していない、最高機密の衣装がかけられています。
「王都の貴族たちはまだ、アークライト・シルクの本当の価値を知りません。言葉で説明するより、見せた方が早いですもの」
アークライト・シルク。
それは、我が領地で独自改良した蚕と、特殊な魔導紡績機によって生み出された、極薄かつ強靭な新素材です。
光の当たり方によって色が変化する偏光染色と、汗を瞬時に蒸発させる吸湿速乾性。
見た目の美しさと機能性を両立させた、繊維革命の結晶。
「ミア様はきっと、最新流行のフリルとレースで着飾っていらっしゃるでしょうね。重たくて、暑くて、動きにくいドレスで」
想像するだけで滑稽です。
真夏の夜会会場は、人の熱気で蒸し風呂状態になります。
そんな中で、何層にも重ねた厚手のドレスを着ていれば、化粧は崩れ、汗染みができるのは避けられません。
一方で、私は。
「涼しい顔で、誰よりも美しく輝いてみせますわ。……セバスチャン、準備を。最高のスタイリストチームを招集して」
「御意。すでに待機させております」
優秀な執事が恭しく一礼しました。
*
(※ジェラルド視点)
王都、王太子宮殿。
「ねえジェラルド様ぁ、本当にあの方、いらっしゃるのかしら?」
ミアが、特注のピンク色のドレスを鏡の前で合わせながら尋ねてきた。
私は、自身の新しい礼服に満足げに頷きながら答えた。
「来るさ。王家の招待を断れば不敬罪だからな。それに、金に困っているはずだ。頭を下げて援助を乞いに来るに違いない」
「うふふ、楽しみ! 私、田舎で日焼けしてシミだらけになったエリーゼ様を見るの、ちょっと可哀想だけど……、でも、私が一番かわいいって証明しなきゃ!」
「当然だ、マイ・エンジェル。君の美しさは国宝級だ。薄汚れたエリーゼなど、君の引き立て役にすぎない」
私たち二人は笑い合った。
しかし、このときの私たちは知らなかった。
今、王都に向かっている馬車の中に、私たちの美意識を根底から覆す破壊兵器が積まれているということを……。
夜会当日。
王城の大広間は、着飾った貴族たちの熱気と、高級香水の入り混じった匂いに包まれていた。
「……暑いわね」
「空調の魔道具が効いていないのか?」
扇子を激しく動かす貴婦人たち。
額の汗をハンカチで拭う紳士たち。
そこへ、ファンファーレが鳴り響いた。
「アークライト辺境伯令嬢、エリーゼ様のご到着です!」
扉がゆっくりと開かれる。
会場の視線が一斉に注がれたその瞬間。
ざわめきが、感嘆のため息へと変わった。
「……あれは、何だ?」
現れたのは、日焼けなど微塵もしていない、透き通る肌のエリーゼ。
そして彼女が纏っているのは、誰も見たことのないドレスだった。
生地は水のように滑らかで、動くたびにオーロラのような光沢を放っている。
デザインは極めてシンプル。
無駄な装飾を削ぎ落とし、身体のラインを美しく見せるカッティング。
何より、彼女自身がとても、涼しげに見えた。
汗一つかかず、重力から解放された妖精のように軽やかに歩を進める姿。
それは、汗だくでフリルに埋もれている会場の我々にとって、あまりにも衝撃的な格差だった……。
*
「ごきげんよう、皆様」
私が優雅に微笑むと、ジェラルド殿下とミア様を含めて、その場にいた全員が言葉を失いました。
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