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第15話:解決策
「……低温で、風を当てて、水分を抜く?」
「ああ。これは俺が狩りの合間に作る保存食だ。直火だと表面だけ焦げるからな。燻製室で、煙と風の流れを調整しながら三日かけて乾かすんだ」
「風の流れ……、調整……」
セレスの瞳孔が開いた。
スプーンを飲み込んだまま、彼女はガバッと立ち上がった。
「それです!」
「うおっ!? なんだ急に!」
「乾麺のひび割れの原因は、乾燥速度のムラです! 私は温度管理ばかりに気を取られていました。重要なのは風! 層流による均一な脱水です!」
セレスはギデオンの両肩を掴み、揺さぶった。
「閣下! 燻製室の構造を見せてください! あの空気循環システムを乾燥室に応用すれば、栄養素を壊さずに水分だけを抜くことが可能です!」
「い、いいが……、まだ飯の途中だぞ!」
「食べている場合ではありません! ……いえ、食べます! エネルギーがないと動けませんので!」
セレスは再び口を開けた。
「さあ閣下、残りを最速で投入してください! ピッチを上げてください!」
「……お前なぁ」
ギデオンは呆れ果てた顔をしたが、その瞳は優しく笑っていた。
彼は高速かつ正確に、四五度の角度でリゾットを運び続けた。
二人の見事な連携により、鍋はあっという間に空になった。
一週間後。
ロックホールド領の広場には、完成したばかりの長期保存用乾麺が山積みされていた。
ギデオンの燻製技術を応用した乾燥室で仕上げられた麺は、美しい飴色をしており、叩くとカチカチと澄んだ音がした。
「これを茹でれば、いつでも採れたてのような食感が戻ります! 保存期間は、理論値で三年です!」
セレスが高らかに宣言すると、集まった村人たちから割れんばかりの歓声が上がった。
「三年だって!? じゃあ、もう冬の間に食い物がなくなる心配はねえってことか!」
「ありがてえ……! こんなに安心できる冬は初めてだ!」
「奥様万歳! 領主様万歳!」
涙を流して喜ぶ老人や、麺を大事そうに抱える子供たち。
その光景を見ながら、セレスは満足げに頷いた。
「課題解決です。これで冬のカロリー不足による死亡率は大幅に低下するでしょう」
「ああ。よくやった」
隣に立つギデオンが、ポンとセレスの頭に手を置いた。
「お前の知識と、俺の……、まあ、燻製技術の合わせ技だな」
「はい。あと、閣下の食事介助のおかげで、私の血糖値が維持できたことも勝因の一つです」
セレスが大真面目に言うと、ギデオンは顔を背けた。
「……食事介助ではなく、もっと違う言い方があるだろう。なんというか、その……」
「……え? あれは極めて合理的なリソース配分の最適化でしたよ?」
きょとんとするセレスに、ギデオンは深い深いため息をついた。
だが、その手はセレスの頭から離れようとせず、不器用に髪を撫で続けていた。
厳しい冬が来る。
しかし、この領地には温かい麺と、少し噛み合わないが、確かな信頼で結ばれた二人がいる。
どのような困難が訪れても、きっと二人なら乗り越えられることだろう。
「ああ。これは俺が狩りの合間に作る保存食だ。直火だと表面だけ焦げるからな。燻製室で、煙と風の流れを調整しながら三日かけて乾かすんだ」
「風の流れ……、調整……」
セレスの瞳孔が開いた。
スプーンを飲み込んだまま、彼女はガバッと立ち上がった。
「それです!」
「うおっ!? なんだ急に!」
「乾麺のひび割れの原因は、乾燥速度のムラです! 私は温度管理ばかりに気を取られていました。重要なのは風! 層流による均一な脱水です!」
セレスはギデオンの両肩を掴み、揺さぶった。
「閣下! 燻製室の構造を見せてください! あの空気循環システムを乾燥室に応用すれば、栄養素を壊さずに水分だけを抜くことが可能です!」
「い、いいが……、まだ飯の途中だぞ!」
「食べている場合ではありません! ……いえ、食べます! エネルギーがないと動けませんので!」
セレスは再び口を開けた。
「さあ閣下、残りを最速で投入してください! ピッチを上げてください!」
「……お前なぁ」
ギデオンは呆れ果てた顔をしたが、その瞳は優しく笑っていた。
彼は高速かつ正確に、四五度の角度でリゾットを運び続けた。
二人の見事な連携により、鍋はあっという間に空になった。
一週間後。
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ギデオンの燻製技術を応用した乾燥室で仕上げられた麺は、美しい飴色をしており、叩くとカチカチと澄んだ音がした。
「これを茹でれば、いつでも採れたてのような食感が戻ります! 保存期間は、理論値で三年です!」
セレスが高らかに宣言すると、集まった村人たちから割れんばかりの歓声が上がった。
「三年だって!? じゃあ、もう冬の間に食い物がなくなる心配はねえってことか!」
「ありがてえ……! こんなに安心できる冬は初めてだ!」
「奥様万歳! 領主様万歳!」
涙を流して喜ぶ老人や、麺を大事そうに抱える子供たち。
その光景を見ながら、セレスは満足げに頷いた。
「課題解決です。これで冬のカロリー不足による死亡率は大幅に低下するでしょう」
「ああ。よくやった」
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「お前の知識と、俺の……、まあ、燻製技術の合わせ技だな」
「はい。あと、閣下の食事介助のおかげで、私の血糖値が維持できたことも勝因の一つです」
セレスが大真面目に言うと、ギデオンは顔を背けた。
「……食事介助ではなく、もっと違う言い方があるだろう。なんというか、その……」
「……え? あれは極めて合理的なリソース配分の最適化でしたよ?」
きょとんとするセレスに、ギデオンは深い深いため息をついた。
だが、その手はセレスの頭から離れようとせず、不器用に髪を撫で続けていた。
厳しい冬が来る。
しかし、この領地には温かい麺と、少し噛み合わないが、確かな信頼で結ばれた二人がいる。
どのような困難が訪れても、きっと二人なら乗り越えられることだろう。
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