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第7話:おんぶに対するレビュー
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ブルーノは一つ息を吐くと、ヴィオラに背を向けた。
「乗れ」
「はい?」
「おんぶだ。ここから宿場まで、俺が背負って行く」
ヴィオラは目を丸くした。
辺境伯である彼に、ただの契約上の妻である自分が背負われるなど、常識ではあり得ない。
「いえ、それは不合理です。私は荷物としては重量過多ですし、閣下の体力を消耗させるだけです。杖代わりの木があれば――」
「つべこべ言うな。お前一人背負ったくらいで消耗するほど、俺の体はヤワじゃない」
ブルーノは有無を言わせぬ迫力で背中を差し出した。
これ以上拒否するのは、かえって時間を浪費する非効率な行為だ。
ヴィオラは意を決し、「……失礼いたします」と彼の首に腕を回した。
ふわり、と体が持ち上がる。
高い視点。
そして何より、ヴィオラを驚愕させたのは、その乗り心地だった。
(……これは、どういうことでしょう?)
山道は凸凹しており、普通に歩くだけでも衝撃が来るはずだ。
しかし、ブルーノの背中にあるヴィオラには、不快な振動がほとんど伝わってこない。
「あの、閣下」
「なんだ。痛むか?」
「いえ、逆です。あまりに快適すぎて、混乱しています」
ヴィオラは科学者の目で、眼前の背中を観察した。
服の上からでもわかる、分厚く隆起した広背筋。
それが歩行に合わせてしなやかに伸縮し、路面からの衝撃を完璧に吸収・減衰させている。
「……驚きました。閣下の広背筋と脊柱起立筋は、極めて高性能なエアサスペンションの役割を果たしています」
「……は?」
「一歩ごとの着地衝撃を筋肉の弾性が吸収し、私の重心位置を常に一定に保っています。このダンピング特性は、王宮の最高級馬車よりも優れていますね。人体工学に基づいた、究極の乗り心地です」
ヴィオラは感嘆のあまり、まじまじと彼の首筋や肩の筋肉を見つめた。
ブルーノの足が、ピタリと止まる。
「……おい」
「はい? 何かデータに誤りが?」
「乗り心地のレビューはいいから、大人しくしてろ。……くすぐったい」
ブルーノの声が、心なしか上ずっていた。
後ろからは見えないが、その耳の端は微かに赤くなっている。
ヴィオラは首を傾げた。
(くすぐったい? 接触面積は一定のはずですが……、神経伝達物質の誤作動でしょうか?)
「それに、お前は軽すぎる。ちゃんと飯を食っているのか?」
「栄養摂取は効率的に行っています。……主にビスケットで」
「……領地に着いたら、俺が徹底的に食生活を管理してやる。覚悟しておけ」
ぶっきらぼうな言葉だったが、背中から伝わる体温は温かく、ヴィオラは不思議な安心感に包まれていた。
ヴィオラは少しだけ力を抜いて、その高級サスペンションに身を預けた。
一方その頃、王都の王宮では、小さな崩壊の兆しが見え始めていた。
「乗れ」
「はい?」
「おんぶだ。ここから宿場まで、俺が背負って行く」
ヴィオラは目を丸くした。
辺境伯である彼に、ただの契約上の妻である自分が背負われるなど、常識ではあり得ない。
「いえ、それは不合理です。私は荷物としては重量過多ですし、閣下の体力を消耗させるだけです。杖代わりの木があれば――」
「つべこべ言うな。お前一人背負ったくらいで消耗するほど、俺の体はヤワじゃない」
ブルーノは有無を言わせぬ迫力で背中を差し出した。
これ以上拒否するのは、かえって時間を浪費する非効率な行為だ。
ヴィオラは意を決し、「……失礼いたします」と彼の首に腕を回した。
ふわり、と体が持ち上がる。
高い視点。
そして何より、ヴィオラを驚愕させたのは、その乗り心地だった。
(……これは、どういうことでしょう?)
山道は凸凹しており、普通に歩くだけでも衝撃が来るはずだ。
しかし、ブルーノの背中にあるヴィオラには、不快な振動がほとんど伝わってこない。
「あの、閣下」
「なんだ。痛むか?」
「いえ、逆です。あまりに快適すぎて、混乱しています」
ヴィオラは科学者の目で、眼前の背中を観察した。
服の上からでもわかる、分厚く隆起した広背筋。
それが歩行に合わせてしなやかに伸縮し、路面からの衝撃を完璧に吸収・減衰させている。
「……驚きました。閣下の広背筋と脊柱起立筋は、極めて高性能なエアサスペンションの役割を果たしています」
「……は?」
「一歩ごとの着地衝撃を筋肉の弾性が吸収し、私の重心位置を常に一定に保っています。このダンピング特性は、王宮の最高級馬車よりも優れていますね。人体工学に基づいた、究極の乗り心地です」
ヴィオラは感嘆のあまり、まじまじと彼の首筋や肩の筋肉を見つめた。
ブルーノの足が、ピタリと止まる。
「……おい」
「はい? 何かデータに誤りが?」
「乗り心地のレビューはいいから、大人しくしてろ。……くすぐったい」
ブルーノの声が、心なしか上ずっていた。
後ろからは見えないが、その耳の端は微かに赤くなっている。
ヴィオラは首を傾げた。
(くすぐったい? 接触面積は一定のはずですが……、神経伝達物質の誤作動でしょうか?)
「それに、お前は軽すぎる。ちゃんと飯を食っているのか?」
「栄養摂取は効率的に行っています。……主にビスケットで」
「……領地に着いたら、俺が徹底的に食生活を管理してやる。覚悟しておけ」
ぶっきらぼうな言葉だったが、背中から伝わる体温は温かく、ヴィオラは不思議な安心感に包まれていた。
ヴィオラは少しだけ力を抜いて、その高級サスペンションに身を預けた。
一方その頃、王都の王宮では、小さな崩壊の兆しが見え始めていた。
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