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第27話:迷惑な訪問者
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深い雪に閉ざされたベルンシュタイン辺境伯領に、場違いな訪問者が現れたのは、昼下がりのことだった。
ヴィオラとブルーノが、暖炉の前で領地特産のホットワインを楽しんでいた時、執事が困惑した表情で飛び込んできた。
「だ、旦那様! 大変です! 王太子殿下が……、ジュリアン殿下が、突然ご到着されました!」
「は?」
ブルーノが眉をひそめる。
この季節、王都から辺境への道は過酷だ。
しかも事前連絡もなしに王族が来るなど、外交儀礼上あり得ない。
「……通せ。玄関先で凍え死なれても迷惑だ」
ブルーノが不機嫌そうに指示を出すと、ヴィオラは冷静に眼鏡の位置を直した。
「殿下が自らお越しになるとは。……王宮の崩壊速度が、予想以上に早まっているようですね」
応接間に通されたジュリアンは、かつての煌びやかな姿とは程遠かった。
防寒具は高級品だが泥汚れが目立ち、顔色は悪く、目の下には濃いクマができている。
長旅とストレスで疲弊しているのは明らかだった。
だが、その態度は相変わらず尊大だった。
「遅いぞ、ヴィオラ! 私がここまで来てやったのだから、もっと早く出迎えんか!」
開口一番、謝罪ではなく叱責。
ヴィオラは呆れるよりも先に、観察対象としての興味を抱いた。
(学習能力の欠如、状況認識の甘さ、そして自己愛性パーソナリティの肥大化。……興味深いサンプルです)
ブルーノがヴィオラを庇うように前に立ち、低い声で威圧した。
「殿下。我が領へ何の用でしょうか。生憎と、観光シーズンではありませんが」
「ふん、辺境伯か。用があるのは貴様ではない。そこにいるヴィオラだ」
ジュリアンはブルーノを睨みつけた後、視線をヴィオラに移した。
そして、恩着せがましく両手を広げた。
「ヴィオラよ。喜べ。私が直々に迎えに来てやったぞ」
「……は?」
「王宮が大変なのだ。椅子は壊れる、馬車は車輪が外れる、シャンデリアは落ちる……。職人どもは無能で、直しても直してもすぐに壊れる。やはり、お前のあの地味な糊が必要だということになった」
ジュリアンは、「仕方がないから認めてやる」と言わんばかりの表情だ。
「ミシェルも心が広い。『ヴィオラ様が反省して戻ってくるなら、側仕えくらいにはしてあげてもいい』と言っているぞ。さあ、感謝して私と共に王都へ帰ろう。今なら婚約破棄を撤回し、再び側室候補くらいには戻してやってもいい」
室内の温度が、氷点下まで下がった気がした。
ブルーノの拳が怒りで震え、血管が浮き上がっている。
彼が動こうとした瞬間、ヴィオラが静かにそれを手で制した。
ヴィオラは一歩前に出た。
その瞳は、絶対零度のように冷ややかだった。
「殿下。現状認識に重大な誤解が含まれています」
「なんだと?」
「まず第一に、私は現在、ベルンシュタイン辺境伯の妻であり、この地の技術顧問です。王宮へ戻る意思はありません。第二に、王宮の崩壊は、貴方がたが維持管理を軽視した結果であり、自業自得です」
「なっ……! 生意気な! 私が戻れと言えば戻るのが臣下の義務だろう! それに、お前だってまだ私が好きなはずだ!」
ジュリアンが必死に叫ぶ。
彼は本気で信じているのだ。
ヴィオラが自分に未練を持っていると。
ヴィオラは小さく息を吐き、哀れむような目で彼を見た。
そして、残酷な事実を告げるのだった。
ヴィオラとブルーノが、暖炉の前で領地特産のホットワインを楽しんでいた時、執事が困惑した表情で飛び込んできた。
「だ、旦那様! 大変です! 王太子殿下が……、ジュリアン殿下が、突然ご到着されました!」
「は?」
ブルーノが眉をひそめる。
この季節、王都から辺境への道は過酷だ。
しかも事前連絡もなしに王族が来るなど、外交儀礼上あり得ない。
「……通せ。玄関先で凍え死なれても迷惑だ」
ブルーノが不機嫌そうに指示を出すと、ヴィオラは冷静に眼鏡の位置を直した。
「殿下が自らお越しになるとは。……王宮の崩壊速度が、予想以上に早まっているようですね」
応接間に通されたジュリアンは、かつての煌びやかな姿とは程遠かった。
防寒具は高級品だが泥汚れが目立ち、顔色は悪く、目の下には濃いクマができている。
長旅とストレスで疲弊しているのは明らかだった。
だが、その態度は相変わらず尊大だった。
「遅いぞ、ヴィオラ! 私がここまで来てやったのだから、もっと早く出迎えんか!」
開口一番、謝罪ではなく叱責。
ヴィオラは呆れるよりも先に、観察対象としての興味を抱いた。
(学習能力の欠如、状況認識の甘さ、そして自己愛性パーソナリティの肥大化。……興味深いサンプルです)
ブルーノがヴィオラを庇うように前に立ち、低い声で威圧した。
「殿下。我が領へ何の用でしょうか。生憎と、観光シーズンではありませんが」
「ふん、辺境伯か。用があるのは貴様ではない。そこにいるヴィオラだ」
ジュリアンはブルーノを睨みつけた後、視線をヴィオラに移した。
そして、恩着せがましく両手を広げた。
「ヴィオラよ。喜べ。私が直々に迎えに来てやったぞ」
「……は?」
「王宮が大変なのだ。椅子は壊れる、馬車は車輪が外れる、シャンデリアは落ちる……。職人どもは無能で、直しても直してもすぐに壊れる。やはり、お前のあの地味な糊が必要だということになった」
ジュリアンは、「仕方がないから認めてやる」と言わんばかりの表情だ。
「ミシェルも心が広い。『ヴィオラ様が反省して戻ってくるなら、側仕えくらいにはしてあげてもいい』と言っているぞ。さあ、感謝して私と共に王都へ帰ろう。今なら婚約破棄を撤回し、再び側室候補くらいには戻してやってもいい」
室内の温度が、氷点下まで下がった気がした。
ブルーノの拳が怒りで震え、血管が浮き上がっている。
彼が動こうとした瞬間、ヴィオラが静かにそれを手で制した。
ヴィオラは一歩前に出た。
その瞳は、絶対零度のように冷ややかだった。
「殿下。現状認識に重大な誤解が含まれています」
「なんだと?」
「まず第一に、私は現在、ベルンシュタイン辺境伯の妻であり、この地の技術顧問です。王宮へ戻る意思はありません。第二に、王宮の崩壊は、貴方がたが維持管理を軽視した結果であり、自業自得です」
「なっ……! 生意気な! 私が戻れと言えば戻るのが臣下の義務だろう! それに、お前だってまだ私が好きなはずだ!」
ジュリアンが必死に叫ぶ。
彼は本気で信じているのだ。
ヴィオラが自分に未練を持っていると。
ヴィオラは小さく息を吐き、哀れむような目で彼を見た。
そして、残酷な事実を告げるのだった。
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