白い結婚だったはずなのに、少し糖度が高すぎる気がするのですが。~殿下が今更復縁を懇願してきましたが、もう遅いです~

水上

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第10話:彼の視線

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 パカパカしていた靴底は完全に一体化しており、しかも以前よりグリップ力が増して滑らなくなっていた。

「す、すげぇ! 全然剥がれない! 走りやすい!」

 男の子が歓声を上げて走り回る。
 それを見た他の子供たちも「僕も!」「私も!」と集まってきた。

 ヴィオラは嫌な顔一つせず、次々と子供たちの靴を修理していく。
 単に直すだけではない。

 すり減った踵には耐摩耗性の充填剤を盛り、破れた箇所にはパッチを当てる。

「はい、次。……君の靴はサイズが合っていませんね。隙間調整用の発泡ウレタンをインソールに入れておきます」

 数分後。
 ボロボロだった子供たちの靴は、新品以上の機能性を持つ靴へと生まれ変わっていた。

 子供たちは目を輝かせ、ヴィオラを見上げる。

「お姉ちゃん、すごい! 魔法使いみたい!」

「ありがとう、魔法使いのお姉ちゃん!」

「……魔法ではありません。これは化学です。適切な素材を適切な場所に配置したに過ぎません」

 ヴィオラは淡々と訂正したが、子供たちは聞く耳を持たず、「魔法だ、魔法だ」とはしゃぎ回っている。

 ふと視線を感じて顔を上げると、ブルーノが腕を組み、こちらを見ていた。
 その琥珀色の瞳は、どこか優しげに細められている。

「……子供の相手もできるとはな」

「相手というか、施工です。歩行時のスリップ事故は、労働生産性の低下に直結しますから」

「ふっ、お前らしいな。……さあ、中へ入れ。旅の汚れを落としたら、夕食だ」

 入浴を済ませ、案内されたダイニングルームは、暖炉の火が爆ぜる暖かい空間だった。
 長いテーブルの向かい側に、ブルーノが座っている。

 執務服からラフなシャツ姿に着替えた彼は、風呂上がりで少し濡れた髪をかき上げ、野性味あふれる色気を醸し出していた。

 対するヴィオラは、慣れない環境に少し緊張気味に座っていた。
 すると、ブルーノがじっとヴィオラの顔を見つめてきた。

 無言で。
 瞬きもせず。

(……ん? 何でしょう?)

 ヴィオラは背筋を伸ばし、直立不動(座ってはいるが)の姿勢をとった。
 ブルーノの顔が、テーブル越しにぐっと近づいてくる。

 至近距離での凝視。
 ヴィオラは瞬きを我慢し、彼の視線を受け止めた。

(これは……、目視外観検査ですね? 納品された妻という製品に、傷や欠陥がないかチェックしているのですか?)

 思考が職業病全開に傾く。

 肌荒れ? 
 目の下のクマ? 
 それとも眼鏡の汚れ?

 検査合格ラインはどこだ。
 不合格なら返品(離縁)もあり得るのか。

 そんなことになると困るが、彼の思惑は何なのだろう……。
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