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第6話:トラブル発生
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王都を出発してから三日が経過した。
北へと向かう馬車の窓から見える景色は、穏やかな田園風景から、次第に荒々しい岩肌や深い森へと変貌を遂げている。
辺境伯領への道は、王都の舗装された街道とは異なり、馬車にとっては過酷な振動試験場のようなものだった。
「……ッ」
ガタン、と車輪が大きな石を乗り越えるたび、ヴィオラの体は座席から浮き上がりそうになる。
彼女は窓枠を強く握りしめ、物理的な衝撃に耐えていた。
だが、恐れていた事態がついに発生した。
バキッ、という嫌な破断音が響き、馬車が大きく傾いたのだ。
「申し訳ございません、閣下! 左の後輪が……!」
御者の悲鳴に近い報告を受け、ブルーノは素早く馬車の扉を開けた。
彼は状況を一瞥すると、冷静に指示を飛ばした。
「車軸がいかれたか。ここから次の宿場町までは徒歩で一時間ほどだ。俺たちは歩く。修理が終わったら合流して出発だ」
「は、はい!」
ブルーノの判断は迅速だった。ヴィオラも文句一つ言わず、傾いた馬車から降り立つ。
彼女は貴族令嬢だが、夜な夜な作業服で王宮の補修をしていた身だ。
多少のトラブルには動じない。
……はずだった。
「あ……ッ」
馬車から地面に降りた瞬間、運悪く露出した木の根に足を取られた。
グキリ、という鈍い音が足首から伝わる。
激痛が走り、ヴィオラはその場にうずくまった。
「おい、どうした!」
先行しようとしていたブルーノが、弾かれたように戻ってくる。
ヴィオラは脂汗を滲ませながら、冷静に状況を報告しようとした。
「申し訳ありません、閣下。着地時の接地圧分散に失敗しました。右足首の靭帯に過度な引張応力がかかり、部分断裂、あるいは重度の捻挫を引き起こした模様です」
「……そこは素直に足を挫いたと言え」
ブルーノは呆れたように言いながらも、その瞳には焦りの色が浮かんでいた。
彼は躊躇なく片膝をつき、ヴィオラの腫れ始めた足首をそっと確認する。
その手つきは、岩のような見た目に反して驚くほど繊細だった。
「歩けるか?」
ブルーノは心配そうにヴィオラの顔を見つめながら言った。
「……理論上は可能ですが、歩行速度は著しく低下し、全体の移動スケジュールに45%以上の遅延を生じさせるでしょう」
「つまり、無理ってことだな」
そう言ってブルーノは、ヴィオラにとある提案をするのだった。
北へと向かう馬車の窓から見える景色は、穏やかな田園風景から、次第に荒々しい岩肌や深い森へと変貌を遂げている。
辺境伯領への道は、王都の舗装された街道とは異なり、馬車にとっては過酷な振動試験場のようなものだった。
「……ッ」
ガタン、と車輪が大きな石を乗り越えるたび、ヴィオラの体は座席から浮き上がりそうになる。
彼女は窓枠を強く握りしめ、物理的な衝撃に耐えていた。
だが、恐れていた事態がついに発生した。
バキッ、という嫌な破断音が響き、馬車が大きく傾いたのだ。
「申し訳ございません、閣下! 左の後輪が……!」
御者の悲鳴に近い報告を受け、ブルーノは素早く馬車の扉を開けた。
彼は状況を一瞥すると、冷静に指示を飛ばした。
「車軸がいかれたか。ここから次の宿場町までは徒歩で一時間ほどだ。俺たちは歩く。修理が終わったら合流して出発だ」
「は、はい!」
ブルーノの判断は迅速だった。ヴィオラも文句一つ言わず、傾いた馬車から降り立つ。
彼女は貴族令嬢だが、夜な夜な作業服で王宮の補修をしていた身だ。
多少のトラブルには動じない。
……はずだった。
「あ……ッ」
馬車から地面に降りた瞬間、運悪く露出した木の根に足を取られた。
グキリ、という鈍い音が足首から伝わる。
激痛が走り、ヴィオラはその場にうずくまった。
「おい、どうした!」
先行しようとしていたブルーノが、弾かれたように戻ってくる。
ヴィオラは脂汗を滲ませながら、冷静に状況を報告しようとした。
「申し訳ありません、閣下。着地時の接地圧分散に失敗しました。右足首の靭帯に過度な引張応力がかかり、部分断裂、あるいは重度の捻挫を引き起こした模様です」
「……そこは素直に足を挫いたと言え」
ブルーノは呆れたように言いながらも、その瞳には焦りの色が浮かんでいた。
彼は躊躇なく片膝をつき、ヴィオラの腫れ始めた足首をそっと確認する。
その手つきは、岩のような見た目に反して驚くほど繊細だった。
「歩けるか?」
ブルーノは心配そうにヴィオラの顔を見つめながら言った。
「……理論上は可能ですが、歩行速度は著しく低下し、全体の移動スケジュールに45%以上の遅延を生じさせるでしょう」
「つまり、無理ってことだな」
そう言ってブルーノは、ヴィオラにとある提案をするのだった。
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