婚約破棄だけならまだ許せたのですが、殿下が少々やりすぎたので仕返しすることにしました

水上

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第16話:隣国アークランドの夜

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 魔術師団の最高位を真の黒幕と突き止めた私たちは、アイリスから託された魔導記録結晶と、初代国王の秘密の外交プロトコルを携え、国境を越えてゼノ様の故郷である隣国、アークランド王国へと亡命しました。

 魔術師団は、王都の通信システムを掌握していますが、古代のプロトコルは、彼らの管理外にある辺境の古い魔導通信装置を経由して、アークランド王室に協力を求めていました。

 アークランド王国の首都、エメラルド・シティは、私の故郷アストリア王国の厳格な伝統とは異なり、革新的な技術と自由な商業が活気あふれる街でした。

 私たちは、ゼノ様の王室の庇護下に入り、極秘裏に王宮の一室を与えられました。

「アメリア。このアークランドこそが、君の知性が最も輝く場所だ。この国は、技術の公益性を重視する。君の思想は、すぐに支持を得られるだろう」

 ゼノ様は、私たちが持ち込んだ魔導記録結晶を、アークランド王室の信頼できる鑑定団に見せる準備を進めていました。

 私の次の任務は、国際的な情報戦の準備です。


「一般的に、国際社会における真実の重みは、その真実がどれだけ、多くの国にとっての利益と結びつくか、で決まるのですよ」

 アストリア王国の魔術師団は、魔導技術を独占し、それを他国へ高く売ることで富を築いていました。
 この独占構造は、アークランドを含む他国にとって、技術発展を阻害する、癌となっていました。

 私は、この状況を逆手にとり、アークランドの国王と主要な貴族たちに対し、以下の二つの論理で説得する準備を始めました。

 まず、技術の公益性による、国際協力の促進。

 魔導記録結晶に記された、真の功績は、特定の魔導技術が、いかに王族の血筋とは無関係に、誰でも利用可能なものであったかを証明しています。

 私は、この技術をアークランドに無償で公開することを提案しました。
 これにより、アークランドは自国の技術力を飛躍的に向上させることができ、魔術師団による技術独占という腐敗構造を、国際的なレベルで打破する先駆者となれます。

「真実を公表することで、技術という名の最大の同盟者を獲得できますわ」

 そして次に、魔術師団の二重売買の証拠提出。

 私が作成した裏口プロトコルはまだ機能しているので、私は、公文書システムのアクセス権限を駆使し、アストリアの魔術師団が、他国に売却した技術を、実際には二重、三重に売買していた記録を追跡しました。

 行動心理学的に考えると、独占的な権力を持つ者は、必ず記録の偽装を試みますが、その偽装の過程で、わずかな収支の矛盾が生じます。
 私は、その矛盾を他国の国際貿易記録と照合しました。

 その結果、魔術師団がアークランドに売ったはずの技術を、密かに別の第三国にも売り、利益を水増ししていた確たる証拠を見つけ出しました。
 これは、国際法における重大な裏切り行為です。

「この証拠があればアークランドは、真実の擁護者として、アストリアへの介入を国際的に正当化できます。これは、政治戦の最終局面ですわ」

 私は、ゼノ様に説得の計画を共有しました。
 すると、ゼノ様は感銘を受けました。

「アメリア。君は本当にいつでも、権威や力ではなく、情報と論理で戦うんだな。君が隣にいてくれるなら、どんな敵も恐れるに足らない」

 しかし、私の頭の中には、常に第三の勢力、魔術師団の存在がありました。
 彼らは、私たちがアークランドに到着したことも、すでに察知しているはずです。

 私がアークランド王室への公式なプレゼンテーションを行う前夜。

 翠玉の都の王宮は、厳重な警備下にありましたが、私の部屋の窓の外に、ごくわずかな、しかし特異な魔力的な振動を検知しました。

「あら、早速いらっしゃいましたわね」

 私は、魔術師団が仕掛けた遠隔監視と、情報の盗聴の魔術の術式を検知しました。
 彼らは、私たちがアークランド王室に何を話すかを知ろうとしているのでしょう。

「一般的に、魔術的な盗聴は、情報の量が多ければ多いほど、その盗聴術式が飽和し、処理速度が低下するのですよ」

 私は、ゼノ様の魔力を借り、あえて魔術師団の盗聴術式へ向けて、大量の無意味で、かつ機密情報と誤認させるようなデータを、高速で流し込みました。

 それは、存在しない機密技術の設計図や、架空の同盟国の軍事データなど、魔術師団が本物だと信じ込み、解析に時間を費やすような情報です。

「さあ、魔術師団の皆様。あなたの洗練された盗聴術式を、私の情報飽和攻撃で、華麗にパニックに陥れて差し上げますわ」

 私の情報戦の最終段階が今、幕を開けたのです。
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