白い結婚だったはずなのに、少し糖度が高すぎる気がするのですが。~殿下が今更復縁を懇願してきましたが、もう遅いです~

水上

文字の大きさ
7 / 9

第7話:おんぶに対するレビュー

しおりを挟む
 ブルーノは一つ息を吐くと、ヴィオラに背を向けた。

「乗れ」

「はい?」

「おんぶだ。ここから宿場まで、俺が背負って行く」

 ヴィオラは目を丸くした。
 辺境伯である彼に、ただの契約上の妻である自分が背負われるなど、常識ではあり得ない。

「いえ、それは不合理です。私は荷物としては重量過多ですし、閣下の体力を消耗させるだけです。杖代わりの木があれば――」

「つべこべ言うな。お前一人背負ったくらいで消耗するほど、俺の体はヤワじゃない」

 ブルーノは有無を言わせぬ迫力で背中を差し出した。
 これ以上拒否するのは、かえって時間を浪費する非効率な行為だ。

 ヴィオラは意を決し、「……失礼いたします」と彼の首に腕を回した。

 ふわり、と体が持ち上がる。

 高い視点。
 そして何より、ヴィオラを驚愕させたのは、その乗り心地だった。

(……これは、どういうことでしょう?)

 山道は凸凹しており、普通に歩くだけでも衝撃が来るはずだ。
 しかし、ブルーノの背中にあるヴィオラには、不快な振動がほとんど伝わってこない。

「あの、閣下」

「なんだ。痛むか?」

「いえ、逆です。あまりに快適すぎて、混乱しています」

 ヴィオラは科学者の目で、眼前の背中を観察した。
 服の上からでもわかる、分厚く隆起した広背筋。

 それが歩行に合わせてしなやかに伸縮し、路面からの衝撃を完璧に吸収・減衰させている。

「……驚きました。閣下の広背筋と脊柱起立筋は、極めて高性能なエアサスペンションの役割を果たしています」

「……は?」

「一歩ごとの着地衝撃を筋肉の弾性が吸収し、私の重心位置を常に一定に保っています。このダンピング特性は、王宮の最高級馬車よりも優れていますね。人体工学に基づいた、究極の乗り心地です」

 ヴィオラは感嘆のあまり、まじまじと彼の首筋や肩の筋肉を見つめた。
 ブルーノの足が、ピタリと止まる。

「……おい」

「はい? 何かデータに誤りが?」

「乗り心地のレビューはいいから、大人しくしてろ。……くすぐったい」

 ブルーノの声が、心なしか上ずっていた。
 後ろからは見えないが、その耳の端は微かに赤くなっている。

 ヴィオラは首を傾げた。

(くすぐったい? 接触面積は一定のはずですが……、神経伝達物質の誤作動でしょうか?)

「それに、お前は軽すぎる。ちゃんと飯を食っているのか?」

「栄養摂取は効率的に行っています。……主にビスケットで」

「……領地に着いたら、俺が徹底的に食生活を管理してやる。覚悟しておけ」

 ぶっきらぼうな言葉だったが、背中から伝わる体温は温かく、ヴィオラは不思議な安心感に包まれていた。

 ヴィオラは少しだけ力を抜いて、その高級サスペンションに身を預けた。

 一方その頃、王都の王宮では、小さな崩壊の兆しが見え始めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

「婚約破棄、ですね?」

だましだまし
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 「殿下、もう一度仰ってください」 「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」 「婚約破棄、ですね?」 近頃流行りの物語にある婚約破棄騒動。 まさか私が受けるとは…。 でもしっかり聞きましたからね?

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

「冷酷で理屈っぽい」と捨てられましたが、この国を影から支えていたの、実は私なんです

水上
恋愛
【全7話完結】 「冷酷で理屈っぽい」 そう断じられ婚約破棄されたヴィオラ。 しかし、追放先の辺境で、その知識を用いて泥沼の街道を舗装し、極上のチーズや保湿クリームを開発して大活躍!   一方、彼女を捨てたことで、王都では様々な問題が発生する。 馬車が揺れを制御できなくなり、隣国の大使が王都で嘔吐。 それが外交問題に発展して……。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...