「僕の体面を守るために、君が悪者になってくれ」私に身代わりを強要する、事業で失態を犯した夫。~今後、あなたに尽くすことはございません~

水上

文字の大きさ
15 / 18

第15話:露呈し始めた本当の実力

 自分を慰め、保護者としての自尊心を満たしてくれていた、何もできない幼馴染み。
 
 しかし、家計が完全に傾き、実務能力が極限まで要求される今の状況において、パメラのその無能さは、ただの重荷でしかなかった。

(マルグリットなら……、マルグリットなら、こんな時、徹夜で完璧に計算して、魔法のように事態を収拾してくれたのに……!)

 アレクシスは、自分が無意識のうちにどれほど妻の見えない労働と能力に依存していたかを、骨の髄まで思い知らされ始めていた。

 しかし、彼はまだ現実を完全に直視することを拒んでいた。

「……そうだ。まだ手はある」

 アレクシスは血走った目で、焦げ付いた鍋を見つめた。

 グッドウィン商会からは取引を全面停止されたが、王都にはまだ、チェンバレン家のマルグリット・ブランドのコンフィチュールを欲しがっている二流、三流の商人たちがいる。

「おい、お前たち! 見た目だけでもそれっぽく作れ! 赤い着色料でも何でも入れて誤魔化せばいい! 『マルグリット・チェンバレン特製』というラベルさえ貼っておけば、中身なんてどうせ誰も分かりはしない!」

 アレクシスは、自身の当主としてのプライドを守るため、そして目先の金を得るために、最も愚かで致命的な決断を下した。

 彼は、素人が作った利益率だけを重視した粗悪品を、妻の名前を騙って市場に大量に流すことにしたのだ。

 数日後、王都の市場に並んだチェンバレン家特製のラベルが貼られたコンフィチュールは、またたく間に人々の手に渡った。

 しかし、その結果は火を見るより明らかだった。

「なんだこれは! ただ甘ったるいだけで、果物の風味も何もないじゃないか!」

「プレザーブスタイルと書いてあるのに、果肉がドロドロの液状だ!」

「開けたら二日でカビが生えたぞ! チェンバレン家の品質管理はどうなっているんだ!」

 粗悪品による名誉毀損。
 王都の商人や顧客たちからの猛烈なクレームの嵐が、チェンバレン子爵邸に容赦なく叩きつけられた。

 返品の山と、返金を求める督促状の束。

 アレクシスは頭を抱え、「妻の腕が落ちたようだ」と必死に言い訳をして回ったが、もはや誰の耳にも届かなかった。

「……嘘だ、こんなはずはない。僕が外で宣伝して、価値をつけてやっていたんじゃないのか……」

 アレクシスは震える手で、空っぽになった家庫の帳簿を見つめた。
 彼が自分の手柄だと思い込んでいたものは、すべて砂上の楼閣だった。

 彼を有能な若き経営者たらしめていたのは、彼の采配でも血筋でもなく、薄暗い厨房で彼に「泥臭い」と蔑まれながらも、ミリ単位の計算と労働を繰り返していた一人の有能な妻の腕だけだったのだ。

 その事実を突きつけられた時、アレクシスの足元は完全に崩落し、彼は真の破滅という暗闇へと、真っ逆さまに落ちていった。

あなたにおすすめの小説

「子守係風情が婚約者面をするな」と追い出された令嬢——公爵家の子供たちが全員、家出した

歩人
ファンタジー
「所詮、子守係にすぎない女だった」 公爵嫡男エドワードはそう吐き捨て、華やかな伯爵令嬢との婚約を発表した。 追い出されたフィオナは泣かなかった。前世で保育士だった記憶を持つ彼女は知っていた——子供は見ている。全部、覚えている。 フィオナが去って一週間。公爵家の三人の子供たちが、揃って家を出た。 長男は「フィオナ先生のところに行く」と書き置きを残し、次女は新しい婚約者に「あなたは僕たちの名前すら知らない」と告げた。 「お返しする気はございません——この子たちは、私を選んだのですから」

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

「お前の看病は必要ない」と追放された令嬢——3日後、王子の熱が40度を超えても、誰も下げ方を知らなかった

歩人
ファンタジー
「お前の看病などいらない。薬師がいれば十分だ」 王太子カールにそう告げられ、侯爵令嬢リーゼは静かに宮廷を去った。 誰も知らなかった。夜ごとの見回り、薬の飲み合わせの管理、感染症の予防措置——宮廷の健康を守っていたのは薬師ではなくリーゼだったことを。 前世で救急看護師だった記憶を持つ彼女は、辺境の診療所で第二の人生を始める。 一方、リーゼが去った宮廷では原因不明の発熱が蔓延し、王太子自身も倒れる。 迎えに来た使者にリーゼは告げる——「お薬は出せます。でも、看護は致しません」

追放された私、実は最強の魔導師でした。今さら泣きつく家族も元婚約者も、踏みつけて差し上げます。私の愛は、拾ってくれた彼にしか捧げないので。

唯崎りいち
恋愛
「不気味な女」と家族や婚約者に虐げられ、離れに幽閉された伯爵令嬢の私。 生まれつき周囲の光を奪ってしまう体質のせいで婚約破棄され、夜の街へ放逐された。 そんな私を拾い、「君こそが伝説の魔導師だ」と歓喜して抱き寄せたのは、第一王子だった。 彼に愛され、私の中で眠っていた前世の記憶が覚醒する――。 迎えた夜会。光を吸い込み輝くドレスを纏った私の前に、自分を捨てたゴミ(家族)が再び現れて……。 「――『極夜の王(アビス・レイズ)』」 世界を闇に沈める最強の魔導師として、私を笑った者たちに絶望を。 執着心たっぷりの王子と共に、最強の二人が世界を塗り替える!

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。