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第15話:露呈し始めた本当の実力
自分を慰め、保護者としての自尊心を満たしてくれていた、何もできない幼馴染み。
しかし、家計が完全に傾き、実務能力が極限まで要求される今の状況において、パメラのその無能さは、ただの重荷でしかなかった。
(マルグリットなら……、マルグリットなら、こんな時、徹夜で完璧に計算して、魔法のように事態を収拾してくれたのに……!)
アレクシスは、自分が無意識のうちにどれほど妻の見えない労働と能力に依存していたかを、骨の髄まで思い知らされ始めていた。
しかし、彼はまだ現実を完全に直視することを拒んでいた。
「……そうだ。まだ手はある」
アレクシスは血走った目で、焦げ付いた鍋を見つめた。
グッドウィン商会からは取引を全面停止されたが、王都にはまだ、チェンバレン家のマルグリット・ブランドのコンフィチュールを欲しがっている二流、三流の商人たちがいる。
「おい、お前たち! 見た目だけでもそれっぽく作れ! 赤い着色料でも何でも入れて誤魔化せばいい! 『マルグリット・チェンバレン特製』というラベルさえ貼っておけば、中身なんてどうせ誰も分かりはしない!」
アレクシスは、自身の当主としてのプライドを守るため、そして目先の金を得るために、最も愚かで致命的な決断を下した。
彼は、素人が作った利益率だけを重視した粗悪品を、妻の名前を騙って市場に大量に流すことにしたのだ。
数日後、王都の市場に並んだチェンバレン家特製のラベルが貼られたコンフィチュールは、またたく間に人々の手に渡った。
しかし、その結果は火を見るより明らかだった。
「なんだこれは! ただ甘ったるいだけで、果物の風味も何もないじゃないか!」
「プレザーブスタイルと書いてあるのに、果肉がドロドロの液状だ!」
「開けたら二日でカビが生えたぞ! チェンバレン家の品質管理はどうなっているんだ!」
粗悪品による名誉毀損。
王都の商人や顧客たちからの猛烈なクレームの嵐が、チェンバレン子爵邸に容赦なく叩きつけられた。
返品の山と、返金を求める督促状の束。
アレクシスは頭を抱え、「妻の腕が落ちたようだ」と必死に言い訳をして回ったが、もはや誰の耳にも届かなかった。
「……嘘だ、こんなはずはない。僕が外で宣伝して、価値をつけてやっていたんじゃないのか……」
アレクシスは震える手で、空っぽになった家庫の帳簿を見つめた。
彼が自分の手柄だと思い込んでいたものは、すべて砂上の楼閣だった。
彼を有能な若き経営者たらしめていたのは、彼の采配でも血筋でもなく、薄暗い厨房で彼に「泥臭い」と蔑まれながらも、ミリ単位の計算と労働を繰り返していた一人の有能な妻の腕だけだったのだ。
その事実を突きつけられた時、アレクシスの足元は完全に崩落し、彼は真の破滅という暗闇へと、真っ逆さまに落ちていった。
しかし、家計が完全に傾き、実務能力が極限まで要求される今の状況において、パメラのその無能さは、ただの重荷でしかなかった。
(マルグリットなら……、マルグリットなら、こんな時、徹夜で完璧に計算して、魔法のように事態を収拾してくれたのに……!)
アレクシスは、自分が無意識のうちにどれほど妻の見えない労働と能力に依存していたかを、骨の髄まで思い知らされ始めていた。
しかし、彼はまだ現実を完全に直視することを拒んでいた。
「……そうだ。まだ手はある」
アレクシスは血走った目で、焦げ付いた鍋を見つめた。
グッドウィン商会からは取引を全面停止されたが、王都にはまだ、チェンバレン家のマルグリット・ブランドのコンフィチュールを欲しがっている二流、三流の商人たちがいる。
「おい、お前たち! 見た目だけでもそれっぽく作れ! 赤い着色料でも何でも入れて誤魔化せばいい! 『マルグリット・チェンバレン特製』というラベルさえ貼っておけば、中身なんてどうせ誰も分かりはしない!」
アレクシスは、自身の当主としてのプライドを守るため、そして目先の金を得るために、最も愚かで致命的な決断を下した。
彼は、素人が作った利益率だけを重視した粗悪品を、妻の名前を騙って市場に大量に流すことにしたのだ。
数日後、王都の市場に並んだチェンバレン家特製のラベルが貼られたコンフィチュールは、またたく間に人々の手に渡った。
しかし、その結果は火を見るより明らかだった。
「なんだこれは! ただ甘ったるいだけで、果物の風味も何もないじゃないか!」
「プレザーブスタイルと書いてあるのに、果肉がドロドロの液状だ!」
「開けたら二日でカビが生えたぞ! チェンバレン家の品質管理はどうなっているんだ!」
粗悪品による名誉毀損。
王都の商人や顧客たちからの猛烈なクレームの嵐が、チェンバレン子爵邸に容赦なく叩きつけられた。
返品の山と、返金を求める督促状の束。
アレクシスは頭を抱え、「妻の腕が落ちたようだ」と必死に言い訳をして回ったが、もはや誰の耳にも届かなかった。
「……嘘だ、こんなはずはない。僕が外で宣伝して、価値をつけてやっていたんじゃないのか……」
アレクシスは震える手で、空っぽになった家庫の帳簿を見つめた。
彼が自分の手柄だと思い込んでいたものは、すべて砂上の楼閣だった。
彼を有能な若き経営者たらしめていたのは、彼の采配でも血筋でもなく、薄暗い厨房で彼に「泥臭い」と蔑まれながらも、ミリ単位の計算と労働を繰り返していた一人の有能な妻の腕だけだったのだ。
その事実を突きつけられた時、アレクシスの足元は完全に崩落し、彼は真の破滅という暗闇へと、真っ逆さまに落ちていった。
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