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第13話:穏やかな夕食と騒がしいパーティー
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屋敷に戻ったヴィオラが小麦粉をキッチンに持ち込むと、エプロン姿のブルーノが目を輝かせた。
「ほう……。素晴らしい挽き具合だ。熱を持たせずに挽いたから、小麦の香りが飛んでいない」
「ええ。水車の回転トルクが安定した結果、粒度が均一化されたようです」
「でかした、ヴィオラ。この粉があれば、あれが作れる」
ブルーノは腕まくりをすると、ボウルに粉を入れ、卵と少量の塩、オリーブオイルを加えて練り始めた。
その手つきは、剣を振るう時の剛直さとは打って変わり、慈愛に満ちている。
「今夜は手打ちタリアテッレのクリームソースだ。挽きたての粉の風味を殺さないよう、ソースは濃厚だが味付けはシンプルにする」
一時間後。
テーブルに運ばれてきたのは、幅広のパスタが黄金色のソースを纏った一皿だった。
具材は厚切りのベーコンと、森で採れたキノコだけ。
フォークで巻き取り、口に運ぶ。
「……ん!」
ヴィオラは目を見開いた。
モチモチとした弾力。
噛むほどに広がる小麦の甘い香り。
それが、濃厚なクリームソースと絡み合い、脳髄を痺れさせるような旨味となって押し寄せる。
「どうだ?」
「……計算外です。単なる炭水化物と脂質の混合物が、これほど精神的な充足感をもたらすとは」
「それはよかった。炭水化物は脳のエネルギー源だ。最近のお前は頭を使いすぎているからな、しっかり補給しろ」
ブルーノは満足げにワインを傾けながら、ヴィオラの皿に追い粉チーズをかけた。
村人たちの笑顔と、ブルーノの手料理。
ヴィオラの中で、領地経営という仕事が、単なる義務以上の意味を持ち始めていた。
一方、王都。
辺境での穏やかな夕食とは対照的に、とある夜会会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
主催者は、王太子の新しい婚約者ミシェル。
彼女は自分の権力を誇示するため、王宮の大ホールで盛大なパーティーを開いていた。
「もっと豪華に! 天井からお花と宝石をいっぱい吊るして! まるで星空みたいにするの!」
ミシェルの無茶な要望に、職人たちは頭を抱えた。
かつて、こうした重量のある装飾は、ヴィオラが計算し尽くしたアンカーボルトと特殊接着剤の併用によって固定されていた。
しかし、彼女はもういない。
職人たちは仕方なく、あり合わせの紐と普通の糊で、重い装飾を天井に固定した。
「え~、なんかグラグラしてなぁい? まあいいか、愛の力で止まってるってことにしましょう」
ミシェルは楽観的だった。
そして、パーティーが最高潮に達した瞬間。
天井の漆喰ごと、巨大な花のオブジェとガラス玉が落下した。
直撃を受けたのは、招待客の貴婦人たちと、中央で踊っていたミシェル自身だった。
「きゃあああああ!!」
「痛いっ! 何これ!?」
粉塵が舞い、悲鳴が響く。
幸い死人は出なかったが、泥と花粉とガラス片まみれになった会場は見る影もない。
「なんで落ちるのよぉ! 職人のバカ! 手抜き工事じゃないの!?」
ミシェルがヒステリックに叫ぶ。
その横で、王太子ジュリアンが青ざめた顔で立ち尽くしていた。
落ちてきた装飾の断面を見て、彼はふと、ヴィオラの冷ややかな声を幻聴のように聞いた気がした。
――『圧着不足です。物理法則は、忖度をしてくれませんよ』
北の大地で水車が力強く回っている頃、王都では信頼と飾りが同時に地に落ちていた。
「ほう……。素晴らしい挽き具合だ。熱を持たせずに挽いたから、小麦の香りが飛んでいない」
「ええ。水車の回転トルクが安定した結果、粒度が均一化されたようです」
「でかした、ヴィオラ。この粉があれば、あれが作れる」
ブルーノは腕まくりをすると、ボウルに粉を入れ、卵と少量の塩、オリーブオイルを加えて練り始めた。
その手つきは、剣を振るう時の剛直さとは打って変わり、慈愛に満ちている。
「今夜は手打ちタリアテッレのクリームソースだ。挽きたての粉の風味を殺さないよう、ソースは濃厚だが味付けはシンプルにする」
一時間後。
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フォークで巻き取り、口に運ぶ。
「……ん!」
ヴィオラは目を見開いた。
モチモチとした弾力。
噛むほどに広がる小麦の甘い香り。
それが、濃厚なクリームソースと絡み合い、脳髄を痺れさせるような旨味となって押し寄せる。
「どうだ?」
「……計算外です。単なる炭水化物と脂質の混合物が、これほど精神的な充足感をもたらすとは」
「それはよかった。炭水化物は脳のエネルギー源だ。最近のお前は頭を使いすぎているからな、しっかり補給しろ」
ブルーノは満足げにワインを傾けながら、ヴィオラの皿に追い粉チーズをかけた。
村人たちの笑顔と、ブルーノの手料理。
ヴィオラの中で、領地経営という仕事が、単なる義務以上の意味を持ち始めていた。
一方、王都。
辺境での穏やかな夕食とは対照的に、とある夜会会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
主催者は、王太子の新しい婚約者ミシェル。
彼女は自分の権力を誇示するため、王宮の大ホールで盛大なパーティーを開いていた。
「もっと豪華に! 天井からお花と宝石をいっぱい吊るして! まるで星空みたいにするの!」
ミシェルの無茶な要望に、職人たちは頭を抱えた。
かつて、こうした重量のある装飾は、ヴィオラが計算し尽くしたアンカーボルトと特殊接着剤の併用によって固定されていた。
しかし、彼女はもういない。
職人たちは仕方なく、あり合わせの紐と普通の糊で、重い装飾を天井に固定した。
「え~、なんかグラグラしてなぁい? まあいいか、愛の力で止まってるってことにしましょう」
ミシェルは楽観的だった。
そして、パーティーが最高潮に達した瞬間。
天井の漆喰ごと、巨大な花のオブジェとガラス玉が落下した。
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「きゃあああああ!!」
「痛いっ! 何これ!?」
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「なんで落ちるのよぉ! 職人のバカ! 手抜き工事じゃないの!?」
ミシェルがヒステリックに叫ぶ。
その横で、王太子ジュリアンが青ざめた顔で立ち尽くしていた。
落ちてきた装飾の断面を見て、彼はふと、ヴィオラの冷ややかな声を幻聴のように聞いた気がした。
――『圧着不足です。物理法則は、忖度をしてくれませんよ』
北の大地で水車が力強く回っている頃、王都では信頼と飾りが同時に地に落ちていた。
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